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101.仕事が早い

「アウローラ嬢、ちょっといいかな」

 授業の終わりにリカルドが声を掛けてきた。

「叔父上からフクロウ便が届いたが、その中にジェローム殿からアウローラ嬢宛の荷物が入っていたんだが。心当たりはあるか?」

 なるほど。宰相閣下のプライベート便を使ったのか。

 相変わらず仕事が早い。


「はい。とっても」

「良かった。叔父上からの手紙は簡潔すぎるからな」

「なんて書いてあったの?」

「『セントラルのジェローム殿からアウローラ殿への委託品のため、可及的速やかに本人へ手渡しすること。受領サインを受け取り、返信せよ』とあった。寮のラウンジで渡したいのだが時間はあるだろうか。あの叔父上のことだから、今日中に返信しなければマズイ」

 宰相閣下とよく似た玲瓏な顔をしかめるリカルドが可哀想だったので、とにかく一緒に寮へ戻った。


「ありがと。じゃあ、これで」

「ああ。それでは叔父上に返信してくる。ところで中身は何か聞いてもいいだろうか?」

「うーん、多分、ダメ」

「叔父上経由で届くくらいだから、まあそうだな」

 リカルドは、ちょっと名残惜しそうに荷物を見てから急いで部屋へと戻っていった。


(プー、部屋に戻って見てみよう。きっと魔法陣用の布と魔導具だよ。)

(にゃあ)


 急いで部屋に戻って箱を見た。

 蓋の部分に魔石がついており、指定した人しか開けられないようになっている。

「これ、便利かも」

 魔石に手を当てて魔力を流すと、カチリと鍵が開いた。


 中にあったのは、大きな布と小さな袋だった。

「あ、メモがある」

「にゃんて?」

「えーと……『アウローラの魔力伝達が良くなるように、星の力をこめた素材を使った。できれば夜、月と星が輝く日に召喚することを推奨する』だって。丁度、もうすぐ満月だし、星回りを確認して良さそうだったら、満月の夜にしよう」

「いいかもにゃ。あ、こっちの袋にもメモがあるにゃ」

「ほんどだ。なになに……『プーと新しい使い魔用の魔導具を作った。足につければ、ぴったりのサイズになる。グレーの月長石をつけたのがプー用。白いほうが新しい子のだ。容量は小さいが、収納魔法がついている。先に魔力登録してから使うように』

「わしのにゃん!」

 プーが嬉しそうに袋からリングを取りだした。


 ほっそりとした金色のリングには半透明の石がついている。

「じゃあ、これに魔力を登録するね」

「わしも」

「プーって魔力あるの?」

「あるにゃん」

「へえ。じゃあ、二人分登録しよう。そうしたら、プーも荷物を入れられるよ」

「にゃあ」

 ご機嫌のプーと一緒に魔力を登録すると、左うしろ足にはめてみた。しゅっとサイズが縮んで、プーの足にぴったりになったのを見て、満足そうだ。

「こっちの、ゴンザレス先生にもらった方は、今度返しておこう」

「うにゃあ」


「さてさて。魔法陣の準備をしないとね」

 すでに下書きはできているので、あとは簡単だが、それなりに準備はいるのだ。

 わたしは、この間から集めていた素材を取りだして、きちんと量った。

 プーも助手として活躍している。

「はい、これで最後」

「にゃあ」

「さーて。全部を入れて、くるくるくるくるかきまぜてーっと」

「うたうにゃ」

「なんで?」

「うたのほうが、魔力が均等に伝わりやすいにゃ」

「そう? なんの歌にしようか」

「あのやまのむこうに」


 あのやまのむこうに

 なにがあるのか

 なにがないのか

 あめはふるのか

 ほしはまたたくのか

 よいほーよいほー


 うん、確かに鍋の中に入れた素材をくるくるとかき混ぜるのに、テンポの合った歌かもしれない。

「よいほーよいほー」と、プーと声を揃えて歌いながら、くるくるかき混ぜて、腕がだるくなるちょっと前に鍋の中の魔法のインクが透明に澄み切った。

「よし。これに染色をして、と」

 わたしの好きなブルーブラックの色の素となる染料の粉をほんのちょっぴり振りかけると、さっとインクに色がついた。

「これでほとんど完成」

「このまま魔法陣も描くにゃ?」

「うーん、せっかくジェロームが、月と星の力を溜めてくれたんだから、インクも最後の仕上げは夜になってからにするよ。魔法陣も夜に作ろう」

「わかったにゃ」


 その夜、布との相性を良くするために月長石を砕いたものを加えてインクを完成させると、ジェロームが用意してくれた布を床に広げた。

 その前に立ち、右手に魔法陣を縮尺して描いた下書き、左手には出来たてほやほやのインクを入れたガラスの器を持った。

 ここからは一気に仕上げないといけない。集中力が勝負だ。

 わたしは時計と夜空を見上げながら、月が中天に差し掛かるのを確認してから、呪文を唱えた。

「マグニファイドアンドデュプリケート」

 わたしの目がその図を写し取る触媒となり、魔法がガラスの器からインクを導き出すことで、布の上にみるみるうちに魔法陣が描かれていく。わたしは目で細かい魔法陣の線を残すところなく目で辿るだけで良いが、集中力を切らしてしまうと、そこが抜けてしまう。

 この魔法陣は本当に細かいので、自分の目が本当に全部の線を追っているのかわからなくなりそうだった。念のため、目で見た部分は線の色が変わるような仕掛けをしておいて正解だ。抜け漏れ防止、大事だね。


 手に持った魔法陣の線が、黒から赤に全て変わったのを確認して、わたしは自分の目を足下にある布へとようやく移した。

 そこには、手元と同じ魔法陣が拡大されて綺麗に描かれていた。

「よし、ばっちりだ。ジェロームのおかげで、滲んだりもしてないね」

 布の上の線をじっくりと確かめたが、満足のいく出来だ。

「にゃあ。しっかりしたいい布にゃん。おばあさんは手描きだったから、一枚作るのにとっても時間がかかったものだにゃん。アウローラもやるにゃん。」

「転写の魔法はなかったの?」

「ハンドクラフトにこだわりがあったにゃん」

「……なるほど」

 それでも、プーもこの出来映えに満足そうだったから良かった。


「召喚は満月の日にするとして……せっかくだから、ちょっと星たちにも、使い魔について質問してみよう」

「そんなこと、できるにゃ?」

「わからないけど、ちょっとおしゃべりしてみるよ」


 月はまだよく見えているし、今日は星も輝いている。

 せっかくだから、屋根にある小さなポーチに出ることにした。

「プーは寒くない?」

「妖精だからにゃ。ケット・シーになっていれば大丈夫」

「……猫のときは寒いの?」

「ちょっとにゃ」

 プーの知られざる生態だ。

忙しいなあ、と思っていたら9月ももう終わりそうな時期に……時間ができたら投稿しよう、と思っていると全然できないと思ったので、少しだけ書き進めたものを投稿させていただきます。しかし、ペースが崩れるとダメですね。それではよろしくお願いします。

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