表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/114

75.【幕間】なんだよ、あれ

 ぴかぴかぴか

 音声転送魔導具が光っている。アウローラを見送ってそろそろ寝ようと思ったサン・マンは、何事かと思って見たが、セントラルからということがわかると、面倒くさいという顔をしながら応答した。


「何?」

「なんだよ、あれ!」

 だと思った。ケット・シーを見たジェロームが連絡してこない訳がない。

 そう思いながらも、意地悪く聞いてみた。


「あれって何のことだよ」

「お前、わかってて聞いてるだろう。プーだよ」

 プー。ケット・シーにプーなんて愛称つけるなんて、と笑いが止まらなかったことを思い出して、また吹き出しそうになった。

「プーな。うん、妖精王から押しつけられたやつ」

「あんなの、アリか? よく西の最果ての島から出したよな」

 そうなのだ。白い森が消滅し、緑の森もすでにその姿を変えて、普通の大森林として、大陸や島々の中にその片鱗を残すのみになった現代に、妖精はこの島にしかほとんどいない。

 それ以外の場所にも多少はいるだろうが、人間の前に姿を出すことはない。

 それを、半従魔に近い状態で、人間につけて島から出させるなんて、異例もいいところだ。


「俺の方が聞きたいよ」

「アウローラから経緯は聞いたが、その異常さまではあまり理解してなさそうだったな」

「それは仕方ないだろう。俺たちと違って、妖精が人間界から撤退して、隣人としての関係を絶っていった流れを経験してないからな。ここだけじゃなくて、レッジーナ学院にもまだブラウニーがいるから、人間のお手伝いをする妖精がいるもんだ、と認識している可能性はあるな」

「確かに一部の妖精は、人間好きだったり、趣味的に人間界で働いていたりするが、そもそも妖精王は違うんだろう?」

 ジェロームの言葉に少し考えた。


 確かに、妖精王は人間が妖精郷に入らないように厳しく管理している。

 そして、妖精に対して危害を加えることがないよう、様々な手段で監視しているし、守られなかった場合には命をもって償いをさせるくらいには容赦がない。

 だが、人間を嫌悪しているか、と言うとそうではないと思う。

「いや、違う理で生きているだけで、好悪はまた別だと思うぞ。本来はな」

「人間に対してネガティブではない、ということか?」

「そうじゃない。彼らの理に合えば、共存できるということだ」

「共存ね。アウローラの存在は、彼らにとって望ましいということか」

「望ましいのか、何かの鍵なのかはわからないが」


 自分で言いながら、少しすっきりしてきた。

 そうだ。アウローラが特殊なのだろう。

 自分は、チェンジリングとして妖精郷で育った。そのため、彼らの理を理解しているし、だからこそゲートキーパー的な役割も持たされているのだろう。

 しかし、アウローラは全く妖精の理も理解していないし、その方面の知識もまだまだ足りない。

 しかし、妖精王と女王の信頼をあっさりと得ているのだ。


「アウローラはどういう素性なんだろうな」

「なんだ、サン・マン。今更の質問だな」

「それが、かなり重要なことなのかもしれない」

「マスターもそう思っているんじゃないか? 大体、私たちの誰一人として星読みをしても氏素性がわからない赤ん坊っていうのも、変だろう?」

「……本当にマスターでもわからなかったんだろうか」

 サン・マンの疑問にジェロームが焦ったような声を出した。

「おいおい、そこから疑いだすのか?」

 しかし、サン・マンの心の中に、これまで思いもしなかった疑問が湧いてきた。マスターはアウローラが拾われた頃から、何らかの予兆を見いだしていた可能性はないのか?


「最初に星読みをしたのは、まだ赤ん坊の頃だろう? アウローラが長命種かどうかもわからなかったし、単なる捨て子だと思って星読みをしたじゃないか。それなのに、マスターがその結果を秘匿するような理由があるか?」

 ジェロームの疑問を聞きながら、サン・マンはもう一度考えた。


「いくつか根拠はある。まず、シリウスたち霊獣フェンリルに拾われたという点で、普通じゃない。場所も北の極だぞ。普通の人間がたどり着ける場所じゃない。

 次に、俺たちが星読みしても何の手がかりも得られなかったという事実だ。それ自体、何らかの魔法が掛けられた赤ん坊、つまりいわく付きの生まれの可能性が高い。

 最後に、あの外見だ。銀髪に夜明けの橙と薄桃色がかった紫色の瞳なんて、普通じゃない。

 マスターが、何かを察して念のため秘匿したとしても不思議はないぞ」


 ジェロームはサン・マンの言葉を吟味した。

「そうだとして、アウローラは一体何者なんだ?」

「それがわかれば苦労しないよ」

 サン・マンはため息をついた。

「いいか。ケット・シーは比較的、人間に慣れる妖精だ。特にプーは、元々魔女と一緒に暮らしていたくらいだから、人間好きなんだろう。しかし、それでもあそこまで懐くのは異常だ。絶対、何かしら絆を持っている」

「絆?」

「ああ。因果というのがもっと近いかな。何かありそうな気がして嫌だな」

「そんなに気になるのか? 単に妖精が懐いたから観察できると喜んでたんだが、要注意案件だったのか」

「はー、ジェローム。お前って、あんなに注意深いのに、意外と楽観的だな」

「逆に、緩いサン・マンがここまで警戒しているのが意外だったよ」

 ジェロームの引きつった顔が見えるようだ。


「俺は、妖精の気紛れさをよく知っているから、妖精が絡んだときは、決して気を緩めない。あいつら、面白いというだけで、平気で大事件起こすこともあるし、逆に大変なことになりそうなときに、さらっと解決してくれることもあるからさ。最悪の事態を想定しておいて、何も起きなければ幸運だったな、っていうくらいにしておかないと怖すぎる」

「わかったよ。俺も注意しておく」

「ああ。プーについては、とりあえずアウローラと一緒なら大丈夫そうだが、変な方向に暴走しないことを祈るだけだな」

「……おいおい、やめてくれよ」

「とりあえずは様子見だな。じゃあ、何かあれば連絡するよ」


 そこで魔導具を切った。

 ケット・シーについてあれこれ質問されるのが面倒だったこともあって、少し盛って話をしたところはあるが、根本的に心配していることに変わりはない。逆に、ジェロームと話したことで、自分が漫然と感じていた疑問や不安の源がはっきりした気がする。

「マスターがどのくらい秘匿しているか次第だよな。教えてくれないからなーあの人」


 そう呟いて、ぐっと伸びをした。

 さあ、兄弟子からの面倒な電話も流したことだし、性格が合わないケット・シーもアウローラと一緒に学院へ行ったし、今日はゆっくり休もう。

 冬至から年明けまで、全然休めなかったんだ。気になることは色々あるが、今やるべきことはない。

 サン・マンは、後片付けをシルキーに任せると部屋へと戻った。

これで第四章が終了です。第五章はまだ途中。書き上がり次第、投稿再開します!8月には再開したいです……読んでくださっている皆さま、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