46.課外活動
その日の授業が終わると、ゴンザレス先生が「来週一杯までに、仮入部でも良いので何かしらの課外活動に所属すること」と言った。
「アウローラ嬢は、何に入るつもりなのか?」
ジャスティンが質問してきた。
「まだ決めてないんだけど。そうだ、今朝、ジャスティン様のお兄様に図書館で会って、新聞部を勧められたんだけど、どうなんだろう?」
「え、兄上に?」ジャスティンが驚いたように言った。
「うん。弟が一年にいるって言ってたから、ジャスティン様なんだろうな、って」
「ああ。新聞部の部長をやっている。アウローラ嬢は、新聞部に入るのか?」
「決めてないけど、パンフレットは貰った」
そこにシンカーがやって来た。
「アウローラ嬢は、魔法陣とか魔法薬とかの研究活動に参加しないのか?」
「あまり考えてなかった、です」
「ああ、言葉遣いはあまり気にしないでいいよ。学院の中だからね。
あれだけの魔法を扱えるのなら、魔術関係の研究活動から引く手あまたなんじゃないか?」
ジャスティンも頷きながら言った。
「そういう皆さんはどうするの、ですか?」
「私は、魔法陣と魔導具の研究室に入らせてもらいたいと思っている。ジャスティンは、シュバリエか? おーい、リカルド、結局、生徒会からの推薦を受けるのか?」
シンカーがリカルドを手招きしながらそう言うと、ジャスティンが考えながら答えた。
「そうだな。魔法騎士になるためには、武芸も磨く必要があるから、やはりシュバリエには所属すると思う。ただ、魔獣関係について研究したいから、どこに入るのが一番合っているのか迷っている」
リカルドが「魔獣関係は、色んな部門に渡っていることが多いからね」と同意した。
「大体方向性は決まっているんだ、ですね」
「まあ、一年時には必ずどこかに所属する、というルールがあるのは入学前からわかっているからね。だから、無理に言葉遣いを直さないでいいよ」
ジャスティンが苦笑した。
そこに、アレクサンドル皇子とランセルが加わった。
「課外活動の相談か?」
「ああ。アレクはどうする? クラス委員をやっているから必要はないだろうが、何か入るつもりか?」
「わたしは、ティモシー兄上やフェリクス兄上ほどには、学問が得意ではないからな。それよりは体を動かす方が好きだ。シュバリエには参加しようと思っている」
また出た、シュバリエ。
「すみません、シュバリエって何ですか? マドレーヌ様も言ってたけど」
わたしの質問にアレクサンドル皇子が驚いたような顔をしたが、ランセルが代わりに答えてくれた。
「シュバリエは騎士に必要な武術と心得を習得する課外活動です。レッジーナ学院でも一番大きな課外活動でしょう。将来、武官を目指すのであれば必ず所属しますし、そうでなくとも大半の男子生徒は、最低でも剣術は身につける必要がありますから、中等部だけでも所属する人は多いですよ」
なるほど、そうだったのか。
将来有望な四人とアレクサンドル皇子の側付きのランセルがいるとなると、他の生徒も集まってきて、課外活動の情報交換の場となった。
委員活動に参加していても、大半の男子生徒はシュバリエにも参加するようだ。
わたしは、シルヴィアはどうするのか聞いてみた。
「クラス委員がありますので、あまり忙しい活動だと、出席できずにご迷惑をお掛けするかもしれませんでしょう? それでも『アイリス交流会』には、参加するつもりですわ」
「シルヴィア様もですか? 私もですわ」
と、女生徒の何人かが同意していた。色々知らない名前が出てくるから、今のうちに聞いておかないと、もっと聞けなくなってしまう。
「アイリス交流会って何ですか?」
わたしの質問に、周囲は「えっ?」という顔をしたのでちょっと恥ずかしかったが、シルヴィアが「気にしないで何でも聞いてくださった方がいいですわ。私たちも、誰もが知っていると思い込んでいることがありますもの。外国からお客様がいらした時にも似たような失敗をしてしまうので、こうやって気付けるのはありがたいわ」と言ってくれた。ほんと、優しい。
