31. 夢、夢、また夢
また、夢だ。
不思議なことに、わたしは夢を見ているということがわかっている。
わたしはもう、砂漠にはいない。
ここは荒野だ。
光の筋を追って、ここまで走ってきたのだ。
夢の中だから、わたしは光と同じスピードで走れる。わたしはガニメデ?
光よりも早く走るうちに、ガニメデはどんどん若返っていった。
そして、流星が落ちた場所に到着した時、ガニメデはわたしと同じくらいの年頃になっていた。
流星が落ちた場所が光っている。一体、何が光っているのだろう。
見るのがなんだか怖い。
一歩、一歩、慎重に近づいていく。
さあ!
そこで目が覚めた。
寝袋から起き上がると、ガニメデがこちらを見ている。
「話して」
愛想のない、通常運転のガニメデだった。
わたしが昨夜の夢を語ると、深いため息をついて、
「どうして、アウローラなのかしら」
と呟いた。
「おはよう」
客間からヘルマンが上がってきた。
いつものようににこやかだ。しかし、彼に会ってからすでに二十日近く経ち、彼の姿は四十代か五十代くらいに見えた。
「おはよう、ヘルマン。体調はどう?」
「ああ、変わりないよ」
そして、わたしたちはご飯を食べ、いつものように観測を始めた。
ガニメデは、無言だ。
わたしは、ガニメデの方を見ながら、昨夜の夢のことを思い返していた。
あれはガニメデが見るはずの夢なのだろうか。誰かが夢を通じて、メッセージを送ろうとしているのかもしれない。しかし、ちょっとズレてわたしが受信してしまったのではないか。
そして、わたしはヘルマンを見た。
記憶を失っているが、間違いなくあの夢はヘルマンと関係している。
「うーん……」
「どうしたのかい?」
無意識に声が出ていたようだ。
「なんでもにゃい」
取り繕って、もう一度考えに沈んだ。
また夢を見れば何かわかるのかもしれないが、その前にもうちょっと解決しておきたい。
わたしだって、星読みなんだから。ふん!
その夜も明け方に近い頃、わたしは自分の占盤を取り出した。
この時期、木星は明け方頃に見えるのだ。
ガニメデは、わたしのやることを黙って見ている。わたしが星占いをすることは問題ないようだ。
この前、ガニメデはヘルマンを占っていた。
それであれば、わたしもヘルマンを占ってみるべきだろう。
木星が東の空に現れた頃、わたしは手持ちの石の中でも、木星に関連する色や形だけを選んで投げた。
「うにゃ……」
これまでわたしの星占いは、かなりの成功率だと心の中では自負していた。そこそこいけてると。
しかし、これは何だ。ここまで明らかな失敗は初めてだった。
占盤の上に散らばった石は、何も示していない。
この間の星読みもだが、ヘルマンについての試みは悉く失敗に終わっている。
あまりに悔しくてじわっと涙が出てきた。
ヴェガがわたしの側にきて、そっと慰めてくれたが、気分は最悪だ。
ヘルマンもこちらに来た気配がする。
泣いているのを見られたくなかったので、くしくしと目をこすり、ささっと占盤と石を片付けた。
「アウローラ……」
ヘルマンが頭を撫でた。
子供じゃない、と言いたかったが、また涙が出そうだったので、黙って顔を背けているだけにした。
朝食も終わり、さあ眠ろうという時になって、ガニメデが小さく折りたたんだ紙を渡してきた。
「なに、これ」
「これを持って寝て。見ちゃダメよ」
そう言って、わたしを寝袋に押し込んだ。
その日の夢は、昨日の続きだった。
少女になったガニメデが、光の輪を覗いている。
すると、そこには真っ白い髪の毛をした男の子が横になっていた。出会った頃のヘルマンだ。
ガニメデが、にっこり笑って手を差し伸べている。
そこには、寝る前に渡された紙があった。
ああ、ガニメデは夢の中にメッセージを届けようとしたんだ。
そう、思っているわたしは、この夢の中ではどこにいるのだろうか?
しかし男の子は眠ったままで動かない。
渡さないと! わたしの気持ちは焦るが、少女のようなガニメデは、そのままにっこりと手を差し伸べたままだ。
どうしたら起こせるのか・・・そうだ! 目覚まし鳥はどこ?
来て、目覚まし鳥! いますぐここへ来て! 好きにウロウロできるんだから、夢の中も来られるでしょ! さあさあ、頑張れ!!!
どうしたらよいのかわからないままに、全力で願ったところ、どうやったのかはわからないが、ガニメデのもう片方の手には、目覚まし鳥が止まっていた。
そのことに気付いたガニメデは、目覚まし鳥の頭にキスをして、そっとヘルマンの胸に置いた。
鳴け!
目覚まし鳥は、うん? というように辺りを見渡して、ヘルマンの上をと、と、と、と歩いた。
あ、本当に歩けるんだ?
わたしの小さな驚きを余所に、目覚まし鳥はそっと嘴でヘルマンの手をつついて起こしてやった。
ヘルマンは、ゆっくりと起き上がり、ガニメデから紙を受け取ると、中を開いた。
じっと、そこに書かれた文字を読んでいるようだ。
読み終わると、ポケットから何か手紙を取り出して、ガニメデに渡した。ガニメデも黙ってその手紙を読み、終わると二人はそのまま見つめ合った。
そのまま、何度も日が昇り、沈んでいった。
何千回も日の出と日没を繰り返して
明るいなあ、と思ったところで目が覚めた。ガラスのドームはスモークを消して、観測部屋は夕方の柔らかい光に満ちていた。
「渡せた?」
寝起き一番のガニメデの質問に、わたしは半信半疑ではあったが頷いた。そして、手元にあるはずの紙を探してみたが、やはり無くなっている。それに、目覚まし鳥まで消えてしまったようだ。
しかし、寝袋の中にガニメデが渡されたのとよく似た手紙が落ちていた。
「たぶん、大丈夫。これ、お返事」
「そう」
驚くかと思ったが、全く冷静なままガニメデはその手紙を受け取り、書斎机に座ると、銀色のペーパーナイフを取り出し中の手紙を読んだ。その顔は、ほんの少し微笑んでいた。
その後、ヘルマンも観測部屋に現れたのが、珍しく黙っている。
わたしは、もしかしてヘルマンにもあの夢が影響しているのかな、と考えながら、一緒に夕食の準備の手伝いをしていた。




