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74.休暇の終わり

 妖精に振り回されているうちに、休暇が終わってしまった。

 大事にならなかっただけ、良かったんだろうけど、休暇中にやろうと思っていた聖女伝説の調査だとかは全くできなかった……まあ、休暇だし、いいか。

 そんな中で、シルキーにお願いして、お菓子をたくさん用意してもらったのを、時が止まる収納魔法のバッグに入れて、学院に持って帰れるようにした。これで後期のおやつの準備は万端だ。星の寝床で頑張った特典だね、これは。


「じゃあ、レッジーナ学院に戻るね」

「忘れ物はないな?」

「うん」

「プーは、ちゃんと種を育てろよ。あと、レッジーナ学院で問題を起こすな」

 わたしの横で、種を埋めた植木鉢を持って立っているケット・シーのプーを睨みながらサン・マンが言った。

「大丈夫にゃ。ちゃんとやるにゃ」

 プーもキリっとした顔で返事をしているが、どうにも胡散臭いのは変わらない。


「シルキーたちもありがとう。また来るね」

 妖精たちに手を振って、転送陣を動かした。

 一瞬で、セントラルに到着だ。


「やあ、アウローラ。新年おめでとう」

「ジェローム! 誕生プレゼントありがと!」

 転送陣の部屋では、ジェロームが起きて待っていてくれた。優しい兄弟子だ。


「ところで、横にいるネコはなんだ?」

 横を見ると、プーはちゃんと普通のネコの振りをしている。

「プー、この人はわたしの兄弟子のジェロームだから、サン・マンと同じ。元の姿で大丈夫」

 わたしの説明を聞いたプーは、なんだ、という顔をして、さっさと立ち上がり、植木鉢を抱え直して神妙に挨拶をした。

「どうも初めまして。プーですにゃ」

「なんだこれ!?」

 ジェロームがひっくり返りそうになったよ。


 グランドセントラルステーションへの移動までは、まだ時間があるということで、わたしとプーは観測部屋へ連れて行かれた。

「ジェローム、眠くないの?」

「こんなのが来たら、寝てられないだろう」

 ジェロームはケット・シーを見て大喜びだ。

 冬至から年明けまでの話を聞いて、色々質問をしてきた。


「なるほどね。従魔ではないが、妖精王直々に一緒にいるように任命された妖精か。従属されてはいないが、この首輪がある限り、アウローラが妖精に対して非道なことを命じない限りは、最大限サポートするように命じているな。だったら安心かな」

 ジェロームが、プーと首輪を調べてから、安心したように言った。


 その後も、「サン・マンが許したなら大丈夫だろうが、一応な」とプーを抱き上げて、あれこれチェックしていた。単に、もふもふした感触を楽しんでいるようにも見えたが。

 プーも、耳やのどをなでてもらって、気持ちよさそうにゴロゴロ言ってるし。


「ねえ、そういえば星の寝床へ直行しちゃったから質問できなかったんだけど、前世の記憶ってどんな感じ?」

 わたしが質問すると、ジェロームは、ああそうだった、という顔をした。

「意味がよくわからなかったんだが、物語の中って何だ?」

 わたしは、シルヴィアのことはぼかしながら、「転生した悪役令嬢が出てくる定番物語」について質問した。


「あーそれか。わかった。結論から言うと、それは前世の物語の読み過ぎだ」

 やっぱり。

「そんなことを言い出すということは……まさか、聖女候補が転生者か?」

「あ、それは違うと思う」

「……なんだ、違うのか」

「聖女候補が、転生者のパターンもあるの?」

「ある。悪役令嬢の場合も、両方が転生者の場合もだな」

「前世の物語の定番って、色々あるんだね」

「まあ、人気だから」


 それよりも、と言って、ジェロームは一冊の本を取り出した。表紙に魔法陣があり、ロックがかかっている。

「で、こっちが鍵になる魔法陣。ここに魔力登録されている人しか、開けない」と言って、小さなカードを取りだした。へえ、本自体には、鍵を付けずに、別管理してるんだね。

 厳重管理されている本のようだ。カードに魔力登録をして読ませてもらった。


 それは、これまでに「聖女候補」として名乗りを挙げた人たちに関する概要だった。

「この冊子に記録されるようになってからのものだから、ここ二千年くらいのものだけどな」

 大昔は、数年に一度、聖女候補とされる人が出ていたようだ。それが千年くらい経つと、五十年から百年に一度くらいになっている。


 そして、その度に神殿とディレクトラ大帝国の間で諍いが起きている。しかし、最終的に聖女として正式認定された人は誰もいない。

「偽物聖女も由緒正しいというか……歴史があるんだね」

 わたしは呆れながらも、少し驚いていた。だって、一度も本物の聖女が出てきていないのに、毎回、信じる人がいるんだからね。

 ジェロームは、「それくらい特別な存在なんだよ」と呟いた。


「いいか。歴史的に見ても、ディレクトラ大帝国の反応から見ても、今回も聖女候補は偽物だろう。そして、偽物聖女の末路はロクなものじゃない。私たちから言えるのは、巻き込まれるな、ということだけだ」

 厳しい顔をして、ジェロームが言った。

 星読みとしては、それが正しい接し方なのだろう。

 ロザリンドのことをよく知る前だったら、それもできたかもしれないが、今となってはそれもできないし、したくない。

 わたしが黙っているのを見て、察したのだろう。頭をポンポン、と軽く叩かれた。


「見知らぬ他人なら簡単だろうけどな。友人を助けたいと思うだろうが、政治はそんなに簡単じゃない。感情だけで動いてもダメだ。周囲をよく見て、しっかり考えろよ」

 ジェロームの言葉に頷いた。

 そして、自分がまだ何も力のない星読みのたまごでしかないということを自覚した。

 ちょっとくらい星読みができるからって、物事を解決できる力があるわけじゃないんだ。


「おっと、そろそろ転移陣を予約している時間だな。何かあったら手紙を送れよ」

「うん。ありがと、ジェローム。どうしたらいいのかわからなけど、考えてみるよ」

「ああ、そうしろ。あと、ちゃんと学校生活を楽しんでこい。そのために、行ってるんだからな」

「……ほんとにそうなのかな?」

 つい、本音が出てしまった。

「あの、マスターが、本当に、それだけのために、レッジーナ学院に入れてくれたのかな?」

 わたしの疑問に、ジェロームも苦笑いしている。


「正直なところ、皆、同じ疑問は持ってるよ。あのマスターだもんな。でも、学校生活を味わって欲しいという気持ちがまずあると思うぞ。ただ、ほら、マスターだから」

「そうだね。マスターだから」

 力強く同意してしまった。


「じゃあ、行ってきます」


「いらっしゃいませ。グランドセントラルステーションへようこそ」

 コンシェルジュに連れられて、レッジーナ学院への転移陣部屋へと向かう。久々にクラスメイトに会えると思うと、ワクワクした。

 うん、後期も頑張ろう。

次の幕間の一話で第四章が終了です。第五章はまだ途中。書き上がり次第、投稿再開します!

いつも読んでくださっている皆さま、ありがとうございます。

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