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107.図書館で会いましょう

 翌日、早速ロザリンドを探した。以前よりはマシとはいえ、今でも神殿派の生徒たちから何となく見張られているので、他愛のない世間話を公共の場でするのなら問題ないが、お茶に誘ったりするのは難しい。

 しかし、今はロザリンドは自席に座って次の授業の支度をしており、神殿派の生徒からは死角になっているようだ。

 よし、チャンスだ。

 わたしは、プーに念話で話しかけた。


(プー、聞こえる?)

(にゃあ?)

(ロザリンド様のところに、さりげなく近づいて、抱っこしてもらって。首輪のところに、手紙を挟んでおくから、他の生徒から見えないように渡してね)

(にゃあ)


 プーが、きょろきょろ、としながらわたしの肩から飛び降りて、たたっとロザリンドに近づいた。

「うにゃ?」

 と鳴きながら、ロザリンドの膝の上に座ると、ロザリンドが「あら、プー。アウローラさん以外の人のところに来るなんて珍しいわね」

 と言いながらわたしの方を見た。

 わたしは、さりげなく、首に手をやってプーの方を見やりながら頷くと、ロザリンドは不思議そうな顔をしながらプーの首元を見た。

 そこに何か紙が挟まっているのに気付くと、少しはっとした表情をしたが、すぐに何事もないような顔をして、「プーはふわふわね」と言いながら、首元を撫でてやった。

 プーがゴロゴロと喉を鳴らすのを見ながら、さりげなく手紙を抜き取り、そのままプーを撫でていると、他の女子生徒たちが集まってきて、「ちょっと私にも撫でさせてくださいません?」とか、「いやーん、ふわふわだわ」と大喜びでプーを可愛がっていた。


 プーはお手紙配達の使命は終わったが、そのまま授業が始まるまでは、みんなのおもちゃになってしまった。ありがとう、プー。でも、そろそろ戻っておいでー

 そんなに気持ちよさそうにゴロゴロ言ってたら、うっかりケット・シーに戻っちゃうのではないかと心配になるよ。


 放課後、授業が終わると一番に教室を出て、図書館の巨大な開架書庫の階段を上った。

 ここは、通常検索魔術で本を呼ぶから、わざわざ本棚で本を探す人はいない。司書役のブラウニーが時々見回るくらいだ。


 そして、空間魔法なのかわからないが、一番上に到達することはない。

 本当だよ。一度、一番上がどうなっているのかなーって探検してみたら、全然たどり着かなかった。外から見える図書館塔の高さと見合わない階段の段数だった。ということは、この内部には空間魔法がかかっている、あるいは特殊な収納魔術が使われているということだ。

 キャメロンに一度聞いてみたが、「え、あの本棚を歩く人がいたのか?」と驚かれた。

 うん、お貴族様は、そんなムダな労力は使わないんだろうね……


 仕方がないから、司書のブラウニーにも質問してみたが、皆、首をかしげるばかりだった。妖精にとって、空間の歪みは当たり前のことで、何が変なのかわからないのかもしれない。妖精郷なんて、門を潜ったら広い野原に出てしまうんだもの。


 ロザリンドには、この階段をしばらく上がっていくと、緑色の背表紙の本が並ぶゾーンがあるから、その辺りで待ち合わせをしようとメモを送った。

 わたしの方が、先に教室を出たから、まだいるはずがない。

 それに、定例発表会が近いので、生徒たちもほとんどがその準備に出かけている。

 人気のない図書館の真ん中の階段をさっさと上って、本を読みながらロザリンドを待つことにした。

 プーは、あの魔導具が苦手だから、今日は裏庭をお散歩している。

 突然、本性を現しちゃったらマズイからね。


 この緑の背表紙の全集は、三つの森があった時代の「緑の森」についての伝承を集めたものだった。

 有名な歴史書の写しもあるし、「緑の森」があったとされる地域に住む老婆から聞いたという民話も載っている。時間を見つけては読み進めているが、非常に興味深かった。

 普段は、暗黒時代の最後に封じ込められた「黒の森」とそのために力を使い果たし消えたとされる「白の森」のことばかり持ち出されるが、魔法の時代から暗黒時代を超えてしばらくの間、「緑の森」は独自の文化を育んでいた地域だったようだ。


 階段に腰掛けて、「緑の森」に関する本を読みながら待っていると、コツコツと足音がしてきた。

 ロザリンドが来たと思い、目を上げると、そこにいたのはリカルドとジャスティンだった。


「え、なんで?」

「やあ、アウローラ嬢。奇遇だね」

 リカルドがニコッと笑って言った。いや、奇遇じゃないでしょ。

「後をつけてたの?」

「まあね」

 ジャスティンがきまり悪そうな顔をして言った。

「どうして?」

「聖女候補に、何か手紙を渡しただろう?」

「見てたの? 誰も気付かないと思ったのに」

「いや、私たちも気付かなかったんだが、ランセルがね……」

「ランセル様?」

「ほら、あいつは動物が好きだろう? プーが珍しくアウローラのところを離れたから、自分のところに来ないかな、ってじっと見てたらしいんだ」

 ああ、なるほど。そうしたら、ロザリンドのところに行って、首からメッセージを抜き取るところまで見えたのか。そこまでプーを真剣に観察する人がいるとは思ってなかったよ……不覚。


「バチスタ教国訪問前の今、聖女候補と神殿派の動向は国にとって懸念点だ。ランセルからアレクに報告があり、アレクが私たちに様子を見るようにと指示があったというわけだ」

 リカルドが当然のことだ、と言わんばかりに説明した。

「とはいえ、この開架書庫の階段では、一本道だからね。隠れるところもない。だったら、アウローラ嬢に声を掛けてしまった方が、情報共有してもらえるのではないかという魂胆さ」


 結構、あっさりしてるな。まあ、わたし自身は星読みだからこそ、本件において中立と思っているんだろう。


「ふうん。でも、二人がいたら、ロザリンド様は警戒して何も話さないと思うけど」

「もちろんだ。だから、私たちは、この先に進んで静かにしているよ」

「ああ。俺たちのことは、気にしないでくれ。偶然、ここにいただけだから」

 リカルドの言葉に被せるように、ジャスティンが早口で言い訳を口にする。


 何という厚かましさ。

 この開架書庫の階段に、他の人がいるわけないじゃん。

 とはいえ、こんなところで言い合っているうちにロザリンドが来たら、絶対そのまま帰ってしまう。

「……見えないところにいるだけならいいですよ」

「ああ。大丈夫だ」

 二人はほっとしたように、そのまま階段を上っていった。


 それからしばらくして、ロザリンドがやってきた。

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