10. お城の人たちー5
「こちらでございます」
夜明け前、天体観測の時間が終了し、星読みのメモを簡単にまとめた後、頭の奥がジンジンとしているのを少し休めようと、散歩に出ることにした。いつもの通り、ヴェガがわたしの横を歩く。セントラルのらせん階段を下りて、静かなお城を歩いていると、蒼い影のように早朝の当番であろうお城の召使いたちが静かに動いているのが見えた。ぼんやりと、その姿を見ながら歩いていると、その中の一人と目があった。
その侍女は微笑んで、「よろしければ、皇太子妃殿下がお会いしたいそうです」と言った。
まだ何もわかっていないので困ったな、とは思ったものの、皇族からのお声がけを断るわけにもいかないだろう。侍女も微笑みながらも絶対に断らないですよね、という感じに目は笑っていない。
「はい、おじゃまします」と答えて、後をついて行った。
昨日と同じ小部屋には、皇太子妃殿下が一人で座っていた。
「ようこそ、星読みの小さいお方。昨夜の星はいかがだったかしら? 」
美しい微笑みを浮かべているが、目の下に影ができており、よく見ると疲労がにじみ出ている。
わたしは、これは本物の皇太子妃殿下なのか、偽物なのか、どちらだろうと思いながら見つめていた。
……さて、何を話すべきか……
「こちらの星はおしゃべりです」
わたしの返事に、皇太子妃殿下がちょっと眉をひそめた。
「まあ、そうなの?」
「はい」
「それで……何かわかったのかしら……? 」
皇太子妃殿下は期待の目でわたしを見た。
わたしは正直に答えることにした。これも星読みにとって重要なことだが、絶対に嘘はいけない。マスターは「全てを語る必要はないが、嘘はいけない」と言っていた。
確かに、もっと色々読めているのではないかなーと思う時があるのだが、マスターは細かなことまで語らないことがある。不思議に思って尋ねたことがあるが、「未来は不確実だ。全てを語ることが、未来を歪めることもある」とだけ言って、それ以上は説明してくれなかった。
正直、わたしにはその塩梅というものがまだわかっていない。
「皇太子妃殿下。星読みは答えがそのままでてくるわけではありません。あくまでも糸口です」
アウローラはいつもマスターに言われているのと同じことを伝えた。
「糸口」
「はい」
「それで……どんな糸口が……? 」
「星はそんな簡単に秘密をはなしてくれません」
「まあ……」
「今夜、また聞いてまいります」
「そうですか……星読みの方、どうぞお願いしますね」
意外とあっさりと解放されて、とりあえず安堵した。昨夜の星がおしゃべりだったことは確かだが、全く手がかりにならなかったのだ。失せ物探しをしてるんだけどさー、と話しかけたところ、ほとんどの星が、全く興味を示さず、自分たちで何か楽しそうに話し続けていたのだ。靄っとしたところの星たちも、何か隠したいことがあるから見えにくくなっているのかも、と思ったが、特に問題がある風でもなかった。
多分、昨夜は筋違いなアプローチをしたようだ。まあ、そんなことまで言っても更に心労を増やすだけだろうから、それ以上聞かれずに、とりあえずすぐに解放されて良かった、と心底思った。
しかし、部屋を退出して回廊を歩き出してから、あっと思った。
……どっちの依頼の話だったんだろう?
失敗した。昨日と同じ小部屋に連れて行かれたので、勝手に「皇太子殿下の心」のことを聞かれたのだと思ったが、ちゃんと何の案件だか確認すべきだった。
会話を思い返しても、どちらのこととも取れる話しかしていない。
「失敗した……」
これまでそんな難しい会話術が必要な生活なんかしてなかったマスターとフェンリルと暮らしてきた自分に、この仕事は重すぎる。とはいえ、逆の依頼について話し出さなかっただけまだマシかもしれない。そうなったら、星読みとしての守秘義務を破ってしまう。これは致命的だ。
「あぶないあぶない」
致命的な失敗をしなくて良かった、と少し気を取り直しつつも、困ったなあ、と思いながら部屋に戻ると、そこには宰相がいた。




