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39.波乱はあるのか?

 眩しいな……

 目を開けると、見慣れない場所だった。次の瞬間、レッジーナ学院へ来たことを思い出した。

 天窓のある部屋なので、お日様が昇ると部屋中が明るい。これは、星読みが夜更かしして寝坊しないようになっているのかも……とちょっと思ってしまった。


 急いで支度をして、朝食も済ませたら、もう登校時間だ。

「えーと、入学式と始業式があるから、今日は大ホールへ行く、と」

 鞄に筆記用具とハンドブックを入れて、部屋から出ようと下を見ると、そこには寮長のリュシエンヌと女子生徒が三人いた。

「おはようございます」

 挨拶は大事だからね。階段を降りてちゃんと鍵を閉めて階段を壁に収納すると、先輩たちの脇をすり抜けて大ホールへ向かおうとした。


「お待ちになって」

 やはりダメだったか。面倒だな、という表情にならないよう、星読みのお仕事モードのきりっとした顔を作ると、振り返った。

 後ろに三人の女子生徒を従えるような感じで、リュシエンヌが一歩前に出た。

「朝の忙しいところにごめんなさいね。大ホールに向かうのでしょう? ご一緒しましょう」

 結構です、と言いたかったが、昨夜この人には逆らわない方が無難と叩き込まれている。「はい……」と言って、先輩方に囲まれるようにして大ホールへ行くことになった。


「中等部の新入生ですわよね。お名前は?」

「アウローラ・ステラです」

「そう。私は女子寮の寮長をしておりますリュシエンヌ・ララ・カヴェンディッシュですわ。昨日、ここの天井から出入りしている生徒がいる、という報告がありましたの。寮母に確認したところ、今年は星読みが入学したので、専用部屋を開放したという説明を受けました」

「はい、そうです」

「ということは、あなたが星読みということね?」

「はい」

「私、星読みの方にお会いしたことがないのですが、皆さん同じような感じなのかしら……?」

 ちらっとリュシエンヌの方を見上げてみると、冷静な顔をしているものの、内心は好奇心が湧いている感じがする。嫌な感じじゃないけど、なんか熱量が凄そう。

「いいえ。わたしがまだひよっこなだけです。マスターや姉兄弟子は、大昔に専門研究大学院を出ています」

「まあ。そうなのね。ここに入学されたのは、何か理由があるのかしら?」

「理由?」

「ええ。星読みの方をお呼びするというのは、基本的には国家レベルの問題や天変地異が発生した場合。もしや、このレッジーナ学院に問題が起きるという予兆でもあったのかと」

 なるほど、そんな風に考える人もいるのか。

「いえいえ! 今回は純粋にわたしの修行の一環です。あれ? うん? そのはずです……」


 自分で言いながら、ちょっと不安になった。

 あのマスターのことだ。修行の一環として学校へいくべきだというのはあったとしても、このタイミングでレッジーナ学院を選んだのは、何か別の理由があってもおかしくない。

 ……ここで何かがある……? いやいや考え過ぎだよね??


 普段は自分一人で考え事に没頭していたクセで、わたしの返事が尻つぼみになった上に、会話中だったことを忘れて何やら考え始めてしまったのを見たリュシエンヌが、眉をひそめていたのを見過ごしてしまった。リュシエンヌは、周囲の生徒と何やら目配せをして、咳払いでわたしの注意を引き戻した。


「そうなのですね。わかりましたわ。何か困ったことや、知りたいことがありましたら、私に相談してくださって良いのですよ。私の部屋はこのフロアにありますから。いつでもいらっしゃい」

