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104/114

104.一体あなたは誰ですか?

「あの、どうも。こんばんは」

 怒られた勢いで挨拶をすると、シロミミズクは、ふんっと言って、羽をつくろいはじめた。

 あれ、無視されてる?


「あのー、シロミミズクさんは、わたしの召喚魔法に応えてくれたのよね?」

「応えた? まだ応えたわけじゃないわよ。あんな魔法の光が届いたら、ちょっと気になるじゃない。確認よ、確認。まったく、遠くから飛んできてみたら、モノもわかってなさそうな子供だし」

 ギロリ、と金色の目で睨むと、「肩が凝るわ」と首をくるくる回し始めた。鳥って肩があるのか?


 おかしい。召喚魔法の教科書によると、魔法に応えた使い魔とは、そこで使い魔契約を結ぶのだが、人間の言葉を話すような使い魔が現れるなんて書いてなかった。

 契約の呪文を唱えて、名前をつければ完了のはずだが、まさかの反論を受けるとは。

 困ってプーの方を見ると、プーもポカンと口を開けて見ている。


 ダメだこりゃ。

 というよりも、召喚魔法の間は、他の者と口をきいてはいけないのだ。

 自分で対処しなければいけない。

 とりあえず、召喚魔法に引かれてやってきたということは、言っていることに惑わされず、説得してでも使い魔契約をすれば大丈夫なのかもしれない。


「こほん。わたしの名前はアウローラよ。わたしの召喚魔法に呼ばれたというのであれば、使い魔契約について交渉させてもらないかしら?」

「ちょっと、見も知らぬ子供の使い魔になれっていうの?」

 う。やっぱり一筋縄ではいかなそう。


「じゃあなんで来たの?」

「言ったでしょ。様子見よ」

「でも、わたしの召喚魔法の光が届いたということは、あなたとわたしの波長が合ったということなんじゃないかなって思うんだけど」

「うんまー図々しい。私を誰だと思っているの?」

「え? シロミミズクさん?」

「うんまー最近のヒトの子は物知らずね」

「じゃあ、誰?」

「ふん。教えるわけないでしょ」

 ダメだ。話が進まない。


 シロミミズクはチラチラこちらを見ていたが、そのうち、魔法陣の周囲に置いてあるものに気付いた。

 と、と、と、と歩きながら、一つずつじっくりと眺めている。

「ふーん……ぼろっちいモノばかりだけれど、センスは悪くないわね。このジャムクッキーは、なかなかの作り手のものだわね。あらあら。こんな羽じゃねえ。まあ、今時わたしのような白い羽は手に入らないでしょうから仕方がないけれど。お粗末だわ」

 そこで言葉を止めて、置いてあるお供え物をじっと見つめた。


 それは、カエルさんがくれた白い勾玉だった。

 どうしたんだろう?

「……これはどうしたの?」

「その白い勾玉のこと? 寮の裏にある池で歌を歌っていたら、カエルさんがくれたのよ。とても古いものみたいなんだけど」

「そう。ここの池のカエルが持っていたのね」

 そのまましばらく黙っていたが、急にくるり、と首を回して振り向いた。


「いいでしょう。仮契約をしてあげてもいいわ。この勾玉とジャムクッキーを対価としましょう。ただし、わたしの本当の主は一人だけ。もし私の主が戻るようなことがあれば、この契約は破棄される。いいわね。あくまでも、あなたは仮の主。そして、わたしの名前はもうすでにあるのだから、新しい名前はいらない」


 思いもかけない提案だった。え、本当の主がいる? どこにいるんだろう??

 使い魔の共有っていうのは、アリなんだろうか?

