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45.魔術基礎-2

 訓練場は、教室と併設された建物だった。

 とても広く、天井が高い。マドレーヌと数人の男子生徒が「ここで訓練している」と言っていたので、魔法や武器を行使しても傷まないような建物なんだろう。訓練場だというのに、壁も天井も傷一つない。


「では、先に水魔法にしましょう。ここなら万一溢れても床が水浸しにならない機能がついていますから。では、皆さん水を球体で出して空中で保ってください。一分保ったら床に落として結構です。ただし、なるべくそっと地面まで下ろすようにコントロールしてくださいね」

 やはり先生が見本を見せてくれた。片手に乗せられそうなボールサイズの水球を出して、胸の辺りに浮かせている。


 同じように水球を保持しようとして、何人かは少々苦労していた。

 多分、通常は水魔法を使い、コップなどに水を入れていたため、容器なしに形状を保つことをあまりしないのかもしれない。目の前で水がぐにゃぐにゃして、「あわわわ……」と言って手を開いたり握ったりしている。その度に水が揺れて危なっかしい。


 わたしは、小さい頃(今も体は小さいが)、シリウスとヴェガと遊ぶのに、小さな水のボールを作って投げたりしていたのでこれは得意だ。周囲にボールがなかったからとも言えるが。あと、家に虫が入ってきた時には、風魔法で追い払うか、水魔法で捕まえるのだ。身長の都合上、高い所にいると届かなかったし。


 今度はロザリンドは大丈夫かな、と思って周囲を見回してみると、なんと掌の中に水を入れているようだ。

「ロザリンドさん。水を浮かせてみて」

 先生が声を掛けた。

「先生、できません。だって、液体なんですもの。浮かせるなんてどうすれば……」

「これはコントロールの訓練です。それができなければ、水魔法を使った攻撃などは無理ですよ」

「攻撃……そんな恐ろしいこと、無理です」

 そういって、青ざめている。


 サーペント先生はため息をつくと、「余裕がある方は、そのまま水球の数を十まで順番に増やして浮かせてください。集中力が切れそうでしたら、一度消して休憩してから増やしていってくださいね。水球の形になっていない方はやはり一度消して、集中しなおす方が良いでしょう」と他の生徒に指示を出し、ロザリンドの指導に入った。


 とりあえず、水球を十個出せばいいのか。

 わたしが同じサイズの水球を出して自分の周囲をぐるっと囲むようにして立っていると、近くにシルヴィアが寄ってきた。

「アウローラさん、お上手なのね。わたしは、四つ目を出そうとすると、他の水球が落ちそう……」

 シルヴィアが水球を一つずつ慎重に出していく。三つまではきちんと並んでいるが、四つ目になるとそちらに視線が行き、逆端が下へと落ちていく。


「多分、目で見て高さをコントロールしているからだと思う。目を閉じて、イメージの中で水球が並んでいるようにできれば、見ないで並べる練習になるかも」

 わたしのアドバイスに従い、目を閉じてから、一つ、二つ、と出していった。

「そうそう。大丈夫、イメージ通りに並んでいるから。そのまま出していって」

 六つ目まで並んだところで、ぶるっと水球が震えて落ちた。

 バシャン、と跳ねるかと思ったが、そのまますうっと床に吸い込まれた。なるほど、そういう魔法吸収の術がここの建物には掛けられているのか。


「ああ……ダメね」

 シルヴィアが眉を下げてがっかりしている。

「そんなことない。六つまで綺麗に並んでたから、あとは集中力を切らさなければいけそう。反復して慣れれば大丈夫」

「そうなのね。有効な助言をありがとう存じます」

 シルヴィアが嬉しそうに微笑んだ。美少女の微笑みって凄い。周囲の男子生徒の顔が赤くなってるよ。

 そして、周囲の生徒はわたしのアドバイスが有効そうだ、ということで、全員目を閉じて水球を並べはじめた。うん、みんないい感じだ。


「あの、アウローラ様。よろしければ、どうしたら綺麗な球体になるのか、アドバイスいただいてもいいかしら」

 今度はマドレーヌが声を掛けてきた。

「ほら、私のは、微妙に歪んでいますのよ」

 見ると、確かに斜めに引っ張られたような球体が四つ並んで、うにゃうにゃ動いている。

 じっとマドレーヌを見ると、位置を保とうとするため、変に魔法の力で引っ張ったりしている感じがする。


「うーん、魔力が体の色んなところから漏れ出て、それに引っ張られている感じ? に見える」

「ど、どうやって止めれば?」

「……多分なんだけど、やっぱり目でコントロールしようとするからだめなんだと思う。目で見て丸くしようとしても、魔力コントロールが目のイメージに合わせてできてないみたい。色々引っ張ろうとして、体の変なところから魔力が出ている気がする」

