65.不思議なお告げ
今年の妖精郷での冬至のお祭りは、いつもとはちょっと雰囲気が違ったそうだ。
サン・マンが冬至に行くと、他のクルラホーンが造ったお酒と一緒に、うちのお酒も並べて、まずは皆でひとしきり酒自慢が始まるらしい。
ところが、冬至の支度は終わってはいるが、全員別のことで気もそぞろになっていた。
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それがさ、あっちで妙なことが流行ってたんだよ。それが、お告げごっこ。
妖精の一人が、なんか夢を見たらしい。で、それを他の妖精に話したところ、「それはお告げだ」ってことになって、みんなが夢を見ては、「お告げだ!」って言うようになったんだよ。
最初は冗談かと思っていたら、本当にお告げが混ざっていたらしく、例えば「明日、虹がかかったら、その根元に新しい妖精が生まれている」みたいなお告げがあって、その通りになったりしたそうだ。
ただ、普通の夢も混ざっているから、その真偽がわからなくて混乱してた。
その中のお告げで、「魔女が誕生する」っていうのがあったから、もう大変な騒ぎでさ。
しかもこのお告げをした妖精が、そこらのイタズラ者のピクシーとかじゃなくて、本当に古い古い妖精の一人だったもんで、これは本物のお告げじゃないかって言い出すやつが多くて。
魔女が生まれなくなって、もう何千年も経つからな。妖精王も興奮して、「本当かどうか、人間界に戻って確認してこい」って言われたんだよ……そんなこと言ってもさあ、どうやって魔女を探せばいいのかなんてわからないし、まあ、本当に出てきたら連絡すればいいかってことで帰ってきたんだ。
サン・マンは、そう言いながら、アウローラのことをじっと観察していた。
冬至の朝、妖精未満の光がアウローラに集まっていたことを考えても、もしかしたら魔女とはアウローラを示しているのかもしれない。
お告げ自体が本物かどうかわからないが、心に留めておくべきだろう、と思っていた。
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そんなことがあったのか、とわたしは聞きながら驚いていた。
「魔女って聖女のことかな?」
「一体何のことだ?」
わたしは、グロブナー教授の取材で聞いた「聖女=魔女説」を簡単に説明した。
「そんな説があるのか」
「わたしは、ちょっと納得したけど。だって、古文書に書かれた聖女の偉業って、結構、戦闘ばっかりだよね? どちらかというと、大きな魔法をぶっ放している人っていう印象なんだけど」
「まあなーそれは言えている」
サン・マンも頷いている。
「ところで、魔女とこの子猫のどこに関係が?」
「悪い悪い。そのお告げをした古い妖精が、もう一つ告げたのが、『妖精の迷子がいる』っていうお告げなんだよ」
「なにそれ?」
「だろ? しかも、その時妖精郷では、別に迷子の妖精はいなかったんだ。だから、知らないうちに人間界で迷子になったヤツがいるんじゃないか、だったらサン・マンがついでに探してこいってことになってさ」
「で、この子が迷子の妖精?」
「さっきのアウローラの話を聞いて、そうじゃないかって思ったんだよな」
「でも、全然妖精っぽくないよね」
「そこがナゾだ」
つまり、サン・マンは、魔女と迷子の妖精を探してこい、という依頼を出されたから、予定よりも早く戻ってきたわけだ。
「妖精は気まぐれだから、仕方がない。お土産はしっかり渡せたし、あいつらも飽きっぽいから、あとは適当に探してみればいいか、と思っていたら、本当に迷子の妖精らしき子猫が出てきたってわけだ。そうなると、あのお告げもそれなりに信憑性があるってことだな」
「でも、この子が本当にお告げの迷子の妖精かってどうやってわかるの?」
「あっちに連れていってみればわかると思う。ただなあ……確かにこのままじゃ妖精じゃなくて子猫だから、何とか封印された力を解いてやらないとダメだな。そうしないと、そもそも妖精郷も入れない可能性がある」
「ありゃ」
「まあ、探すところから開始するよりはマシさ。さあて、望遠鏡が使い物にならないんだったら、予備のやつを出してくるよ」
サン・マンは、自分の書斎へと出て行った。
さて、本当にこの子猫は、迷子の妖精なんだろうか?
