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108/116

108.本当に仕方がないのか?

 わたしを見たロザリンドが、声をかけようとしたので、静かに、というように唇の前に指を立てた。ロザリンドははっとして辺りを見渡すと、わかった、というように頷いて、そっと近くへ寄ってきた。

 わたしが隣をポンポンと叩くと、ちょっと床を払って並んで座った。そうか、普通は床になんか座らないね。ごめんなさい。

 とりあえず、周囲を気にせず会話ができるよう、風魔法で防音の壁を張った。ふふん、こんなところで、普通に話すわけないじゃん。


「ロザリンド様、急にごめんね」

「いいえ。きっと、何か重要な用件があるのでしょう?」

 わたしは、大急ぎでジェロームに無効化の魔導具を研究してもらっていることを話した。

「ということで、物理的にこのペンダントが外せないようになっているのかどうか、念のため確認させてもらっていい?」

「ええ。外さないままでよければ」

「もちろん」


 わたしは、ゆっくりとチェーンの部分に解析魔法をかけてみた。

 チェーンをゆっくり回しながら一周させたが、特に何もなかった。プレート部分と何か連携するような仕掛けもない。

「うん、このチェーンには何も魔術はかけられてない。多分、ペンダントそのものは外せるだろうし、外してもそれだけで何か起きるわけではなさそう。ただ、このプレートの内側に何があるかわからないから、一応このままにしておこう」

「わかったわ」


 そして、もう一度、プレート部分をよく観察した。この間のジェロームの説明を思い出しながら、じっくりと眺めた。表も裏も、前回スケッチした以上の紋様はなさそうだ。


「うーん、これ以上のヒントはないか……」

 何度もひっくり返しながら見ていると、ふと、プレートの周囲の溝が少し不均等なことに気付いた。

 二枚のプレートが細かくギザギザと噛み合うようになっているのだが、ほとんど均等のようでいて、部分的にかみ合わせが交互になっていない部分があった。


「あれ?」

 わたしは急いで紙とインクを取りだし、プレートの周囲にインクを塗って紙の上を転がした。

 綺麗にギザギザが転写されると、まるでところどころが行き止まりになっているジグザグ道のようになった。

「なんだろう……?」

「何かありました?」

「かもしれない。ジェロームに渡して、見てもらうね。ジェロームは、魔導具のことは本当に凄いから、何かわかるかもしれない」

 プレートのインクを拭うと、ロザリンドは魔導具を制服の下にしまった。


「あまり長居をすると、神殿派の方々から後で追求されるでしょうから、そろそろ戻りますわ」

「うん。定例発表会の日に、時間を見つけて無効化の魔導具を試してみようね」

「ええ。そうしてもらえればとてもありがたいけれど、もし魔導具が完成しなかったとしても、ジェローム様とご一緒にお茶会室の方へ是非いらしてね。とても素敵な趣向を凝らしているのよ。本当にリュシエンヌ様やアリシア様のセンスは素晴らしいわ。それに、シルヴィア様の用意された茶葉ときたら……」

 生き生きと話すロザリンドは、気苦労がある中でも、課外活動を楽しんでいるようだ。よかった。


「新聞部の担当がどうなるかまだわからないんだけど、絶対寄るね。でも、ロザリンド様が楽しそうで本当によかった。大変だろうけど、諦めないで頑張ろう」

「本当にありがとう」

 ロザリンドが嬉しそうに涙ぐんだ。

「そういえば、定例発表会の日は、誰か学院に来る予定なの?」

「実は、先日聞いたばかりなのだけれども、養父様がいらっしゃるそうなのよ」

 不安そうな表情でロザリンドが言った。

「え、よくチケットが取れたね!?」

「ええ……養父様は、レッジーナ学院の卒業生ではないから、ここへ来ることはないと思っていたのだけれど、例のバチスタ教国の視察団とご一緒するらしいわ」

 その説明に、聖女候補と会いたいと言っているのであれば、保護者不在に対して不満を唱えることはできただろうと思った。


 多くの人が、レッジーナ学院の定例発表会に来たがるが、転移陣の稼働力の問題もあり、来場者には優先順位が決められている。

 皇室関係者や特別な賓客は別として、まずは、帝国関係者。これは、卒業後の進路も関係しているため、各省庁に枠が割り振られている。リクルーティングが主な目的。希望省庁がある高等部の生徒にとって、アピールのチャンスでもある。

 次に、高等部二年生の家族。卒業前だからね。

 そして、在校生に親戚がいる入学希望者とその保護者。身内ひいきでは? と思うのだが、身元保証の関係から、在校生との関係がないと、入学希望者の見学は難しいらしい。まあ、空飛ぶ学院だからなあ。仕方がないね。

 それ以外だと、卒業生枠があるそうだ。これは卒業年度で割り振られ、十年に一度チャンスが回ってくる。「同窓会ですわ」とロザリンドが言っていた。

 最後に、卒業生抽選枠。これは、かなりの競争率なので、当たったら奇跡とも言われている通称「ミラクルチケット」。あまりに人気なので、寄附をしないと申し込めないようにしているが、それでも例年すごい応募数なんだそうな。


 ゴーリング伯爵が定例発表会に来ることは、当然、帝国上層部は知っているのだろう。ジェロームにだけ共有すればいいな、と頭の中で考えながら、ロザリンドに情報のお礼を言った。

 上層部の人たちは、こちらからの情報は欲しがるが、あちらの情報は積極的に教えてくれるわけじゃないからね。まったく。


 先にロザリンドを教室の方へ戻し、そのまま開架書庫の階段に立っていると、上からリカルドとジャスティンが下りてきた。

「おい、何も聞こえなかったぞ」

 ジャスティンがしかめ面をしながら文句を言った。

「別に、話を聞かせるなんて約束してないですよ。それに、ほとんどは定例発表会について話していただけでですよ」

 わたしが澄ました顔で言うと、リカルドがふっと笑って言った。

「そうだな。君が魔術の優秀な使い手だということをうっかり失念していたよ。仕方がない。内容が聞こえなかったことも含め、アレクには報告させてもらうよ。それをアレクがフェリクス殿下に報告するのも仕方がないことだし、私が叔父上に報告することも仕方がないことだしね」

 腹黒い。流石はあの宰相閣下の甥っ子だ。

 ジャスティンの方は、眉をしかめたままだ。嫌なのかもしれない。こういう腹の探り合いが。


「もちろん、仕方のないことです。悪いことをしているわけではありませんし。ただの定例発表会の相談かもしれないですしね。では、皆さまによろしくお伝えください」

 そこでにっこり微笑んでから、そのままくるり、と背中を向けてさっさと階段を下りることにした。

 貴族、めんどくさい。

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