 完璧な淑女スマイルに、なんだかロックオンされた気がして背筋がすっと冷える気がしたが、寮長をしている人の知己を得たのはありがたいと思うことにした。

「はい。どうぞ宜しくお願いします」


 それから大ホールに到着するまでは、気になっていた選択授業について教えてもらったりして、とても有意義だった。

 先輩の知り合いがいないわたしにとっては、ありがたい先達かもしれない。姉兄弟子の情報は古すぎるからなあ。

「質問があればいつでも声を掛けてくださいね」という優しい先輩方にぺこり、とお礼をして、大ホールの最前列にある一年生の席へ向かった。


「リュシエンヌ様。やはり、今年は荒れるのではないでしょうか」

 リュシエンヌの左隣に立つ、まっすぐな黒髪に黒い切れ長の目をした美少女が声を潜めて言った。

「ユキノ様。決めるのはまだ早いですわ。でも、そうですわね。例年よりも気をつけてまいりましょう、皆さま」

 リュシエンヌがそう言うと、周囲の女生徒が頷き、高等部二年生の席へと混ざっていった。


 粛々と入学式ならびに始業式は進んでいったが、わたしは式の間中、またもや強い視線を感じて耳の後ろがチクチクムズムズしていた。

 これは、視線もだが、それ以上に誰かがわたしを強く意識しているのではないかと思った。そう、森の中で動物がわたしのことを意識している時に感じるものに近いかも。

 ……でもなーそれって捕食動物じゃない時なんだよねー狼とか熊だと、逆に察知されないように意識を消すからなあ。ビクビクした動物が、物陰から様子を見ている時に感じるものに近い?


 そういう時に、どこに相手がいるのか探すと、さっと隠れるか逃げてしまうので、ビクビクした動物の位置を探るには、探していると気付かれないように、さりげなくしていることが必要だ。

 しかし、大ホールだと人が多すぎて気配を辿ろうにもよくわからない。教室に移動しても感じるかどうか、まずは確認してみよう。


 式が終了し、ゴンザレス先生の引率でクラスルームに来たが、やはりチクチクムズムズは断片的に続いている。

 ……うーん、こうなるとクラスメイトかあ。


「皆さん、ボードに席の場所が貼ってあるので、そちらを見て座ってね」

 わたしの席は……窓側の一番前だ。

 ててて、と自分の席に座ると、隣りがまたジャスティンだった。

「やあ、また隣りだね。よろしく」

 最初だし、貴族だし、同級生でも丁寧に話した方がいいのかな。

「こちらこそ宜しくお願いします」

「アウローラ嬢。失礼な質問でなければいいが、君、見た目が中等部に見えないが、何歳なのかな?」

 ジャスティンの直球の質問に周囲の注目が集まった気がした。皆、聞きたかったが聞けずにいたのだろう。そういう意味では、彼は強者だ。

「九十八歳」

「はあああああ?」

 ジャスティンの大声にわたしの方が驚いてちょっと飛び上がってしまった。


「冗談かな?」

「いいえ」

「何か呪いにでもかかって、眠っていたのか?」

 ジャスティンの想像に思わず笑ってしまい、緊張がほぐれたせいか、いつもの地が出てしまった。

「なにそれ。物語の読み過ぎ。長命種だからだって、マスターが言ってた」

「長命種? マスター?」

「うん」

「長命種ってエルフとか?」

「さあ? 生まれてすぐ、マスターに拾われたから、よくわからない」

 わたしの説明にジャスティンが悪いことを聞いた、という顔をしたので、気にしないように言おうと思ったが、そこでゴンザレス先生がパンパンと手を叩いた。


「はいはい、そこまで。皆さん席に着きましたね。では、授業についての説明をしますね」

 ゴンザレス先生がそう言うと、手元の紙をばっと放り投げた。

 飛び散る! と思ったが、ちゃんと一セットずつ生徒の手元に届いた。素晴らしい調整力だ。

「では、まずは必須科目と選択科目について説明するわね。一年生は基本的に必須科目だけよ。ただし、何らかの課外活動には必ず参加すること。クラブ活動でも委員会活動でもいいわ。一覧は別紙を見てね」


 ゴンザレス先生の説明によるとこうだ。


 ここはディレクトラ大帝国の学校なので、大帝国の教育に定められた科目は必須となっている。

 その上で、将来の国を背負う若者の教育機関として最高レベルの知識を学ぶべく、一年生で普通の学校で学ぶべき必須科目を全部終えて、二年生からはその応用クラスと選択科目が入ってくる。

