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67.星読み

 ふんふんふふーん

 ご機嫌なわたしです。そうです、サン・マンの本気の占いがとうとう披露されます。

 いつでも姉兄弟子のお手本は見たいからね!

 昨夜、解呪の方法までははっきりしなかったけれど、やはりおばあさんの小屋を探して、妖精が黒い魔憑きになってできた呪いの石を探すべきだろうということになった。

 その石が解呪の鍵だろう、と。


 では、おばあさんの小屋はどこか?

 それがもう大昔だし、色々放浪していたから、子猫にも皆目見当がつかないらしい。サン・マンが「本当だろうな?」と相当疑っていたけれど、覚えていないと言い張っている。

 大体、大昔すぎて、もう小屋自体はなくなっているかもしれない。でも、同じ場所に呪いの石はそのまま放置されている可能性が高いだろう、ということで、占術を使って探すことになった。


 ただ、ここで問題が一つ。

「アウローラ、俺はこの占術を行使すると、その後数日は眠ってしまうと思う。だから、その後の小屋の捜索は、お前にやってもらわないといけない」

「そうなの?」

「ああ。単に、この子猫の旅路を辿るだけだから、あまり難しくはないとは思うが、放浪していた期間が長いだろうからな。その場合、一日とか二日は寝込むくらいの魔力は使い果たす可能性がある。

 観測の方は、自動観測機が動いているし、シルキーが見ておいてくれるだろうから、お前は結果が出たら、すぐにその地図を辿って呪いの石を回収してきてくれ。これまでずっと放置されたままで大丈夫だったから、慌てる必要はないと思ってはいるんだが、今、このお告げが出たっていうのが引っかかるんだよ。遅らせてもロクなことがなさそうだ。回収できたら、一緒に解呪の方法を考えよう」

「わかった」


 その夜、サン・マンは肉類を食べず、潔斎をして、新しい下着とシャツとズボンに星読みのローブを身につけると、何枚も地図を出し、机の上に並べた。

 同じ机の上には、子猫も大人しく座っている。

 月が上がり始めたのを確認すると、地図の上で、ペンデュラムをゆっくりと振り始めた。すると、その先についている水晶が、一枚の地図に引きつけられるように動き始めた。


 サン・マンは、その地図を残して、それ以外を片付けさせた。

 テーブルの真ん中に、その地図を置くと、しばらく月明かりの中で静かに立ち、ペンデュラムを握ったまま集中しているようだった。パチパチという暖炉の音と自動観測機の静かな機械音だけが聞こえる。

 全く身じろぎもせず、相当な時間が経ったと思われた後、銀色の鎖の先を持ち、もう一度ペンデュラムをゆっくりと回し始めた。


 しばらくは、綺麗な円を描いていたが、段々その動きが不規則になってきた。そのまま、ペンデュラムの先を地図に触れるくらいまで下げると、その先が触れたところが、線となって地図上に残された。

 まるでめちゃくちゃな線のようだが、迷いなくペンデュラムは線を描いているようだ。

 しばらくそのままだったが、最後に一点でぴたりと止まった。

 わたしと子猫もその場所がどこだか確認しようと近づいた。


 サン・マンが大きく深呼吸をしてから地図を確認し、「はあー……ここか」とつぶやいた。

 それは、この森を越えた向こうにある小さな山の中だった。思ったよりも近い。

「アウローラ、ここは気をつけろ。大昔に魔女が住んでいたという伝説が残る山だ。魔除けを忘れずに。あと、あの子猫を連れていけ」

 そこまで言うと、ソファの方へ行って倒れ込むように眠ってしまった。魔力切れだ。


 わたしは、地図を見て本当に驚いていた。

 サン・マンのペンデュラムは、これまで子猫が移動した道筋をずっと辿っていたのだ。考えられないくらい長期間彷徨った道を全て。

 ほとんどは、街の中にいたらしく、この西の最果ての島の大きな都市部はぐるぐると塗りつぶされた状態になっている。

 しかし、最後に止まった場所は、まるでそこだけは除けていたかのように、旅の最初の地点として離れてから、一度も近くに戻らなかったようだ。


「でも、今になってこの森に現れるとか、なんか変な感じ」

 わたしは、子猫を見たが、子猫自身は、サン・マンの占術で示された場所に対して、特に感想もないようだ。「ここにゃ?」とだけ言って顔と身体を綺麗にしはじめただけだった。

