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68.不思議な庭

「なんだ、これ」

 わたしは、今自分がくぐり抜けた生け垣の穴から反対側を見た。

 そこは、やはり冬景色だ。

 ……ここだけ違う空間になっているのかな?

 もう一度春の庭の方を向いた。荒れ果てているのかと思ったが、あの呪いの解析本にあった通り、綺麗な薔薇の咲く花畑が目の前にあり、その奥には小さな可愛らしい小屋が建っている。


「にゃー」

 後ろから鳴き声がしたと思ったら、子猫が後をついてきたようだ。

「ねえ、ここが昔、住んでいたところであってる?」

「にゃー」

 子猫は鳴くだけで、何も話さない。あれ、普通の子猫に戻ってしまったのか? よく見たら背中に現れた小さな羽もない。

「どゆこと?」

 何か、魔法が掛けられた場所かもしれない。大体、呪いの石があるかもしれないのだ。

 わたしは子猫を拾い上げると、もう一度ポケットの中に入れて警戒しながら小屋へと向かった。


 そこはまさに春真っ盛りで、チョウチョや蜂が飛んでいた。

 薔薇だけでなく、スミレや菜の花、フリージアにネモフィラなどが咲き乱れている。

 日陰の方には、ハーブや薬草もありそうだ。

 とても手入れが行き届いており、人の手が入っているのは間違いないようだ。


 小屋は古そうではあるが、傷んでいる様子はない。玄関の横には、天気の良い日にお茶を楽しむためだろうか、小さな籐でできたテーブルと揺り椅子が置いてある。

 花に水をやるための如雨露や、雑草を抜くための小さなスコップや熊手はまとめて壁際に並べてあった。


 わたしは、緊張しながらその小屋の扉を叩いた。

 しばらく待ったが、誰も出てこない。

「やっぱりもう誰も住んでないのかな。でも、それにしては花畑の手入れがされているし……」

 わたしは、横に回り、窓のカーテンの隙間から中を覗いてみた。カーテンは殆ど閉められてるため、部屋の中はあまり見えないが、やはり、誰もいないようだ。


「中に入ってみる?」

 わたしは、答えはないだろうと思いながら、ポケットの中の子猫に聞いてみた。

 子猫は「みゃー」とだけ鳴いた。


「こんにちはー」

 ドアノブを回すと、鍵はかかっていなかったようで、扉は苦もなく開いた。

 中を覗き込むと、そこには誰もいない。しかし、埃も積もっておらず、誰かがきちんと部屋の掃除をしているようだ。

「不思議だ」

 中に入ってみたが、小屋は狭く、入口を入ると、そこがキッチンと居間を兼ねた部屋で、その奥に寝室が一部屋と、作業をするための土間部屋があるだけだった。梯子もあったが、上は屋根裏部屋のようだ。


「さて、どうするか」

 わたしは部屋の真ん中で腕組みをして考えた。

 サン・マンから言われたことは、ここで呪いの石を見つけられたら、それを持って帰るということだけだったが、その前に、ここには呪いがかかっている気配がない。

「違う場所だったとか? まさかだけど、この春の庭になったのが、呪いだったりして……」

 良い呪いってあるのだろうか? わたしは困ってしまった。


 とりあえずは、石が落ちていないか探してみようと思い、部屋の隅々までを見たが、掃除が行き届いていて、怪しい石が落ちていたらすぐにわかりそうだ。

 戸棚や引き出しの中も見たが、それらしきものはない。

 今度は庭に出て、小屋の周囲を探してみたが、やはりそれらしき石はない。解析魔法で庭を眺めたのだが、全体に不思議な魔法がかかっているのはわかるが、呪いらしき禍々しい魔力は見当たらないのだ。

 ……諦めて、一度星の寝床に戻るべきか……


 一通りの捜索を終えて、少し一休みしようと、小屋の前にあった揺り椅子に座って、ぼんやりと春の庭を眺めた。

「ぽかぽかしてるなあ」

 日だまりの中で、ブンブンという蜂の音を聞きながら、のんびりと綺麗な花を眺めていると、普段は眠っている時間だということもあり、急に眠気が襲ってきた。


「少しだけ、お昼寝してもいいかな」

 目をつむって、うとうととしていると、突然、ポケットの中の子猫がにゃーにゃー鳴いて、わたしをひっかいてきた。

「な、なに? 少しお昼寝するだけよ?」

 それでも子猫が必死で鳴くので、どうしたんだろうと、起き上がろうとしたが、とても身体が重い。


 そこで、はっとした。

 何か変だ。

 わたしは、もしやと思い、シルキーが持たせてくれた魔除けの柊とツタを丸く輪にして、簡易の魔除けを作ると、目の前にかざしてみた。


 すると、その輪の中から見た庭は、荒れ果てた冬の庭だった。

「うわっ!」

 驚いて立ち上がり、そのまま後ろの小屋を見ると、そこにはほとんど倒壊した小屋しかなく、自分が座っていた籐で出来ていると思った揺り椅子も、座椅子や背もたれが破れかけて、ほとんどボロボロだ。

 自分が冬の庭にいるとわかると、半分凍えかかっていることにも気付いた。魔除けの輪を握っている手は寒さでかじかんでおり、青ざめている。


「やばい、死んじゃう」

 急いで鞄からお茶を出して、ゆっくりと飲んだ。

 何か魔法にかかっていたみたいだ。熱いお茶が喉を通り、胃にたどり着くと少しずつその熱が身体にも伝わり、正しい感覚が戻ってきた気がする。


 お茶を飲んで少し落ち着くと、柊とツタの大きめの輪を作り、自分の首にかけた。

 ようやく春の庭の魔法が消えて、全身に寒さが感じられる。

 子猫の方を見ると、背中の羽が戻っている。

「もしかして、話せる?」

「話しかけても反応しないから、どうしたかと思ったにゃ」

 あ、戻った。


「これが、呪いだったのかな」

 もう一度、倒壊しかかっている小屋の周りを探索してみた。

「解析魔法」

 すると、柱の陰から何か変な魔力が出ているのが見える。

 用心深く近くに寄ってみると、そこには黒い石があった。

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