87.魔術基礎 実践-3
自陣の一番前線にまで五人とも出た。真ん中少し後ろにわたしが、あとはアレクサンドルが言った組み合わせで左右に立った。
角度を変えないと、アーマー全員は見えないな。
「ごめん、作戦変更。最初は向かって右側だけ集中して攻撃。その間に左手のアーマーに印をつける。合図したら逆側を一斉に。その後、後方を狙うから、前衛が下がらないように、満遍なく攻撃して引きつけて!」
「「「「了解」」」」
「制限時間は三分。三、二、一、開始」
バース先生の掛け声と同時に、わたしは水魔法で相手陣を浸してみた。しかし、人間ではなく単なる機械のアーマーは動揺することがないため、若干足場が悪くなっただけで普通に風魔法の攻撃を除けている。
まあ、ダメだとは思ったけど、一応試してみたかった。
一度だけ水魔法を放つと、その後は一体ずつに土魔法で小さな印を刻んでいった。これはアーマーのどこかに刻めばいいのだから、あれだけ大きな的なら間違いなく当てられる。
「逆側いくよ!」
わたしの掛け声と同時に、全員が反対側へと攻撃をかける。
「前衛完了!」
その瞬間にシンカーが前衛の半分を竜巻で隔離した。上手い!
しかし、それを見たもう反対側のアーマーが散開して、数が減った分を補おうと守備範囲を拡げ始めた。
それでも隙間があるから、後衛も簡単に印がつけられる。シンカー以外も、前衛が下がりすぎないように、アーマーの後ろ側へと攻撃を仕掛けて、前線を引きつけるようにしている。
その間に大将以外のアーマー全部に印を入れ終わり、地面に急いで魔法陣を描く。エスカベーション、地面を掘削するための魔法陣だ。掘削先は、先程入れた印のある場所。
完全掘削は無理だから、掘削して、原状回復との間を少し開けるよう、魔法陣にラグを作るよう指示を加えた。
「残り一分」
バース先生が、時間を告げた。
「行くよ!構えて!」
わたしのコールで、全員が攻撃魔法を止めて、次の魔法の準備態勢に入ったのを見て、わたしは魔法陣に魔力を流した。
「エスカベーション!」
その瞬間、十四体のアーマーが身体の半分くらいまで地面の下に落ちた。
「今!」
四人が、一斉に火魔法を大将に向かって放つと、無防備になったアーマーはひとたまりもなかったようだ。
パキーン、という音とともに、的である魔石が破壊された音がした。
それと同時に、床に空いた穴も自動修復されて、他のアーマーが床上に戻ってきた。
「はやっ」
さすがは魔術訓練用の場所だけあって、最大限の土魔法でエスカベーションしたが、やはり二秒と保たなかった。他の皆の攻撃力があってよかった。
「うおおおおー! やったぞ!!」
クラスメイトは興奮状態だ。アレクサンドルをはじめとしたチームメイトも、肩を叩いて喜んでいる。
「流石だな、アウローラ嬢。この訓練場で、土魔法を行使できた魔術師を初めて見たぞ」
シンカーも驚いている。
「相手からの攻撃がない、特殊な状況だから通用したけどね」
わたしも苦笑いしながら言った。全く戦術無視なことはわかっていたが、手も足も出ないのは悔しいからね。
バース先生がこちらに向かって来ながらわたしに質問した。
「戦術を無視しているとはいえ、よくやった。しかし、なぜ最初に風魔法と水魔法で攻撃した? これであれば、最初から何もしないで、アウローラの準備が終わったら、攻撃するだけで良かったのではないか?」
「確かに。なんでだ?」
チームの皆も、言われてみれば、というような顔をして首を傾げている。
困った。実は、理由らしいものは特にないのだ。やってみてどうなるか見てみたかったくらいに近い。
「いえ、あの、どうなるのか試してみたかったのと、アーマーがバラけていないと全部に印をつけられなかったし。まあ、あとは立ったまま印を刻むのだけだと見てても、迫力がないから悪いかな、って」
わたしの説明に、バース先生が呆れた顔をした。