わたしは、暖炉の前で寝ている子猫に何の気なしに話しかけてみた。
「おーい、子猫さん。あなたは妖精さんですか?」
「はい」
えっ! 返事が返ってきた?
驚いて固まっているわたしをよそに、子猫は顔を上げると、こっちの方を向いて話し出した。
「さっきの話を聞いていて、思い出したにゃん。わし、妖精にゃん」
……わし? 妖精にゃん?
「そ、そう。思い出したんだ。良かったね。じゃあ、元に戻れそう?」
「それは……ちょっと無理だにゃん。呪いをかけられているんだにゃ」
「えっ、そうなの? ちょっと待って。サン・マンがすぐ戻るから、一緒に話を聞かせて」
そこに丁度、サン・マンが予備の望遠鏡を持って戻ってきた。
「サン・マン、子猫が、自分が妖精だって認めたよ!」
「はああ??」
「そうにゃん。わし、妖精だったわ。呪いにかけられてて、すっかり忘れてたにゃ」
「……なんだ、これ?」
流石のサン・マンも驚きすぎて、口をあんぐり開けている。
そこから子猫に話を聞くと、二千年ほど前に魔女の薬草畑にイタズラをしたら、捕まえられてしまい、罰として呪いをかけられ子猫にされたそうだ。
そのまま、子猫として人間界で暮らしていたが、ずっと子猫のままで鼠も捕れないということで、大体捨てられてしまっていたそうだ。
「それはそれは。自業自得」
サン・マンがあっさりと言うと、子猫はふがーっと息を吐き、「そうとも言えるにゃ」と認めていた。
「それがなんで、冬の森の中に捨てられてたの?」
「よくわからないにゃ。なんだか懐かしい匂いがしたような気がして、気付いたら、森の中にいたにゃ。寒いし怖いしで、鳴いていたら、このちびっ子が拾ってくれたにゃ」
「ちびっ子じゃない。アウローラです」
子猫にちびっ子と言われ、ちょっと気分を害してしまった。
「でも、ちびっ子だにゃ」
「まあ、まあ、そこはいいから。で、俺たちの話を聞いて、自分が妖精だったことを思い出したと?」
「そんなところだにゃ」
「ふーん。まあ、そういうことにしておこう」
なんだか、サン・マンは懐疑的だ。
とりあえず、その話はそこまでにして、望遠鏡を取り替えると、子猫に「新しくした望遠鏡は、覗いたらだめだぞ」と言いつけて、元々あった方は違う方向を向けて設置をしていた。
「お、向きが変わったけど、まだ妖精郷の空が見えるな」
「へえ。でも、これって何の魔法?」
わたしが子猫に質問すると、子猫はきょとん、とした顔をして首を傾げていた。
それを見たサン・マンが、もっと胡散臭いものを見るような顔をしていた。
「さてと。こうなったら、この子猫の呪いを解いて、妖精郷に連れて帰るかあ」
渋々といった感じで、サン・マンが言った。
「やっぱり呪いは解かないとダメそう?」
サン・マンはジロリと子猫を見て「帰れると思うか?」と聞いた。
「うみゃーわからないけど、呪い憑きだと、妖精王様と女王様から、『呪いを落としてから来なさい』って言われそうだにゃ」
「……俺もそんな気がする。でもって、また持って帰れって言われそうだ……」
「理不尽」
「そういうもんなんだよ」
サン・マンは、心底疲れた、という感じのため息をつくと、「今日は準備だけして、明日にでも占うかー」と言った。




