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50.取材をしよう-2

「よく読んできたね」

 教授が苦笑いをして言った。

 本当にびっくりだ。そんな資料がどこにあったのだろう?


「いえ、以前の論争になった論文を読んだことがあったので」

「あの論文は、神殿を激怒させたからね。まだ証明不足として、公には全文見られないはずだが」

「はい。実は、部長のキャメロン様にお願いして、見せてもらったことがあったんです」

「ああ。キャメロンの家、ロシュタルト辺境伯家には、研究のために多くの資料を見せてもらったからね。論文が書き上がった時に送っていたな」

 なるほど。あの、「聖女」という言葉の定義を論じた人が、この教授だったのか。こんな身近にいたとは知らなかった。


「この話は公にはできるようなものではないが、ここだけの話としてなら、少しだけ話してあげよう。聖女が残りの三人と親しかったと思われる資料が、ロシュタルト辺境伯家には残っていた。つまり、聖女は神の使いのようなものではなく、同じ世界の人だったのではないか。どちらかと言うと、『魔女』に近い存在だったのではないかと思っている。考古学的に言う『魔女』は、君らがおとぎ話で読むような魔女ではないよ。魔法に長けた、精霊や古き種族と近しい存在とされた人々だ。だからこそ、精霊を従え、魔法の力で黒の森を封じ込められたのではないかと思っている」


 魔女。確かに、そんなことを言ったら、神殿は激怒するだろうな。

「確かに、魔法に長けた人だった、と考えると納得ですね」

「ああ。そう考えると、『魔女』と呼ばれるほどに魔法を操り、精霊からも愛される人でなければ当てはまらないだろう? さて、そういう人が、今、現れているだろうか?」

 そういう視点では「現れていない」と言うべきだろう。


「アウローラ、この間、君の同級生はあまり魔法が得意ではないと言っていたね」

 ジェイソンの問いに頷いて答えた。

「はい、正直なところ、クラスでも一番苦手そう。ただし、珍しい治癒魔法が使えるとのことだけど」

「だが、聖女は別に治癒魔法に長けてた、と書かれているわけではない。あらゆる魔法に長けていた」

「君たち、私の話はあくまでも仮説だからね。しかし、国の中枢は似たような資料は持っているだろうし、私が知り得ないような古い言い伝えも残っているかもしれない。それであれば、最近の噂の取り扱いは、伝説の聖女が現れたことを危惧するよりも、政治的な配慮をもって経過を見ているのではないかな?」

 グロブナー教授はそう言うと、椅子に深く沈み込んだ。


 それからしばらく様々な伝承の考古学的証明について話を聞いてから、教授にお礼を言って研究室を出た。

「なるほどね。国としては、聖女が現れたかどうかは気にしておらず、単に政治的な案件として処理しようと考えている可能性はあるな」

「教授の説を信じれば、だけれど」

「アウローラはどう思った?」

「とりあえず『聖女』と呼ぶけれど、聖女が魔法を受け持つ人だった、と考えると黒の大戦の四人の任命はとても理にかなっている。現在の禁足地の結界にしても、魔法の力を持つ人がいなければ成り立たないし」

「魔術師も魔法が使えたと思うけどね」

「うん。わたしたちも、魔法と魔術の両方を使うし。でも、まずは魔法の力が重要」

「ああ。このこととは別に、魔女について研究しても面白いかもしれないな」

「ジェイソン先輩、グロブナー教授の論文の写しを見せてもらってもいいですか?」

「キャメロン様に頼んでごらん。流石に写本は作れなかった」

「はい」


 その後、部室に寄ると、丁度キャメロンが何か資料を読んでいるところだった。

「キャメロン様、相談があるんですけど」

「何かい?」

 わたしは、まずはリュシエンヌから個人的なお茶会に誘われたことを相談した。

 行ってみようと思っているが、何か気をつけることはあるのかと。


「リュシエンヌ嬢の個人的なお茶会か。彼女はとても聡明で公平な人だよ。最初に呼ばれたお茶会のテーマは『聖女』だったんだろう? それであれば、間違いなく聖女の件について君とも情報交換をしたい、というメッセージだ」

 やっぱりそうか。


「でも、わたしには何も聖女について情報なんてありません」

「ああ。でも、『無い』ということも含めて直接確認しておきたいのだろう。それに、君が関係ないと思っていても、リュシエンヌ嬢にとっては有益な情報が出るかもしれない。

 大丈夫。彼女は、無理に星読みを頼むといったことをするような人ではないよ。軽い気持ちで参加してごらん」

 キャメロンの言葉に少し安心したが、自分の貴族社会への常識のなさがどうしても心配だ。キャメロンだったら、アウローラがそのあたりが不得手なことをよく知っているから、不躾な質問をしても許してくれるだろう。


「あの、リュシエンヌ様は、フェリクス殿下の婚約者ですか?」

「多分、そうなると思うよ。ティモシー皇太子殿下は外交上の理由から、外国の王族からリュドミラ皇太子妃殿下を娶られた。そうなると、第二皇子は国内の有力貴族からお相手を迎えるだろう。リュシエンヌ嬢であれば問題ない。カヴェンディッシュ公爵家は、皇家の盾だからね。だからこそ、国の憂いとなるような芽を見つければ、速やかに対応するように育てられている。厳しく、高潔な家柄だ。決して私欲では動かない」

 キャメロンは真面目な顔で説明してくれた。

「でも、そこまで問題がないのに、どうしてまだ婚約者ではないんですか?」

 キャメロンは少し困った顔をして、「色々、政治的な綱引きがあるんだろうね」とだけ言った。


「すぐには信頼できないだろうが、彼女は困っている人を切り捨てるようなことはない。ただし、国のためにある程度の犠牲を払うことも許容できる人だ。それでもね、完全に見捨てるようなことはないよ」

 キャメロンの言っていることはとても難しい。貴族ならではの視点だ。

 言いたいことはわかるが、それが自分とどう関わるのかによって、受け止め方は変わるだろう。

「自分の目と心で確認しておいで」

 その言葉に深く頷いて、部室を後にしようとしたら、キャメロンが「ジェイソンのコラムが載っているよ」と、新聞をくれた。

 気が重い話をした後だけに、後でゆっくり楽しもうとありがたくもらって帰った。


 部屋に戻って、いつもの天体観測の準備を整えてから、先程もらった新聞を開いた。

 コーヒーを飲みながら新聞を読むと、まるで北の極でマスターと一緒にいるような気がした。

 そういえば、グロブナー教授の論文を見せて欲しいとキャメロンにお願いするのを忘れてしまった。今度お願いしなくちゃ。


 *********

 観測日誌 

 天体観測結果:想定地域は東へ移動。想定現在地はディレクトラ大帝国外、北西地域を東に移動中。

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