「最小限の火力で勝つのが一番だ。次回はそんな余計なことは考えなくていい。今の奇襲攻撃は、アウローラの魔術と魔力量があってのものではあるが、実際の戦となれば持てる力は全て活用すべきだから問題ない。しかし、本来はそういうことを教えるために、この試技をやらせたわけではないが」
バース先生はそう言うと、わたしの方をジロリと見た。
「戦術がなければ、どんな火力があっても意味がない、ということを学ぶはずだったが、圧倒的な火力があれば何とかなることもある、という見本だな。しかし、これは相手からの攻撃がない、というイレギュラーな環境下だから成り立った。いいか、本来は、司令塔からの指示通りの攻撃ができるかどうかが、まずはお前たちに求められることだ。そういう意味では、アウローラの指示通り、最大火力で同時に大将を狙って倒した、という点はお手本になるな。しかし、これからの練習では、しっかりと的となる魔石だけを狙うぞ。それができてこそ、司令官の指示通りの攻撃ができるというものだ」
はい、先生。確かにそうです……
それから残りの時間は、近距離から止まって魔石を狙う、少しずつ距離を伸ばした後は、移動してから狙う、という反復練習だった。
意外と難しいのは、移動してから止まって狙う、の動作だ。普通、そんなことを連続してやることがなかったからね。
これは、シュバリエに所属している生徒たちは、近距離かつ得意魔法だったらできるようだった。
一方で、マドレーヌを除く女子生徒は、全員これがダメだった。
「む、難しい……」
わたしが、近距離でも外しているのを見たランセルが、「頭が上下しすぎるからだよ」とアドバイスをしてくれた。
上手な生徒を見ると、確かに上下運動がない。
「なるほど」
コツはわかった。走る、止まる、魔法を打つ。これをなるべく滑らかに。
うーん、やっぱり連続するとダメか。
これは、根本的に考え直さないと。
どうせわたしは魔法騎士にならないんだから、とにかくいざって時に攻撃して当たる訓練をすればいい。
「あ、そうか」
さっきの土魔法と同じだ。先に、マーカーをつければいいんじゃない?
魔法陣ではなく、自分の魔力が引き合う感じのイメージで……
「よし!」
見る、マーカーつける、走る、打つ!
しっかりとマーカーをつけた魔石に当たってはいるが、打つタイミングがどう見ても遅い。わたしの魔法の軌跡が、曲がって戻るようになりながら魔石に当たっていった。
「わーい! 全的だ!!」
走り抜けながら、十体連続で魔石にヒットできたと喜んでいるわたしを、バース先生がジロリとまた睨んでいた。
「アウローラ。お前、マーカーをつけながら走ったな」
「え、はい。そうしないと、当たらないです」
「……そういう訓練ではないのだが」
「でも、わたしは魔法騎士にはならないので、自分の魔術を最大限活用した方が効率的では?」
わたしの説明にバース先生は頭を抱えていたが、しばらくして立ち直ったようだ。
「まあ、いいだろう。確かに、実践という意味では、自分が戦えるような戦法を身につけることが大事だ」
その後は、シンカーにどうやってマーカーをつけるのかを質問されたり、シルヴィアから「騎士の心得のない女子生徒は、どういう戦い方を考えるべきか」と相談されたりしながら、授業を受けていた。
シルヴィアは魔力量が多いから、火力で押し切るのが正解だと思う。
遠回しにそう言ったら、本気にして、最大火力でアーマー全体を炎で包んだのには驚いたよ。
正直、シュバリエ所属の全員が、衝撃受けてた。
シルヴィア、そこで「こんな感じかしら、うふふ」って微笑んでも、みんなの腰が引けてるよ。
わたしたちの、何でもアリな攻撃を見ながら、バース先生は言った。
「……今年の一年生はやる気も魔力もあるようだ。次回からは、敵からの攻撃を避けながら攻撃する訓練も取り入れていく。練習着に簡易アーマーをつけてくるように。では、終了」
やりすぎだったかな?




