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53.星巡りの悪いクラスメイト-2 

「ねえ。これって魔力充填はどうしているの?」

「魔力充填?」

「そう。ここの魔石に魔力を充填させることで、魔法行使の補助をさせているはずなんだけど、魔力を使えば空になる。つまり、何らかの方法で充填しているはずなんだけど」

「特になにも」

「何か、特別な手入れは必要ないの?」

「いいえ。ただ、夜は外して、必ず窓際に置くようにとは言われたけれど」

「窓際?」

「ええ。ゴーリングの家にいた時も、ここに来てからもずっとそうしているわ。お義父様と、これを作ってくださった魔導具師の方がおっしゃっていたから必ずそうしているの」


 わたしはもう一度、石の周囲を見た。

 全て細かくした黒い石が使われていたのでわからなかったが、よく見ると月長石と隕石、それにジェットとブラックダイヤモンドを砕いたものが混ざっている。魔法陣があるのかもしれないと思い、バングルを布で覆い、暗くしたところでもう一度見てみた。


 すると、そこにあったのは月長石とブラックダイヤモンドで描かれた魔法陣だった。

 それも月と星の力を吸収し、魔力に変換する魔法陣だ。

 ローズガーデンで、迷子の妃殿下を送り返すために使った月長石も似たような使い方だったが、これは魔法陣にすることで、もっと効率的に月と星の力を集めるようにできている。


「わかった!」

 わたしは常に月や星の力を浴びているし、その力を浴びたお守りや占いの石を身につけている。さらにわたし自身が、多分それらの力を浴び続けていることで、星の力を含んだ魔力を持っている可能性がある。

 そのため、本来は夜にしか魔力を吸収しないはずの魔導具が、わたしが近くに寄ると起動してしまい、魔力の吸収と放出が同時に発生してコントロールができず、暴発するようなことになっているのではないか。


 わたしがこの仮説を説明すると、ロザリンドは「まさかそんな……」と驚きながらも、どこか腑に落ちたような顔をしていた。

「だから、お義父様は星読みに近寄るなとおっしゃったのかしら」

「かもしれない。繊細な魔法陣だし、わたしや姉兄弟子のような星の魔力を扱う人が側にいると、不具合を起こすことはあり得る。大体、星読みは五人しかいないし、普通だったら会ったりしないから、そんなことまで考慮に入れた魔法陣は作らない」

 わたしの言葉にロザリンドが苦笑した。

「本当に。ものすごい偶然だわ」

 ……本当に、偶然なのかはわからないけどね! 

 口に出しては言わないけれど、頭の中ではマスターの顔が浮かんだ。


「でも、どうしたらいいのかしら。魔法がコントロールできない原因はわかったけれど、根本的な問題はそこではないのよね」

 ロザリンドが困り果てたように頭を抱えた。

 彼女としては、弟のためには現状を維持しておきたいところだろう。しかし、このままでは神殿や皇室を欺いたとして、ロザリンドが処分される。


「とりあえず、授業中は別の髪飾りにして、バングルは外しておいた方がいい。この先のことは、こんなところじゃなくて、別の所で相談しよう」

「……相談に乗ってくれるの?」

 ロザリンドが泣きそうな顔で言った。

 わたしもどうしていいかわからないものの、ここまで知ってしまっては放っておけない。

「とりあえず、作戦会議をしよう。今夜、夕食後に自習室か部屋で相談できるかな」

「ええ。良ければ、わたしのお部屋にいらしてくれる?」


 その夜、ロザリンドの部屋に行くと、嬉しそうに招き入れてくれた。

「いらっしゃい。誰かをお招きするのは初めてなの」

 そう言って、お茶をすすめてくれた。

「このジャムを入れていただくと、美味しいのよ」

 手作りのバラジャムは、香りが高く、「ちょっとお安い紅茶がぐっと高級な感じになるの」と言った。

「こちらはね、日持ちがするから持ってきたの。そろそろ無くなっちゃうから、その前に食べてもらえて良かったわ」と言って、やはり自分で作ったというドライフルーツをお茶請けに出してくれた。

 なんか、親しみやすい?


「随分、雰囲気が違うね」

 これまでの、張り詰めた感じがなくなった上に、どちらかと言うとわたしに近いというか……ちょっと平民みたいだ。

 わたしが思っていることがわかったように、ロザリンドは笑いながら言った。

「元々、貧乏男爵の娘だから、ほとんど平民みたいなものよ。レッジーナ学院みたいなところは素敵だけど肩が凝るのよね。お勉強も嫌ではないけれど、受験勉強だけで精一杯だったし、四年間ついていけるのか、心配なくらい。本当は、庭づくりとか、お料理やお菓子づくりの方が好きなのよ」

「ここにいられなくなってもいいの?」

 わたしは恐る恐る聞いた。

「私だけであれば、ね。弟のことを考えると、そうはいかない。ただ、アウローラさんが言うように、このままではいつか行き詰まって、罰せられるということも理解してるの。でも、どうしたらいいのかわからない」

 両手にゴーリング伯爵からもらった髪飾りとバングルを持って俯いた。


「あのね、もし捕まったら、結局弟さんも巻き込まれるから、今が良くても結局はダメだと思う」

 わたしの言葉に、ロザリンドも頷いた。

「わかってるわ。でも、どうしたら……」


 そこでわたしは、授業の後、ずっと考えていたことを話してみた。

「あのね、嫌かもしれないけど、リュシエンヌ様に相談してみるのはどうかな?」

「えっ? 寮長をされている、あのリュシエンヌ様?」

「そう。ゴーリング伯爵から離れるとなると、誰か他の後見人が必要になる。カヴェンディッシュ公爵家であれば、十分頼れるだろうし、多分、公爵家はこの件を処理するように動いている家の一つだと思うんだよね。だから、わたしとお茶会なんかしたんじゃないかと」