アイリス交流会とは、簡単に言うと、お茶会クラブみたいな感じのものだった。
月一回程度の頻度で、お茶会が開催されるので、そこで情報交換をしたりするらしい。そして、年に一回は、お茶会開催の主催側にならないといけない。もちろん、中等部一年生は、先輩のお手伝いに入るだけだ。しかし、この経験が将来自分でお茶会を開催する際の基礎になるということで、男子におけるシュバリエ同様、女子の大半はここに所属するらしい。
「アウローラさんもいかが?」
シルヴィアに聞かれたが、わたしには、ちょっと敷居が高すぎる。
「流石に無理だと思う」
「気が向いたら、一度見学だけでもいらしてみるといいわ。平民の方も、なかなか経験する機会がないということで、学院にいる間だけでもと所属される方は多いのよ」
と、教えてくれた。それでも、まだそこまで勇気はないかも。
レッジーナ学院は大帝国一の進学校で、将来の為政者や官僚を輩出しているということから、どうしても男子の割合が多い。一年生も二十四人中、女子生徒は八人だ。
そのうち五人はアイリス交流会に所属すると言っている。
所属しない一人はマドレーヌで、彼女は最初からシュバリエ希望だ。できるだけ練習に通いたいらしい。ただ、年に数回は「ゲスト」扱いで参加させてもらえるように、クラスメイトに頼んでいた。
もう一人、アイリス交流会に所属しないのはロザリンドだった。
「私は、聖典研究会に所属するつもりですわ。聖女の行いを学ぶ機会を得たいと思っていますの」
そう晴れやかに話す姿は、心から聖女を慕っているように見えた。
……ふうん。本当に聖女になるために頑張りたいのかな。
それ以外では、法律研究会や、調合研究会、考古学研究会、古文書研究会、植物愛好会や美術部などが挙がっていた。
「それでアウローラさんはどうされますの?」
「うーん……古文書研究会も気になるけど、とりあえず新聞部を見てみようかな」
「え、本当に行くのか?」
ジャスティンが驚いたように言った。
「うん。入るかどうかはわからないけど、新聞読むのは好きだから」
「星読みって新聞を読むものなのか?」
アレクサンドル皇子がなんか失礼なこと言っている。一体どういうイメージなんだろう?
「もちろん。毎日、十紙は読んでました」
「そうなのか?」
周囲の生徒たちも、意外そうな顔をしている。
「星読みのお仕事は、天体観測だけじゃないから。異常があれば、星を読む。星を読んだ結果と世界の動きを確認して、天変地異に備えたり整えたりすることもあります」
「……星占いなのかと思っていた」
「アレク。それはちょっと違ってるぞ」
リカルドが呆れたように言った。
「すまない」
……アレクサンドル皇子は皇子なのにあっさり謝るんだね。この間、フェリクス皇子にも怒られてたし、素直な末っ子なのかな。
「だいじょぶ。星読みの仕事は、表に出るべきものではないので。わたしたちの出番が少ない時代は、良い時代ということだとマスターが言ってました。アレクサンドル殿下が知らないということは、星読みの出番が少ないということで、それは良いことなの」
わたしの言葉に、アレクサンドル皇子がほっとしたような顔をした。
「それでも学べることは学ぶべきだから、レッジーナ学院にいる間に色々教えてもらえればありがたい。星読みのクラスメイトがいる世代など、なかなかないからな」
「その通りだな、アレク。魔法のスキルといい、気になることは色々あるから、これからもよろしく」
リカルドが微笑みながら言った。
「はい、よろしくお願いします」
「あ、魔法は私も気になっているから。今度、意見交換しよう」
シンカーが割り込んできた。
「あ、はい」
しかし、ちょっと女子生徒の目線が厳しい。ちょっと親しすぎたか?
「あの、皆さん一緒に意見交換できるといいかな、と思う。あ、そろそろ新聞部に行かないといけないので! ではお先に」
シルヴィアが苦笑しながら「いってらっしゃい」と言ってくれた。いいタイミングで抜けられたかな?




