14. 星読みー3
それからの数日は、いつものように天体観測をしながら星読みを続けていた。
迷子の筋はまだ残っている。
……まあ、別次元の方の皇太子妃殿下が迷子だからね。あ、ジェロームもか。
しかし、それだけでは不十分だと思っている。こう、なんかしっくりこない。
そして、あれ以来、ニセモノ、というか別次元の皇太子妃殿下(仮にBとしよう)には会えずにいる。困ったことに。
多分、ポーラが帰ってきたことで、侍女がいなくなってしまったのが原因ではないかと思っている。一人になってしまった皇太子妃殿下(B)は、取り次いでくれる人がいなくなり、どこかに引きこもっている……? うーん、ごはんとかどうなっているのだろう。
色々、ナゾは残っているが、目下の課題は迷子の皇太子妃殿下(B)を探して、明日の蝕の時間に次元が繋がると思われる場所に来てもらうことだ。
あ、こちらの皇太子妃殿下は元気を回復されました。
どうやって?
あのカメリアの指輪が全てを導きます、決して外してはいけませんよ、とお伝えして、皇太子殿下には宰相閣下に伝えたのと同じように「カメリアの指輪があればOK」と教えた。
その結果……まあ、元サヤということだ。仲良きことは美しきかな、ということで、一件落着。
加えてタイミング良く、もう一人の皇太子妃殿下が出てこなくなった。
とりあえずは、皇太子妃殿下が二人現れることもなくなったので、皇族の皆様もとりあえずは片付いたんじゃない? ということで、ほっとしている。
一方で、皇太子妃殿下(B)が見当たらないこの状況…… わたしとしてはこれがマズイ。
宰相閣下も、ジェロームが戻っていないということは、この世界のどこかに皇太子妃殿下(B)が残っているということで、根本解決になっていないリスクを重く見ている。そのため、毎朝の面談は続いているのだ。
……妃殿下、どこにいるのかなー泣いてないかなー
そこで、ぴこん、と思いついた。
孤独……涙、嘆き、ため息
マスターのところに入る依頼の多くは、国家レベルの話ばかり。もちろん、暗殺といったものが絡むと、人間の感情も交じるため、こういう情緒的な占いをすることもある。これはとても難しい。
なぜなら、理由は人によって異なるが、身分関係なく人間が根源的に持つ感情は似たようなものだ。その中で特定の人の狙いをすくい取るというのは、人の数だけある砂粒の中から1つの粒をより分けて探すようなもの。明確に、その人を示すような導きを与えないと、結果は出てこない。
あまりやったことがないことなので、わたしとしてもちょっと気合いを入れて場を整えた。
淋しい星たちが一番揃う時間帯になって、いつもの占盤をテラスのテーブルに広げた。
更に力を引き寄せられるように、四隅には天王星の光だけを反射するという特別な石を置き、東の空に天王星が瞬くのを待った。
……いまだ。
その瞬間に掌に持った月長石を布の上に転がした。
「えーと。薔薇の下、北と南?」
そこに紡がれた占いの結果は、具体的なような、そうでないような、わかったような、わからないようなものだった。
……ちょっと何か足りなかったかあ。確かにこんな大きなお城だったら、涙も嘆きも孤独も多々あるだろうし。絞り込みが足りなかったか……
とはいえ、天王星の影響で、別次元からたった一人でこの場所に残されてしまって帰れない皇太子妃殿下(B)は、今、天王星が示す中では最も孤独ではないだろうか。となると、この結果は彼女に一番近いはず。
「ヴェガ。ちょっと散歩に行こう」
自動観測の機械を再確認し、もう一度天王星の位置を確認してから、占いの一揃えをフードつきマントのポケットに仕舞い、部屋からそっと出ようとした。
すると、ポーラがするするっとやってきて、フードの中に潜り込んだ。
「ポーラも行くの? そうだね。ジェロームの気配がしたら教えてね」
ちー、という息を吐くだけの小さな返事を聞いて、ヴェガとポーラを連れて部屋を後にした。
すでに真夜中は越えており、衛兵だけが佇む城は、とても静かだ。
わたしとヴェガを見かけると、ちょっと驚くが、星読みは夜に動く人たちなので、すぐに腕輪だけ確認して通してくれる。宰相閣下からの連絡がしっかりと届いているようだ。
時々夜空を眺めて、何も異常がないことを確かめつつ、城の中をふらふらと歩き回った。最初に北の方に向かったが、こちらは執務関連の場所で厳重な警備があり、そんなところを皇太子妃殿下(B)がふらふらしていたら一発で目撃情報が出る。
その後、南に向かおうと思ったが、そちらは逆に王家プライベートエリア。これまた難しい。
ということで、衛兵に「一番薔薇が綺麗な庭」の場所を聞いたところ、西側の庭を勧められたので、てくてくと西へ向かった。そういえば、最初に皇太子妃殿下と会ったのもこちらの方だったっけ。
夜の闇の中、薔薇の香りがしていた。もうすぐで薔薇園のようだ。
黒い鉄で作られた蔓が絡まった形状の優美な扉の前に衛兵が立っていた。黙って腕輪を見せると、静かに薔薇園への扉を開けてくれた。
そこは細い小道の所々に蔓薔薇のアーチがあり、緑を刈り込んだトピアリーを上品に配置することで、奥が見通せないようになっている庭だった。
迷路とまではいかないが、広くはない庭をゆっくり散策するよう、小道がくねくねと回りながら、段々中心へ向かうように構成されているようだ。
ただ、ところどころ道を横切るように薔薇色の小石が埋め込まれている。よくわからないまま歩いていて途中でわかった。あまりに何度も道をこの線が横切っているため、地面に寝転がって、線の行方を確認したのだ。
……これ、多分南北に一直線になるように描かれているんだ。
そこで、先ほどの星占の言葉を思い出した。北、南……
「ポーラちゃん。この薔薇色の石の上を辿って真ん中に向かって行ってもらえるかな?」
アウローラは、自分のマントの裾上げに使っている特別な絹糸をポーラの足輪につけて、「真ん中に到着したら3回足を引っ張るんだよ」と言って、ポーラを送り出した。
アウローラたちは、ぐるぐると回っているから時間がかかっているが、それほど広くもないのか、直線距離ではたいしたことはなかったようだ。ポーラはあっという間に真ん中に到着したようで、わたしの手元に、一度停止してから、ぴ、ぴ、ぴ、と等間隔で引っ張られるような感触が返ってきた。
わたしは意図の逆端を近くの薔薇に結び、ぴ、ぴ、ぴ、と同じように合図すると、せっせと歩いて中心を目指した。
歩調を速めて先を進むと、薔薇園の中心に到着したのか、そこには丸い空間と小さな東屋があった。その東屋の下には巨大な薔薇の花が色石で描かれており、そこを先ほどの薔薇色の小石の線は横切っているようだ。
そして、そこにぽろぽろと涙をこぼして座る、皇太子妃殿下がいた。
本日2本投稿のうちの1本目です。