「お茶会?」

「そう。アイリス交流会のお茶会に招かれたんだけど、その後に話す機会があって。色々つなぎ合わせると、多分、リュシエンヌ様の役割は、ロザリンド様が、どれくらいゴーリング伯爵の策略に関わっているのか見極めることなんじゃないかな、と思ってる」

「……」

「今だったら、まだ間に合うんじゃないかな」

「でも、お義父様が本当に何か企んでるのかまではわからないわ」

「この髪飾りとバングルが、そもそも欺いていることになると思う」

「でも、そうしたら私は……弟はどうなるの?」

 そう言われて困ってしまった。わたしには、二人を保護する力もない。


「とりあえずは、様子を見よう」

 結局、わたしたちの出した結論は、問題の先送りだった。

「学院にいる間は、治癒魔法を使うことはほとんどないはず。だから、この魔導具は外して大事にしまっておいて。とりあえずは、ゴーリング伯爵が何を考えているのか探れるかどうか考える。そして、逃げなければいけないと思ったときのための道も考えよう」

「助けてくれるの?」

 ロザリンドが泣きそうな顔で聞いた。

「ここにはお友達もいないわ。神殿派の貴族の人たちが声を掛けてくれるけれど、聖女候補という肩書きがあるからだわ。それなのに、どうしてアウローラさんは私のために何とかしようとしてくれるの?」


 確かに。なんでだろう?

「……わからない。でも、このままにしたらまずいってことはわかる。うん、何かもっとまずいことになるって気がするから、かな。マスターがそういう勘は大事にしなさいって言ってた。ただ、誰を信じるのか、信じられるのかは、自分で考えないとダメだよ。大体、ロザリンド様はわたしのことを信じられるの?」

 ロザリンドは、じっとわたしのことを見た。


「……わからないわ。でも、あなたは嘘を言わない人だと思う」

 その言葉に苦笑した。確かに。星読みは嘘をつかない。ロザリンドがそのことを知っているとは思えないけれど、わたしには嘘はつけない。

「うん。星読みは、嘘はつかない。ただし知っていることの全部を話すとは限らないけどね」

 いつものように言うと、ロザリンドは、力が抜けたような安心したような顔をしていた。


「ロザリンド様は、聖典研究会に入っているんだよね? そこで神殿派の動きがわかったら教えて。でも、無理はしない方がいい。知らないことで守られることもあるから。あと、やっぱりアイリス交流会に入ってみたらどうだろう? 神殿派以外にも、繋がりを作っておいた方がいいと思う。新聞部でもいいけど、流石に変でしょ?」

 わたしの提案に、思わずロザリンドが吹き出した。

「そうね。新聞部は、お義父様に辞めさせられそうだわ。でも、アイリス交流会に入れてもらえるかしら」

「入れないってことはないと思うけど、シルヴィア様から紹介してもらうのはどう?」

「でも、特に親しいわけでもないし、突然、そんなお願いをしたら気を悪くされたりしないかしら」

「あのね、一番大事なのは、ロザリンド様がどうしたいかだよ。弟が、お義父様が、シルヴィア様が、って言うけど、自分はどうしたいの?」

「私が?」

「そう。人に言われるまま行動して、うまくいかなかったら、きっと後悔する」

「私……」


 シルヴィアがしばらく黙って考えていた。

「わたし、本当は聖女になりたくないんだと思う。ならないといけない、って思っていたけれど、本物の聖女ならともかく、偽物の聖女になんてなりたくない。別に、令嬢暮らしができなくてもいい。ただ、弟は心配」

「正直に、それを相談できる人を探そう。ロザリンド様が、そのことを相談して、一緒に解決を考えて欲しいと思える人がいたら、相談しよう」

「ええ。そうね。そのためにも、アイリス交流会に入って、交流を広げてみるわ」


「最後に、せっかく夜だし、ロザリンド様の星回りを占ってみようか」

「星回り?」

「そう。実はロザリンド様の近くにいると、あまりに不可解なことが多いから、この間占ってみたの。でも今は、星回りも変わっているかもしれない」

「そういうもの?」

「星は巡るもの。悪い並びもあれば、ふとした変化でお互いの干渉度合いも変わる」


 窓際にある小さな机の上に、いつも持っている携帯用の占盤と石を出した。窓の外を見ると、月と、旅人に道を示す北極星も見えており、机の上にも月明かりが十分届いている。

 影響があるといけないので、髪飾りとバングルは、箱に入れてクローゼットの中にしまってもらった。

 ロザリンドにひとつかみの月長石を掴んでもらい、占盤の上に投げた。


「光、進め」

「どういう意味?」

「今、何を考えながら石を掴んだ?」

「この先、どうしたら良いのか示されますようにって」

「なるほど。光へ向かうのか、光と共に進むのかわからないけれど、光を探そう」

 少しは兆しが見えてよかった。


「本当にありがとう」

 ロザリンドはそう言って、半分泣きそうになりながらも笑顔を見せた。


 *********

 観測日誌 

 天体観測結果:想定地域は東へ移動。想定現在地はディレクトラ大帝国内、北西地域。

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