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82.新聞部での打ち合わせ-1

 放課後、久しぶりに新聞部の部室へ向かう。

 念のため、プーは寮の部屋で待機だ。取材好きなジェイソンに捕まると色々質問されそうだし。

 プーも、「ちょっと疲れたにゃ」と、部屋で植木鉢の世話をすると言っていた。いや、あれは絶対、昼寝だね。

 でも、教室デビューはそれなりに疲れただろうから、ちゃんとお茶とおやつを用意してあげてから新聞部へ向かった。嬉しそうにゴロゴロ言ったりお茶を飲んだりしながら、植木鉢に向かって「おやつの歌にゃん」と歌ってあげていたから、まあよしとしよう。


 コンコン

 ノックをして部室の扉を開けると、そこには部員全員が揃っていた。

「こんにちは。今年も宜しくお願いします」

 わたしが挨拶しながら部室へ入ると、皆が口々に新年の挨拶を言いながら、席を空けてくれた。

 机の上には、色々なお菓子が並んでいる。見たことのないものもあるぞ。

「うわあ、どうしたんですか、これ?」

 わたしがあまりに興奮しているのを笑いながら、エスメラルダがお茶を淹れてくれた。


「それぞれの地元のお菓子よ。ほら、こちらはシノブ様が持ってきてくださったヒノモト王国のお菓子。豆を甘く煮たものを挟んだパンケーキと、玉露の味がするケーキですって」

 エスメラルダの横にいる、漆黒の髪の毛と瞳をした、少し中性的な雰囲気の生徒が頷いた。

「アウローラ嬢は、ヒノモト王国の文化に興味を持っていたからな。姉のユキノがあれこれ持たせてくれた」


 このシノブ・アヤノコウジは、リュシエンヌ様と仲の良い、あのユキノ・アヤノコウジの双子の弟だ。怜悧な顔立ちと細身だが隙のない身のこなし、そして異国情緒たっぷりの雰囲気と口数の少なさで、黙っていると寡黙な麗人だが、スイッチが入ると別人になるらしい。わたし自身は、まだその変化は見ていない。先輩たちには「いつか見ればわかるよ」と疲れたように言われているだけだ。


 早速、ヒノモト王国のお菓子をいただきながら、皆さんの名産品の説明を聞いた。

 玉露の味がするケーキは、苦みはなくて、上品な甘みと玉露の香りがする初めて味わうものだった。パンケーキも「黒糖を使っているからコクがある」という説明を聞きながら、しみじみ味わった。うまうま。

 渋めの紅茶ととてもマッチする。「緑茶を用意できなくてごめんなさいね」とエスメラルダに言われたが、全く問題ない。


「すみません、わたしも何か持ってくれば良かったです」

 部屋に戻れば、シルキー手作りのお菓子が一杯あるから、取りに行こうと思ったが、「いや、今日は十分あるからまた次回で」と言われてしまった。

 でも、こうやって、休暇明けに皆でお土産を交換したりもするんだね。楽しいなあ。

 ジェイソンは、「俺は皇都出身だから、何も珍しいものないんだよな」と言って、部室で皆が飲めるように大量のコーヒーを差入れしてた。

 でも、一番消費しているのは、部室に一番入り浸っているジェイソンなんだけどね。


 ひとしきり休暇でのあれこれを話すと、キャメロンがパンパン、と手を打った。

「さて。せっかく全員が集まっているから、今年の定例発表会について少し相談したいと思う。

 休暇前に軽く相談したが、今年は学院としても特別イベントを実施しようと思っているらしく、新聞部もそちらに合流してくれないかと言われている」

「特別イベントですか? 他にも準備があるので、私はあまり貢献できないかもしれませんが」

 心配そうに聞いてきたのは、高等部一年のクインシーだ。彼は挿絵を描くのが得意で、美術部と掛け持ちしている。というか、美術部がメインだが、本来は油絵とかよりもイラストを描くのが好きらしく、新聞部でその力を発揮しているらしい。

「美術部は、作品展示がありますものね」

 エスメラルダが頷きながら言った。


「大丈夫だ。まず、第一に私たちには、定例発表会の取材という大事な仕事があるからね。そこに影響を及ぼすようなイベントは無理だし、部員には新聞部以外の活動があることも理解しているよ」

 キャメロンが安心させるように言った。

「だから、生徒会との共催イベントとはいえ、実質は新聞部としての得意分野でサポートする感じだね」

「あら。お忙しい生徒会が、特別なイベントを他の部と共催するのを了解したなんて。美味しいところだけ持っていくなんてことはないでしょうね」

「まあまあ、イヴォンヌ。話を聞いてからにしようよ」

 カオシュンか宥めるように言った。


 キャメロンの説明によると、今回の生徒会・新聞部の共催イベントの枠組みはこんな感じだ。

 定例発表会の一つの大きな目的は、卒業を控えた高等部二年生の実力発表会みたいなものだ。これは、純粋に魔導具や研究発表の場でもあり、芸術系の課外活動は、作品展示の場となる。

