76.新学期スタート! の前に
第5章スタートです。
「アウローラさん!」
転移陣部屋に入ると、シルヴィアが嬉しそうに声を掛けてきた。
部屋には、すでに多くのクラスメイトが集まっていた。
「新年、おめでとうございます」
わたしが、挨拶をすると、周囲の皆も口々に「おめでとう」と声を掛けてくれた
そして、皆がわたしの足下にいる子猫に気がついた。
「あら、子猫? 学院へ連れていらしたの?」
「うん。ちょっと事情があって、連れてこないといけなくなったの。大人しいから大丈夫。ね、プー」
にゃあん、と返事をしてスリスリとわたしの足下にくっついて座る子猫を見て、クラスメイトは大興奮だ。
一斉に触ろうとするのに驚き、「ぶにゃっ」と言って、わたしの腕の中に飛び込んできた。
そのまま肩に上がり、尻尾をわたしの首に回すようにして警戒ポーズを崩さない。
「ごめんね、人が多くて驚いたみたい」
「いいえ、ちょっとはしたなかったですわね」
ほほほ、と笑いながら皆は手を引いたが、目は子猫から離れない。
「プーって呼んでるの。ちょっと偉い人から預かってて、あちらに置いていくわけにはいかなかったの」
……妖精王からのお預かりだからね。間違ってはいないよね。
「まあ、そうなんですね。そういえば、なんとも高貴な姿ですわ」
それは……微妙だが、そういうことにしておこうっと。ちょっと苦笑いだ。
プーは得意げな顔をしている。お世辞だよ、お世辞。
学院へ向かうのも二回目となると、皆、慣れたもので、寮に到着するとさっと部屋へ向かった。
わたしも、プーを肩に乗せたまま、自分の星読み専用屋根裏部屋へと向かう。
カードキーを壁に当て、階段を出すと、プーがピクッとしたのがわかった。
尻尾がぴろろって動いてくすぐったかったからね。
「プー、ここがわたしの部屋だよ。日中は授業があるから、ここで過ごすことになるけど、大丈夫? ゴンザレス先生に会ったら、庭とかに出していいか確認するけど、気をつけないと色んな先生がいるからね。間違って捕まらないように、学院内に周知してもらってからがいいかな。いずれにしても相談してみないとね」
プーは部屋に入ると、羽つきの二本足立ちというケット・シーの姿に戻り、わたしから植木鉢を受け取った。
「にゃー。教室に一緒に行ったらだめにゃ?」
「許可がないとダメだろうね。それも確認するから、それまではここで大人しくしててね」
「にゃあ。つまんないにゃ」
わたしが鞄から荷物を出していると、プーは植木鉢を持って、部屋をウロウロし始めた。
「一番、お月さまの光があたるところに置きたいにゃ」
「そうなの?」
「お日さまの光よりもお月さまにゃ」
ほうほう。それは、星読みにとっては相性が良さそうな植物だ。
「それじゃあ、窓際にある勉強机の上に置いていいよ」
「ありがとにゃ」
いそいそと植木鉢を机に置くと、上から綺麗な白い布を掛けた。
「なんで布?」
「今はお休みタイムにゃ。夜になったら起きるから、月光浴させるにゃ」
「ふうん。ちゃんと観察して、変化があったら教えてね」
「まかせるにゃ!」
張り切り具合がなかなかよろしい。
せっかくだから、日中被せる布には、安眠のための刺繍をしてあげよう。プーにそう言ったら、「寝る子は育つから、いい考えにゃ」と喜んだ。
植木鉢の世話はプーに任せて、わたしは鞄から荷物を取り出してクロークにしまったり、サン・マンから借りてきた本を並べたりした。
結局、北の極には行けなかったが、サン・マンのところにも面白い本が色々あった。聖女関係についても、古い学術本があったので借りてきた。あとは、「学院生活の参考だ」と言って渡された小説。確かに、サン・マンの推薦図書は日常生活で役に立つ。課題図書としてちゃんと読もう。
それから溜まっていた自動観測の結果を簡単にチェックしてから用紙を補充、っと。
やはり、ディレクトラ大帝国の北側を東へ向かって移動していたようだ。
「ふむむ」
このままだと、大帝国の東の端に到着しそうだ。海に出たりするのかな? でもサン・マンは大陸からは出て行かないって言ってたよね。
予測のしようがないので、観測結果はとりあえずしまっておこう。
「さて。荷物も片付いたし、お茶にしようか。紅茶を淹れるけど、プーも同じでいいかな?」
「いいにゃ! おやつもおやつも」
お湯を沸かしてお茶を淹れながら、おやつは何にしようかと考えた。
「今日はビスケットかな。そういえば、シルキーが聖夜のために作ったジンジャークッキーの出番がなかったから、たくさん持たせてくれてたね。あれにしよう」
人や星、樅の木、鈴など色々な型で抜いたジンジャークッキーが大量に入った袋を取り出した。
シルキー、どんな量を作ったの?