 こいつは……とちょっとむっとしたが、まあ子猫だし仕方がない。いや、あの分析書が本当なら、年齢だけ考えると、わたしよりも何倍も年寄りのはずだけどね。


「シルキー、サン・マンを宜しく。この山だったら、明日の朝出れば、その日のうちに到着できそうだから、運が良ければその日のうちに、あっちで石が見つからなかったとしても、泊まれるようなところがなかったら、夜中までには戻ってくるね」

 シルキーは、サン・マンに毛布を掛けてやりながら、こちらを見て頷いた。


 その日の朝、観測が終了するとすぐにわたしは子猫と一緒に出かけた。

 シルキーが心配して、食べ物や飲み物、それに魔除けの柊やツタをまた袋一杯にして収納魔法のついたバッグに詰め込んでくれた。わたしは、サン・マンがくれた地図にもう一枚、この辺りの拡大地図、そして念のため、呪いの解析本と、呪いを写し取るアルバムも持った。


 この間、鳴き声の元を探して雪道を歩いた時は、進み辛かったことを思い出して、どうしようかと思っていたが、なんとレプラコーンがその夜のうちに新しいブーツを作ってくれていた。

 内側には暖かそうな毛皮もついており、外側は赤い皮の可愛らしいブーツだ。よく見ると、かかとにシジミチョウくらいの小さな羽がついている。


 これを履いていけ、というように押しつけるので、お礼を言ってその靴を履いて雪道に出た。

 すると、なんと足が雪の中に埋もれず、軽くぽん、ぽん、と跳ねるように歩けるのだ。

「すごい。これなら雪山もあっという間に歩けそう! ありがとう、レプラコーン!」

 流石は妖精界でもトップクラスの靴職人だ。華奢な貴婦人の靴だけじゃなくて、こんな魔法の靴も作れるんだね。


 わたしは、明るいうちに小屋があった場所まで行こう、とぽん、ぽんと雪道に足跡もつけずにどんどん歩いた。子猫はわたしのポケットの中だ。

「うにゃ。揺れるにゃ。もう少し、にゃんとかならにゃいか」

「それどころじゃないからね。もうちょっと急ぐよ」

 わたしは、この軽々歩ける靴を活かして、さっさと山を登ろうと、どんどん進んでいった。


 レプラコーンの靴のお陰で、あっという間に子猫が住んでいたと思われる小屋があるらしい山の麓にたどり着いた。

 しかし、この山が何だか気味が悪い。暗い影に覆われていて、まるでこの山を封じるかのように、麓にはサンザシの木が植えられている。


「ねえ、本当にここにおばあさんと花畑があったの?」

 ちょっとそんなのどかな場所ではなさそうだ。

「うにゃー記憶があんまりないにゃ」

「頼りないなあ。ちょっと待って」

 わたしは、近くに生えていたサンザシの小枝をもらい、柊と一緒にして自分の胸元にピンでつけた。

 子猫のいるポケットにも同じようにピンで小枝をとめた。


「さて、行ってみるかあ」

 サンザシの木が二本、まるで通せんぼをするように生えていたが、わたしがその前に立つと、するするっと枝を真っ直ぐにして、入口の両側に立つ門柱のようになった。あっさり入れてくれたことに拍子抜けしながら、その間を抜けて、昼でも薄暗い山の中へと入っていった。


 地図で見ると、ここから少し登った中腹あたりが、ペンデュラムが描いた線の終着点のはずだ。

「あともう少しかな」

 すると、突然、目の前にハリエニシダの生け垣が現れた。もう長いこと、誰も刈り込んでいなかったのか、グルグルとねじれたり、色んな方向に伸びたりしている。冬場で枯れた枝には、棘がたくさんあり、隙間が全く見当たらない。この間を潜るのは難しそうだ。


 どこか、隙間を探さないと、と生け垣の周りをぐるりと回ってみることにした。

 1/4ほど回ったところで、ハリエニシダの下の方の土を誰かが掘ったようなところがあった。アナグマか何かが通った後だろうか? わたしだったら何とか通れそうだ。

「ここ、潜るからポケットから出て」

 子猫をそこに置くと、ずるずると穴の下を通り、生け垣の向こう側へ出た。

 すると、なぜかそこだけ雪もなく、春の庭になっていた。

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