 あくまでも、そんな気がするだけなんだけど、と付け加えた。


「まず、小さくてもいいから一つ出して。目で形を調整しないで、先に頭の中でイメージした球体をそのまま実現させるような感じで出してみて」

 マドレーヌがぐにゃぐにゃする球体を全部消し、もう一度一つ出した。じわじわっと水球が出てきた。先程の半分ほどのサイズだが、球体をしている。

「そうそう。そのまま、頭の中のイメージを、同じものが二つ並んでいる感じにするの」

 二つが並んだ。

「うん。とりあえず、そのまま二つのイメージを固めて、いけそうだったら三つにして」

 三つ目を出したところで全部がくっついたが、「ああ、頭の中で三つがくっついたら嫌だな、って思ってしまったわ!」と言っているので、イメージ実現力は強いタイプだと思う。

「だいじょぶ。イメージがちゃんと反映しているってことだから。安定してイメージできればできるはず」

「ありがとう存じます」

 汗を拭いながら、マドレーヌがお礼を言った。


「でも凄いわ、アウローラさん。アドバイスしながらでも水球を保ったままですもの」

 シルヴィアが感心したように言った。

「これは、たまたま得意なの」

 褒められてちょっと嬉しくなってしまった。

「でも、ロザリンド様はなかなか大変そうね。サーペント先生がかかり切りだわ」

「そうね。治癒魔法ばかり訓練されていて、基本魔法全般は、あまり使う機会がなかったのかもしれないわ」

 シルヴィアとマドレーヌがロザリンドの方を見て言った。


 確かに、ロザリンドだけがまだ水を浮かすところまで進んでいない。手元から水がどんどん出ているだけだ。

 しかし、他の生徒も、水球十個までたどり着いているのは、ジャスティンとシンカーだけのようだ。

 アレクサンドル皇子は、細かいコントロールはあまりやったことがなかったのか、大きな水球を三つほど出したところで止まっている。シンカーに「もっと小さくしないと、並べるだけで十メートルとかいきますよ」と言われている。魔力量がありそうなだけに、コントロールが難しいのかも。


 大半の生徒たちが複数の水球を並べようとしているのを見て、サーペント先生が次の課題を説明し始めた。

「最終的には水球十個を並べることまでできてもらいますからね。火魔法は、十本の指それぞれに小さな火を点けることが必須です。では、次は風魔法を見せてください。このカードを各自顔の高さに浮かせて保つこと。これも十枚までできるように」


 これはもっと大変だった。風は動かすのが基本で、一定の高さで保つという動作をあまりしない。

 しかし、先生が用紙を配布したりする魔法は、多分この風魔法の応用だ。届け先に向かって動かし、そこでぴたっと止める。それができるようになるには、まず「止める」ということができないといけない。


 今度は、周囲でぴゅーぴゅーとカードが舞っている。自分の風魔法を一定の状態で停止させるのだけでも難しいのに、他の人が起こした風に煽られたりもして難しい。

 でも、強風の中で何かを止めようと思えば、同じコントロールが必要だ。

 まずはカードを浮かせた上で、風魔法で見えない壁を作り周囲を囲った。これで、他の人の影響は遮断できた。うん、このやり方ならいける。

 あと九枚のカードを持ってくると、もう少し防御の壁の広げてその中に十枚全部を投げ入れた。

 これで完了だ。


「アウローラさん、防御壁は使わないでやってご覧なさい」

 サーペント先生が、わたしのカードを見て、防御壁を使っていることをすぐに見て取った。

「ダメなんですか?」

「いけないというわけではないけれど、そこまでできているんだったら、風魔法のコントロールだけで止めてごらんなさい」

「はあい」

「返事は伸ばさない」

「はいっ」

 いけない、つい気が緩んでしまった。


 ……うーん、周辺の空気の動きにも影響されないようにとなると、一枚ずつの座標軸をしっかり決めて固定する? 事前に準備できれば複数枚でも大丈夫だが、咄嗟には無理だ。先生が問題用紙を何十枚も一斉に届けるようなことはできない。どうするといいんだろう。


 ふと、ジャスティンの方を見ると、いい感じで五枚を並べている。

 わたしの視線に気付いたのか、ふっと笑って六枚目を並べた。

 ……あ、悔しい!