プーと向かい合ってお茶をしながら、植木鉢の世話について話を聞いた。
星の寝床ではあまり時間がなく、北の極から種を取り寄せた後は、妖精たちに任せて準備を整えて貰ったのだ。
「コホン。では、この種の世話について説明するにゃ」
プーがちょっと真面目な顔をして説明をし始めた。
「月の光が大切なのと同じくらい重要なのは、適切に魔力を注ぐことにゃ」
「そうなの?」
「魔力は肥料と同じだからにゃ。月の光はお日様の代わり。あとは、歌だにゃ」
「歌?」
「そうにゃ。毎日、ちゃんと歌ってあげないといけないにゃ。わし、歌も上手だからにゃ」
「へえ。そうなんだ」
「おばあさんの庭でも、毎日、おばあさんと一緒に歌ってたにゃ」
そう言うと、プーはため息をついた。
「おばあさんは歌の上手な魔女だったにゃ。たくさん、たくさん歌って、あの庭の花を咲かせてた。だから、あの庭の薬草はいつも上等で、おばあさんが作る薬は奇跡の薬と呼ばれるくらいすごかったにゃ。わしもそのお手伝いで毎日歌ってたにゃ。上手だってほめてくれたにゃ」
プーの目がちょっとうるうるしていた。
「じゃ、歌ってみて」
わたしが、パチパチパチと手を叩くと、プーは目をくしくしとこすってから、エヘン、と喉を整えて歌い出した。
やまのおくの、そのまたおくに
だれもしらないくにがある
だれもしらないひとがすむ
だれもしらないはながさく
プーの歌声は、まるで春の野原でのんびり横になって、ブンブンというハチの羽音を聞きながら、うとうとしているような気分にしてくれた。
「すごいよ、プー! こんなに上手だなんて」
歌い終わってしばらくはぼんやりと余韻に浸っていたが、我に返ってから絶賛してしまった。
しかし、プーの顔は晴れない。
「うーん……でも、やっぱりここだとちょっと力が足りないかも」
やはり、あの森の中は特別だったのだろう。星の寝床も、古い力に満ちた場所だ。
「レッジーナ学院も、何かしら力のある古い場所だとは思うんだけど。歴史ある学校だっていうし、相当古い場所なんだけどね。ブラウニーたちがたくさん住んでいるくらいの」
「自然の気が足りない気がするにゃ。わしも外に出て、少しでもここの力を取り込んでおいた方がいいかもしれないにゃ」
「じゃあ、あとでお散歩に行ってみよう。でも、先生に聞いてみるけど、それまではわたしと一緒じゃないと、外はダメだよ」
「わかったにゃ」
外へ行くと聞いて少し元気を取り戻したプーが「えへん」と言いながら姿勢を正して言った。
「次はアウローラも歌うにゃ。歌いながら魔力を込める練習にゃ」
「げ。わたし、あんまり歌知らない……」
「わしが教えるにゃっ!」
そこから一時間、歌いっぱなしで疲れた。
さらに、お散歩に出て、自然の気を取り込むというプーに引っ張られて、寮の裏手にある小さな丘へ行ってみることになった。
第5章のキリの良いところまでほぼ書けたので、一日一話ずつ投稿再開します。
宜しくお願いします。




