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106.気持ちはわかる

「ホウホウ。帰ったわよ」


 その夜、部屋で天体観測をしていると、天窓からふぁさり、とスピカが降りてきた。

「おかえりなさい。お疲れ様。ジェロームはすぐわかった?」

「あなたの兄弟子だけあって、ちょっと間が抜けてるわね。手紙を渡して、返事を催促したら、しばらくポカンとしてたわよ」

「それは仕方がないよね。誰も人語を話すフクロウ便が来るとは思わないもの」

「星読みなら、それくらい予測しなさいっての」

「いやーそれは無理でしょ」

 わたしだけに厳しいわけじゃないんだ。ちょっとほっとしたかも。


 スピカは、「あら、気が利くじゃない」といいながらカップケーキに近づき、あっという間に平らげた。

 その間にスピカの分もお茶を用意してあげた。

「ミルク、いる?」

「たっぷり」

「はい、どうぞ」

 スピカがお茶の熱さを確かめながら、「あ、これが返事ね」と足首の魔石から器用に手紙を取りだした。


 えーと、なになに。

 ***********

 アウローラ

 召喚魔法が成功したようで何より。でも、なんでこうなった?

 今度詳しく説明してください。

「召喚魔法を実行したら、話すシロミミズクさんが来て、真の主がいるから契約はできないが、仮としてお手伝いしてくれるそうです。本当の名前があるそうですが、教えてくれない代わりに『スピカ』と呼ぶように言われました。」

 では、よく経緯がわかりません。

 マスターには連絡しておきます。

 それから問い合わせのロザリンド様の魔導具のことですが、一応、いくつか設計している。定例発表会のときに試作品を持っていくよ。それまでに何かわかったら連絡をくれ。

 ジェローム

 ***********


 やっぱりジェロームにもスピカのことはわからないか。

 まあ、あの説明でわかったら凄いよね。気持ちはわかる。でも、あれ以上説明することもないんだよね。

 マスターからの情報に期待しようっと。


 明日にでもロザリンドと例の魔道具についてどうやって相談しようかと考えていたら、スピカが思い出したように、ころん、と何かを魔石から取りだした。

「そうそう、ジェロームが、もう一組いるだろうからって」

 それは、足輪に追加でつけられるチャームのようなものだった。

 よく見ると、この間くれたカフリンクスと同じ魔法陣がついている。

「あ、念話ができる魔導具だ」

「ホウホウ。別に直接話せばいいだけじゃない」

「いや、いるでしょ。人前で話したら、絶対大騒ぎになるよ」

「まあ、私のように比類無き使い魔はいませんからね」

 チャームをスピカの足輪につけて、自分もカフリンクスを持ちながら心の中で呼びかけてみた。

(スピカ、聞こえますか?)

(ホウホウ。聞こえるわよ)


 スピカに話しかけると思うことで、指向性が発生するようだ。

 よし、これで人前対策はできた。

「スピカ、わたしとプーとジェローム以外の前では声を出さないでね」

「面倒だわね。気をつけるようにはするわ」

 なんだか微妙だが、よしとしよう。


 ***********

 その夜、アウローラが眠ったのを確認すると、スピカは心の中でプーに話しかけた。

(プロキオン。起きているのでしょう?)

(にゃあ。スピカ?)

(あなた、私のことを知っていたの?)

(……知っているわけじゃないにゃ。でも、何となくわかるにゃ)

(そう。でも、今の私は昔の私とは違う存在なのよ。ただの『スピカ』なんだから)

(それでいいにゃ?)

(精霊としての力は、大昔にほとんど使い果たしてしまったわ。精霊のかけらとして永遠の眠りについたはずだったのに、なんで目が覚めちゃったのかしら。他の精霊たちの気配もないし)

(アウローラの魔力で目が覚めたにゃ?)

(……よくわからない。でも、懐かしい気配に起こされた気がする)

(わしも、アウローラと会ったとき、にゃんか懐かしかったにゃ)

(ふうん。面白い子よね。さてさて。永遠の眠りについたはずの私が目覚めざるを得なかったということは、黒どもが目覚めたということかしらね)

(わしもずっと呪いで子猫になってたから、今の時代のことはよくわからないにゃ。でも、妖精王様が繋いだということは、にゃにかあるのかもしれないにゃ)

(はあ。あんなに頑張ったのに、またやり直し?)

(黒の森が復活したとは聞いてないにゃ。今の時代は『禁足地』として、残っているけど、ずっと小さいにゃ。あと、魔法はほとんど消えちゃったにゃ)

(それは仕方が無いわ。白の森が消え、地脈が途絶え、精霊も去った後に、どうやって魔法を使うというの? 少しずつ消えていく運命だったのよ)

(でも、アウローラは……)

(そうね。あの子はちょっと面白いわね。まあ、世界がどうなっているのか、しばらく様子を見ながらということね。どうせ、オベロンもそんなことを考えてあなたをつけたんでしょう)

(……)

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