 くるっと後ろを向いて、どうやって並べるのといいのか考えた。

 カードは重さがないから風の影響を受けやすい。重量を足す? うーん、それは風魔法の範疇外だ。

 厚さがないから、上下から同じ力で風を当てる感じか。

 とりあえず、一枚を浮かせ、上下から風圧を均等にした層を作ってみた。うん、いい感じ。

 一気に十枚を浮かせて、上下から風圧で圧迫させる感じにしてみた。

 そうか、こんな感じで一枚ずつ薄く覆えば、魔力も使わないかな。

 もう少し調整してみる。


 ジャスティンの方をちらっと見ると、わたしのカードを見て少し悔しそうにしている。

 もう一人、シンカーも八枚まで並んでいる。あれは、いけそう。

 アレクサンドル皇子はなんと十枚を重ねたまま浮かせている。あれはいいんだろうか? まあ十枚浮いていることには間違いないが、リカルドがその点を突っ込んでいる。

 あの四人はやはり仲良しみたいだ。

 そこに、「危ない!」という声がした。うん? と声がした方を見たら、ロザリンドの周囲につむじ風が舞っている。勢いよく回っているため、誰も近づけない。


 先生が「ロザリンドさん、魔力を止めて!」と言っているが、中まで声が聞こえていないのか、止まる気配がない。あれは危ない。わたしも小さい頃(見た目のことではない)、風魔法をコントロールしきれず、焦ってどんどん風力が増してしまい、星読みの塔の周囲の木をなぎ倒してしまったことがある。

 とりあえず、止めるべきだと思い、中くらいの水球を五個ほど作ると、つむじ風の上の空間からバシャン、バシャン、バシャン、と連続して水をぶっかけた。

「きゃあああああ」

 ロザリンドの叫び声と一緒に、驚いて風魔法が止まったのか、つむじ風が止んだ。

 そこにはずぶ濡れのロザリンドが立っていた。


「酷いわ! 水をかけるなんて!」

 泣きそうな顔で立っている。

「仕方ありませんでしょう。魔力が暴走していたのですから。乾かすのは簡単ですよ」

 サーペント先生はため息をつくと、さっと手を振り、温風を出すとロザリンドを乾かした。

 ただ、ふわふわカールの髪の毛は、ボサボサになってしまっていたが……


「そろそろ時間ですわね。次の授業では、今日の復習と土魔法、身体強化までやりますからね。最低でも三つはコントロールできるように、各自で練習しておいてください。コントロールに自信のない場合は、訓練場を使っていいですよ。部活動の邪魔にならないように、譲り合ってくださいね」

 サーペント先生はそう言って授業の終了を告げた。


 悪いことをしたかな、と思い、わたしは、まだ半分泣きそうな顔をしていたロザリンドに謝ろうとした。

「あの、さっきはごめんなさい。止めないと危ないと思ったので、咄嗟に水球を出してしまって……」

「あ、あなただったの! 魔法が得意だからって、うまくできない私をいじめなくてもいいじゃない」

「え、そんなつもりじゃなかったのよ? 危ないからとにかく止めないとって思ったから」

「酷いわ……」

 どうして良いのかわからずおろおろしているわたしを置いて、ロザリンドは訓練場を出て行ってしまった。

 呆然としたわたしの後ろで、ジャスティンが笑いを堪えている。リカルドが「笑うなよ」と言いながらジャスティンを小突いていた。


「大丈夫よ。少し恥ずかしくてあんなことを言ってしまっただけよ」

 シルヴィアが慰めてくれたが、初めて人からあんな風に言われて、ちょっぴり落ち込んでしまった。

「うん……次回はもうちょっと上手に止められるようにする」

 わたしの言葉にシルヴィアとマドレーヌが苦笑した。


「止められただけ良かったと思いますわよ? そうしなかったら、あのまま暴風になって誰かが怪我をしたかもしれませんもの。そうなったら、ロザリンド様の責任問題になったかもしれませんわ」

「ええ。さあ、ランチに行きましょう。今日はマドレーヌ様もご一緒にいかが?」

「よろしいかしら。では、是非」

 二人の励ましで、ちょっと気分が浮上してきた。うん、頑張ろう。


 そして、三人でコントロールのコツを話し合いながら食べるランチは美味しかった。いつもは教えてもらってばかりだったけれど、こうやって誰かと相談したり話し合ったりするのもいいな。

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