 高等部になるとコース選択をして、そのコースに必要な選択科目を取る。ある程度はその方向性を考えて二年生から選択している方が合理的だが、最終的なコース選択後からで十分間に合うので、学びたいことをどんどん学ぶことを推奨する、とある。


 一年生の必須科目はこんな感じだ。

 基礎教養:語学、算術、歴史、地理

 魔術基礎:魔術基礎理論、魔術基礎実践


「語学は、大陸共通語は入学試験で十分なレベルにあると判断されているので、学院ではそれ以外の言語を学びます。一年生で学ぶのは、古語の一つであるヒッポルム語です。歴史を学んだ皆さんはご存知だと思いますが、ヒッポルム時代に魔術が大きく発展しました。そのため、魔術の古書の多くはこのヒッポルム語で書かれており、呪文や魔法陣、魔導具の全てにおいてこの言語の理解は欠かせません。


 算術はレベルが大きく分かれるので、初日に試験をして、すでに必要レベルに達している場合は授業免除となり、学期末テストだけとなります。ただし、学期末テストで赤点を取れば単位が取れませんからね。ご自分で教科書を確認して試験の準備はするように。もちろん、免除となっても授業に出て良いですよ。


 歴史と地理もすでに基本は学んでいる前提ですが、国・地域によって多少解釈にズレがあります。そのため、前期では「正史」とされるものを、後期では各地に残された伝説や風土記を学びます。その上で、現在の各地域の特性を学ぶことが地理の範囲となります。

 この二つは密接に関係していますので、分けずに授業を進めます。より考証学的なことに進みたい場合は、この先の選択科目で考古学や地政学、さらには発展型として、法律研究などがありますのでそちらで。一年生の間は、ベースとなる歴史と地理および通説を学びます。


 魔術基礎では、魔法と魔術の違い、魔法陣の基礎、そして基礎魔術を習得してもらいます。すでに基本魔法が使える人ばかりかと思いますが、そこがしっかりしていないと将来の伸びに限界があります。正しい使い方を学ぶことで、一時的に攻撃の火力が落ちたりするかもしれませんが、一年生の間に我流を修正することをおすすめするわ。前期で魔法の基礎を固めた上で、後期からは様々な魔術を学びます。


 一年生で学ぶことは、将来的にどのコースに進んだとしても必須な内容ですからね。

 学期末テストで八十点以上を取れないと、二年時に応用クラスを学びながら同時に基礎クラスももう一度やり直しになります。例外はありません」


 うわ。厳しいんだ。

 でも、それくらいの学力がある生徒しかいないのだろう。少し青ざめてはいるが、文句は出ない。


「では、次に簡単ではありますが、高等部のコースについて説明しておきます」


 コースはシンプルで、統治コース、行政コース、魔術コースの三つだ。

 しかし、選択科目によってはかなり専門性が高いようだ。


 統治コースは、まさに名前の通り、領地持ちの家系が行くコース。あるいは、そういう所にお嫁・婿入りが決まっている人。


 行政コースは、将来文官希望の人や大手商会経営関係の人が多く入るらしい。法律から経済、軍務、教育など実務関係を一通り学べる。統治コースの人も一部はこのコースの選択科目を取らないといけない。


 そして魔術コース。これは、魔術関係は全て含まれる。純粋な魔術研究から、魔法騎士、魔導具師、魔法陣研究開発、魔獣研究、薬学も全部ここ。星読みや占術はここの発展型。

 ただし、統治コースも行政コースも、何らかの形で魔術を使うため、一部の授業は全コースが必須らしい。逆に、魔術コースに進んでも、統治や行政コースの選択科目も取れるし、魔法騎士とかは行政コースの軍務についての授業を取ってないと将来幹部にはなれない。


「今の段階で決める必要はありませんが、委員や課外活動では他の学年と一緒になりますから、そこで興味があるコースや授業について聞いてみるといいでしょう」


 ……なるほど、だから一年生は何らかの課外活動が必須なのか。

 ふむふむ。ちょっと面倒だと思ったけれど、違う学年の先輩と交流できるのはいいかもね。

 しかし、やっぱり耳の後ろがチクチクムズムズするなあ。うーん、誰だろう……

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