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60.サン・マンの過去

 *********

 聞いたことあるだろう? 妖精の取り替えっ子のこと。

 大昔はさ、妖精も多少人間界に現れていたから、稀にあったんだよね。

 普通は、一週間とかで元通りになるんだけど、運悪いことに取り替えっ子が起きた時に、暗殺事件が起きて、母親が殺されて乳母が俺の代わりにベビーベッドにいた妖精の子どもを連れて逃げたんだよ。

 城から離れて隠されていたために、妖精が子どもを戻そうと思った時には、城にいなかったわけ。

 で、妖精もあっさり諦めて、人間の子どもである俺を妖精郷で育てることにしたらしい。あいつら、気紛れだし飽きっぽいから、探し出すなんて面倒なことはしないのさ。


 なんで俺が長命種になったかっていうと、妖精郷での暮らしが長かったから、妖精化が進んだんだ。

 子どもの頃は、自分が人間だなんて知らなかったからね。普通に妖精たちと一緒に暮らしていたんだが、途中で自分の氏素性を教えられて、人間界へ戻ってきたっていう感じ。

 まあ、そこには紆余曲折はあるんだけど。


 ディレクトラ大帝国に戻って、妖精の子と入れ替わったんだけど、そこから人間界に馴染むのがなかなか大変で。一応、レッジーナ学院の高等部は出たんだけど、その後もう一度妖精郷に戻ってしばらく暮らしてた。ただ、それも違和感あるんだよね。自分が妖精じゃないって認識した後だと、やっぱり難しいんだよ。で、まあ、マスターと出会って星読みになったんだけど。


 今でも、育ての親である妖精のところへは、冬至と夏至の日には挨拶に行くんだ。

 今回は、アウローラがずっと留守番をしてくれるから、長めに妖精郷へ行ってくるよ。

 *********


 と、いうサン・マンの話を聞きながら、その日の天体観測をしていた。


「ねえ、サン・マンが最初に妖精郷で暮らしていたのは何年くらい?」

「どっちの時間軸?」

「え、やっぱり妖精郷とこっちだと時間の流れ方が違うんだ?」

「違うっていうか……不均等? こっちに連れ戻された時に、妖精の子どもの方は百年くらい赤ちゃんのままで、親とか兄弟はとうに亡くなってたよ」

「え……じゃあ、両親には会ったことなかったんだね」

「まあ、それまで実の親が別にいるっていうのも知らなかったからな」

「ふうん。妖精の赤ちゃんは、よく無事だったね」

「さすがに、皇家の子どもだと思われてたから、気味が悪くても亡き者にする勇気はなかったんだろうな。書類上は亡くなったことになってたが、城の奥深くで赤ちゃんのままいたよ」

「うわあ……じゃあ、サン・マンは書類上は死んじゃってたのに、どうして戻れたの?」

「そこは、まあ、権力があるからさ。なんか、新しい庶子が見つかった、みたいな感じ?」

「アリなんだ、それ」

「そうそう。で、しばらく城で学んでから、レッジーナの高等部行って、嫌になって妖精郷に帰った」

「お疲れ様でした。それは大変だったよね」

 わたし自身が学院でやっていくのも新しいことの連続なのだ。妖精郷からレッジーナ学院高等部なんて、どんなギャップだろうと慄いてしまった。


「ねえねえ、サン・マンの頃も新聞部ってあったんだよね?」

「そりゃそうさ。一番古い部だからな」

「どうだった? あ、サン・マンは課外活動なにやってた?」

「ジェロームにも同じことを聞かれたな。俺、生徒会」

「えっ! なんで?」

「皇族は生徒会やるっていう暗黙のルールがあったんだよ、当時は。今は知らないけど」

「うわあ……ちゃんとできた?」

「いや、俺はちゃんと活動してたからな? これでも妖精郷でちびっ子妖精を仕切ってたんだ。あいつら言うこと聞かないから。それに比べれば、生徒会くらい問題なかったよ」

「あ、なるほど。集団生活は経験あったから、わたしよりは適応力があったのかー」

「なんだ、それ。まあ、そういうわけだから、新聞部とはよく打ち合わせをしていたよ」


 サン・マンから昔のレッジーナ学院の話を聞くのは面白かった。

 サン・マンが専門研究大学院に入ったのは、星読みになってからのことだが、高等部時代と建物はほとんど変わってないとのことだ。そうなると、今のものも当時と同じかもしれない。