 アイリス交流会のようなところは、大掛かりなお茶会を催し、その芸術性からおもてなしの力量などが高位貴族の奥様方の鋭い目でチェックされるわけだ。


 また官僚を目指す者にとっては、そのマネジメント力を示す絶好の機会でもある。

 クラス委員は実行委員も兼ねていることから、生徒会の下、学院全体のイベントを運営する力量を見せ、その企画力、推進力、アクシデント発生時の対応力などを見られている。


「今年はフェリクス殿下が高等部二年に在籍しているだろう? まあ、側近たちとしては殿下の力量を見せたいところだし、同時に周囲は殿下の力を借りて、通常とは違うイベントを開催することで、自分たちの力もアピールしたいわけだ」

「実も蓋もない言い方ですわね」

「無意味な権力の行使は反対だが、今回のように正しい方向なら、私は賛成さ。この休暇中にフェリクス殿下を始めとした生徒会が働きかけた結果、今年の騎士系のイベントは個人戦ではなく、団体戦で行われることになった」


 キャメロンの言葉に、全員が驚いていた。

「よく、それが通りましたわね!」

 エスメラルダが言うと、他の部員が一斉に頷いた。

「あのーなんで、それが大変なことなんですか?」

 わたしの疑問に、一番の情報通のジェイソンが説明してくれた。


「騎士戦は、武官希望の生徒にとって、一番の見せ場なんだ。そうなると、武官希望の生徒は全員挑戦したいだろう? 個人戦ならそれが可能だが、団体戦になると出場選手が限られるし、役割によっては地味な可能性もある。

 騎士団に入るということは、個人の能力は基本だが、それ以上に団長の指示の下、求められた役割を全うできるのかが必要になってくる。そのため、高等部で魔法騎士のコースを選んだ場合は、戦術を学ぶんだが、全員が司令官をやりたがるから、実際の連携はお粗末なんだよ。だから、団体戦をもっとやるべきだって話が出るんだが、個人の見せ場が減るということで、これまで実現してなかったのさ」

 納得だ。将来、武官のトップを夢見る生徒が、一兵卒の役割をやりたがることはないよね。そして、誰だって当日活躍したいよね。


「個人戦なら誰でも出られると言いますけれど、結局、定例発表会当日の本戦に出場できるのは、トップ十名のみでしょう? それよりは団体戦の方がより多くの騎士が参加できるのでは?」

 イヴォンヌの冷静な指摘にキャメロンが苦笑した。

「それでも、『もしかしたら本戦に出られるかも』という希望を捨てたくはないものだよ」

「現実を見るべきですわね」

 相変わらず、イヴォンヌ先輩は厳しいです!


「でも、その騎士系生徒のイベントに、どう新聞部が関わるんですか?」

 クインシーの質問はもっともだ。わたしも不思議だった。

「生徒会からの要望は、団体戦を盛り上げるための、事前の取材と記事化だな」

「あ、なるほど」

 キャメロンの説明に、ジェイソンはすぐ納得がいったようだ。


「どういうことかしら」

「新しい取り組みだからこそ、生徒たちがその面白さをわかるように、事前にルールや出場チームの特徴なんかを新聞部から発信してほしい、ということですよね、キャメロン様。本音は、団体戦のほうが個人戦よりもいい取り組みだと生徒達が納得できるように、正しい情報を早急に広めてほしい、というところでしょうけれど」

 ジェイソンが、面白そうだという顔をして確認をとった。

「ああ。そういうことだな。レベルの問題があるから、出場選手は高等部がほとんどだ。しかも、十五名で二チーム作るとなると、高等部の騎士志望だったらほとんどが出場可能だ」

「あれ。それよりも、高等部全員でも四十八名ですよね? そのうち三十名が出場となると、騎士志望以外も出るということじゃあ?」

 クインシーが青ざめた。美術部に所属しているというくらいだから、騎士部門の催しには全く興味がなかったのだろう。

「安心していい。中等部二年までは、シュバリエに所属している場合、出場可能にするつもりだとフェリクス殿下が言っていた。そのあたりの詳細はまだ詰めている最中だそうだ」

 クインシーとジェイソンの二人が、ほっとした表情になった。この二人は、まさに文官専門で、荒事は全くダメだと最低限の単位しか取っていないらしい。


「逆に、中等部一年のシュバリエは、何で出られないんだという話になりそうだな」

「ああ。だが、まだ授業で攻撃魔術も防御魔術も習ってないからな。個人的に訓練している者がいたとしても、正しい基礎を習ってなければ連携ができないさ。来年以降のお楽しみだ」

 キャメロンがそう締めくくった。

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