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86.魔術基礎 実践-2

 訓練場には、銀色のアーマーをつけた人形が十五体あった。

 基本となる一番奥に大将が、その周囲に護衛役と遠距離魔法の担当、そして前方に攻撃陣が並んでいる。

 そして、その横には見たことのない先生がいた。

 もの凄く大きい。身長もだが、筋肉が全身についていることが、騎士服の上からもよくわかる。そして、左頬に古い傷跡があり、まさに歴戦の戦士といった感じだ。


「あ、ジェネラルだ」

「ジェネラル?」

「シュバリエの顧問をしている先生のあだ名だ。本名は、サイモン・バース先生。もしかして、ここでスキルチェックされるのか」

「いや、もしかしたら指導を受けられるのかもしれないぞ」

 シュバリエに所属している生徒たちが興奮したようにひそひそ話している。


「皆さん、こちらにいらっしゃるのは、魔術応用で、特に魔法騎士の授業を受け持っていらっしゃるサイモン・バース先生です。シュバリエに所属している方はよくご存知ですわね。今回の団体戦を充実した大会にするためには、中等部一年生の皆さんも、ある程度の基礎が身についていることが必要です。基本的な隊としての動きを学ぶために、後期の授業をサポートしてくださいます。

 では、バース先生、お願いしますわ」


「サイモン・バースだ。サーペント先生から理論としての基本的な戦術は聞いたと思うが、実践でその通りに動くというのは全く別物だ。素人同士が試合形式をしても全く意味はない。まずは、移動するこの訓練用アーマーの魔石に遠距離から攻撃魔法を当てる練習からだ。その上で、このアーマー側からも攻撃魔法が繰り出される中で、防御しながら魔石に当てる練習に移る。個人スキルの上達と、チームとしての動き方、両方が求められると思え」


 バース先生が生徒を五人呼んだ。全員、シュバリエ所属者だ。基本的な動きをわかっているという前提だろう。

「大勢だと、誰が何を狙っているのかわからなくなるからな。まずは五人からだ。移動は自由にしていい。アーマーも動くが、基本は防御に徹しているという前提で、自陣1/3より前には出てこない設定だ。お前たちも自陣からは出てはいけない」


 五人が一列に並び、攻撃魔法の構えを取る。

「制限時間は三分。三、二、一、開始」


 そこから、五人が可能な限りの精度で得意な攻撃魔法を繰り出した。しかし、各人の判断で繰り出したため、味方の風魔法で方向が狂ったり、火と水が打ち消し合ったりと、非常に効率が悪いことが、素人のわたしにもわかる。

 ……なるほど、これが戦術も指示もなく攻撃した場合の見本か。


「残り一分」

 バース先生が時間を刻む。

 しかし、さすがにこの状態を見たアレクサンドルは、見学ゾーンから指示を出し始めた。

「ウォーカーとディーンは、遠距離魔法で後方護衛を崩せ! フィル、クロード、ライアン、相手から攻撃がないとわかっているのだから、前線まで出て相手前衛を一人ずつ潰せ。後方大将までのスペースが空いたら、遠距離魔法に切り替えだ」

 アレクサンドルの言葉に、五人が従い動き始めると、ある程度狙いが定まってきたようだ。あとは、個人の技量次第だ。


「三分。そこまで」

 しかしながら、一体も倒せずに終わった。アーマーも攻撃を除けるからね。


「次は、アレクサンドル、リカルド、ジャスティン、シンカー、アウローラ」

 え、このメンバーの中に入るの? わたしシュバリエじゃないよ?

 しかし、クラスメイトたちは「とりあえず、一年生の最大火力でやってみろってことだな」と納得している。

 最大火力……そういうことか。いや、いいのかそれで?


「先生、作戦会議をさせてください」

 アレクサンドルが言うと、バース先生は頷いて「五分だ」と言った。


 訓練場の自陣側に集まると、アレクサンドルが口火を切った。

「全員、火の遠距離魔法攻撃で護衛だけを狙うのはどうだろう」

「いや、アレク。多分、全アーマーが最後方にまで下がって更に固い防御の陣を引かれて終わるか、大きく移動されるだけだぞ」

 リカルドが考えるように言った。

「まずは、戦線を前方に上げて、後方はそのままにするのはどうだ?」

「三分しかないのに? 後方が無傷だったら無理じゃないか?」


 わたしは先程の一戦目を見て考えていた。

 まずは、陣形を崩さないといけないと、理論で習った。短時間の決戦なのだから、奇襲で陣形を崩した瞬間を狙って大将を倒すしかない。

 しかし、今回は相手陣に入っての奇襲ができない。となると……


「二分あれば、陣形を崩すための土魔法の準備ができると思う。合図をしたら相手陣の地盤を崩すから、陣形が崩れた瞬間に、全員が大将を狙って攻撃魔法を打ち込む。遠距離で四人の精度が一番高い攻撃魔法は?」

 わたしの質問に四人が顔を見合わせた。

「多分、火魔法だな。シンカーは風魔法の方が得意だが、それだと他のメンバーの精度がかなり落ちる」

「じゃあ、合図までは風魔法を広範囲で使って、少しでも陣形を崩す。わたしから死角になるアーマーを作らないようにするのと、打ち消し合わないように気をつけて。わたしは、その間、土魔法の準備をするから。準備完了の声をかけたら、風魔法を止めて、火魔法を奥に打ち込む準備を。土魔法で相手陣が崩れるのは、短い時間だろうだから、その崩れた隙に、大将に向かって火魔法を打ち込んでみて」


「待て。相手陣全体の地盤を崩すような土魔法ができるのか? というよりも、この屋内訓練場で土魔法が通用するのか?」

 アレクサンドルが遮った。

「多分。でも、全体じゃなくて、アーマーがいる周辺地だけだよ?」

「いや、それはもっと大変だろう。十五体もあるんだぞ?」

「だから二分使って、大将以外のアーマーに印をつけるよ」

「? よくわからん。シンカーわかるか?」

 アレクサンドルが目を白黒させて仲間の方を見た。

「理論的にはね。ただ、魔術行使できるかどうかは別だ」

 シンカーが呆れたように言った。

「アウローラ嬢、この訓練場はかなり強力な原状回復魔術が掛かっている。それでもいけそうか?」

 なるほど、確かにどんな魔法を打ち込んでも傷がつかないもんね。

 わたしは、床に手を触れて解析魔法を流してみた。うん、確かに強固だ。

「回復魔術を壊すのではなく、少しだけ回復が遅れるようにする。だから時間は一秒とか二秒しかない。その一瞬で大将を狙って攻撃するしかない」


「時間だ」

 バース先生が作戦会議終了の声を掛けた。

 アレクサンドルが全員を見渡して言った。

「よし、やってみよう。シンカーの方が器用だから、わたしと組んで上手く合わせてくれを。ジャスティンとリカルドで一組だ。いいな」

「「「わかった」」」

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