「凄いね。どれくらい古いんだろう。そうだ、サン・マンは、あそこで天体観測したよね?」

 わたしは、気になっていた「移動する学院説」を確認しようと、質問をした。

「高等部の時はしなかったけど、専門研究大学院の時は当然したよ」

「だよね! ねえ、レッジーナ学院の場所ってわかった?」

「あれな。毎日場所が変わるやつ」

「やっぱり。まだ数カ月しか観測してないから、決まったコースを動いているのか、それともランダムなのかはわからないんだけど……」

「その答えは言わないでおこう。まずは継続観測してみな」

 サン・マンが、にやっとしながら言った。


「うー……気になる。一応、休暇中も自動観測するようにセットしてはきたんだけどね」

「面白いだろう? 自分で考えた方が」

「わかった。じゃ、しばらくは観測してみるね。でも、一体、どうやって移動しているんだろう」

「それな、ジェロームにもわからないらしいぞ」

「え、そうなの?」

「ああ。古の魔法が使われているんじゃないかってジェロームは推測していたけど。あの魔導具好きがわからないくらいだし、それ以上にあれだけ大きなものを移動させる動力なんて想像つかないよ」

「うん。それに、外から見えなくなっているんだよね? それも凄いことだと思う」


「アウローラが学院にいた時は、どのあたりを移動してた?」

「ディレクトラ大帝国の外、北西を南下して、そこから東へ移動中だった」

「多分、大陸から出ることはないんだよなあ」

「そうなの?」

「俺が観測している時はそうだった」

「古の魔法って凄いね。古代文明ってどんなんだったんだろう」

「さあな。そんなに凄い文明でも滅びるっていうのが怖いよな」

「うん」


 それ以外にも、サン・マンは色々な話をしてくれた。

 ゴンザレス先生とサーペント先生は、専門研究大学院にいた頃に会ったことがあるそうだ。

「あの二人も、長命種だよ」

「サーペント先生はそんな感じがしたけど、ゴンザレス先生も?」

「ああ。ゴンザレス先生は、両性具有種なんだ。しかも、顔は似ているが、男性のような外見で女性みたいな高い声をした双子がいる」

「え、知らなかった」

「双子の片割れは、専門研究大学院で薬草学の研究をしているよ。マヌエラって名前だったな」

「なんでそっちが女性みたいな名前なの?」

「変なところで屈折した性格の人が多いんだよ、レッジーナ学院の先生たちって」

「ゴンザレス先生は、見た目と声が一致しないだけで、明るくて優しい先生だよ?」

「まあ、そのうちわかるさ」


「俺は、サーペント先生の研究室に出入りしてた。面白い研究室だったな」

「わたしは魔術基礎を習ってるけど、専門は呪術って言ってたよね?」

「ああ。占術の専門の教授がいなかったから、違った派生系の術を学んだりしてた。呪術もその一つさ。でも、サーペント先生は呪術というよりも、本来は医術なんだよ。大昔は、シャーマンが医者だったりしただろう? その関係で怪我や病気だけじゃなくて、呪いも医術を学んだ人が対応してたんだ。治癒させる、という意味で。そのために呪術を研究したらしい」

「奥が深いね」

「ああ。だから治癒系の魔術も学んだが、俺はそっちの素養はあまりなかったな」


 しかし、それだったらサーペント先生は治癒魔法にも詳しいだろう。

 学院へ戻ったら、ロザリンドと一緒にサーペント先生に治癒魔法について教えてもらうのもいいかもしれない。一方で、もしかしたら、サーペント先生が、大帝国から依頼を受けて、ロザリンドの力を測ったりしている可能性もあると思った。


「ねえ、レッジーナ学院は、やっぱりディレクトラ大帝国の影響下にあるんだよね?」

「なんだ、急に」

「聖女候補のこと、聞いてる?」

「ああ。ジェロームから、アウローラの手紙に書いてあったことは聞いている」

「ロザリンド様って言うんだけどね、治癒魔法を使うの。もしかして、サーペント先生がロザリンド様の力を査定していたりするかな、ってふと思っただけ」

「うーん、そのあたりの政治的なことは、俺は疎いから。でも、レッジーナ学院は、その独立性も重視されていたから、学院としては教師と生徒を守るべきと考えるとは思うけどな。ただし、他の生徒の安全性が脅かされるのであれば、排除に動くぞ」

「そうだよね。ありがと。まあ、考えてもわからないし、学院に戻ってから本人とも話すよ」

「仲良くしてるんだな」

「うん。聖女候補って感じじゃないけどね」

「はは、そうなのか」

「でも、ロザリンド様の周囲は、聖女候補になって欲しいみたいだから可哀想」

「よくあることだ。ジェロームたちもそんなようなことを言ってたよ」

「何とかならないかな、って思っているんだけどね」

「偽聖女は、昔から出てくるんだよ。絶対、上手くいきっこないのにさ」

「そうなんだね」

「大事にならないうちに、候補から下りられればいいな」

「うん……」

 サン・マンはあっさりと言ったが、それが難しいんだよなーとため息が出てしまった。

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