 どうして良いのかわからなかったが、シロミミズクの目があまりに真剣だったので、多分、どうしても譲れないものがあるのだろうと思った。

 そして、この人語を話すシロミミズクは、普通の魔獣とは全然違う存在だ。

 使い魔となってくれるチャンスが与えられただけでも貴重だと思えた。


「わかった。それじゃあ、どう契約すればいいの? 仮の主としての契約方法なんて知らない」

「そんなの、私が使い魔としてお仕事をするかどうかだけのことよ。それが信じられなければおやめなさい」

 ぴしり、と言われてしまった。

 わたしは、シロミミズクさんの目を見た。

 相手も、わたしの目をじっと見ている。


 うん、信じよう。

 わたしの魔力の呼びかけに応えたのだ。きっと、そこには何かの絆があるはず。

 こういう勘は外れない。大丈夫だと星たちが言っている。

 何より、お供え物の中でも、シルキーがわたしのためにつくってくれたジャムクッキーと、カエルさんがわたしのためにくれた白勾玉を、対価として欲しいと言ってくれたのだ。両方とも、わたしへの個人的な想いがこもったものだ。


「わかった。では、仮の主としてよろしくお願いします。あなたのことは、何と呼べばいいの?」

「真の名前は明かせない。そうね、スピカと呼びなさい、星読みの子よ」

 白く輝く真珠のような星の名前だ。

「ぴったりね。でも、どうして星読みだとわかったの?」

「何を言っているの。そのローブは星読みのものでしょう? さっさと対価を渡しなさい」

 うーん、使い魔というよりは、対等というか、主従逆転しているというべきか……


 ジャムクッキーのお皿をまず差し出すと、ぱかり、と嘴を開けた。

 これは、食べさせないといけないのかな。

 ジャムクッキーを一枚、口の中に入れると、あっという間に食べてしまった。そのまま、お皿に盛った分は全部平らげていく。


「これが使い魔の印なんだけど」

 ジェロームに作ってもらった足輪を見せると、スピカは首をちょっと傾げた。

「あら、そんなものが必要なの?」

「うん。そうしないと、使い魔かどうか区別がつかないでしょ?」

「うんまあ。ヒトの子はそんなに間抜けなの。ヒトの言葉を話せるミミズクなんて、他にいやしないでしょう?」

「でも、わたしの使い魔だってわからないと、誰かが捕まえようとするかも」

「ふん。捕まるわけないわ。でも、まあいいでしょう。その足輪はなかなかいい出来だわ。石も良いものだし、繊細な魔術がかけられているようね」

「ジェロームっていう兄弟子が作ってくれたの。この石に魔力を登録すれば、物が収納できるのよ」

「そう。私の羽にぴったりな白い石だわね」

 左足を前に差し出すので、そっと足に嵌めてやると、しゅっと縮んでほどよいサイズになった。

「じゃあ、ここに勾玉を入れておくね」

「そうしてちょうだい。さあ、わたしの寝床はどこ?」


 そこで、ここまでは半分飛ぶように翔けてきたが、どうやって屋根まで飛び上がればいいのか考えていなかったことに気付いた。

「えーとね、ちょっと問題が……」

 魔法陣を畳んでポーチにしまったりしながら、寮の部屋に戻るためには木登りか何かをしないとダメなことを説明した。


「そんなの、わたしが連れて帰ればよいのでしょう?」

 そう言うやいなや、スピカは倍くらいの大きさになって翼を広げた。

「うわあ、すごい。スピカ、大きさを変えられるのね」

「さっさと背中に乗って」

 怒られてしまった。

 プーには子猫になってもらい、ローブのポケットに入れると、スピカの背中にしっかりと掴まった。

「いくわよ。道案内はしなさい」


 力強い羽ばたきひとつで、ぐんっと空へ上がった。

 そのまま月の輝く夜空の下を、一直線に寮の屋根裏部屋へと帰った。

 さっきの風に乗って翔るのも軽やかで気持ちが良かったが、夜空をふわふわした鳥の背中に掴まって高速で飛ぶのは全く違う体験だった。耳元で風がゴウゴウ言っているし、冬だから空気が冷たく、耳がじんじんするが、それでも月が近くて星も楽しそうに瞬いているのがよく見える。

「うわあ。スピカ、凄いよ」

 わたしが思わず賞賛すると、「ふんっ」と鼻息を鳴らす音だけがした。

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