第三十話 大団円へ! 其の1 ~パーティ・ナイト~
なりんのソウルハガー授与式兼・歩の全快祝いパーティの
当日の様子。
「援護くんの隣りに」最終章の始まりです。
さて。
第三十話 大団円へ!
其の1 ~パーティ・ナイト~
薄闇のあちらこちらに明かりが灯り始める繁華街。
いつものスーツと春物のネクタイに、薄手のコート。
大きな花束をふたつ抱えた若い男が駅からの道を歩く。
やがて繁華街の外れにあるライブバー・ベリイに入店すると、
たまたま扉近くにいた少女が彼を振り返って明るく迎えた。
「いらっしゃい、エリ本くん。」
「るぅー!」
エリ本ことエリック本田が
空いてる右手を下に向けて広げ
そこにるぅーこと藤堂遥香が
小さな手のひらをいきおいよく伸ばして
パシン!と気さくなハイタッチでの挨拶を交わす。
この春五年生になる遥香ことるぅーは
成長と共に体力がまさってきたようで
生来の持病も徐々におさまってきている。
このまま、先日の発作が最後の一度となればいいのだが。
「おう、これで揃ったな。早速始めるか!」
既にギターを抱えた澤菜賢一が声をかけ、
エリックから花束とコートを預かったベリ子こと島辺莉子が
引き換えにタンバリンを渡す。
なりんのソウルハガー授与式兼・歩の祝退院全快パーティの当日。
先ずは男性陣バンドのオンステージが会場を沸かした。
「シマうま、ハーモニカうまいな!」
「ブルースハープと言え、マサキ!」
ギターが澤菜賢一、ベースが経営者仲間で
黒マッチョスキンヘッドの蛭子氏、
ドラムは晴れて堂々の藤堂マサキ少年。
コーチしたわーにゃが「筋がいい」とほめるだけあって、
既にリズムもスティックさばきも自在に操るマサキは
実に楽しそうだ。
その脇でエリぽん青年が実に巧みにタンバリンの
接待チャラ芸を披露する。
やり過ぎないのが、コツだ。
「ええ続きまして。皆さん!実はぼくは、
秘密諜報部員だったのです!!」
そう言って賢一が昔からの有名な旋律を弾き出し、
マサキも
「いえーっ!!でんじゃーすとれんじゃー!!」
と声を揚げる。
ボーカルの代わりにシマこと歩のハープだ。
ステージをみつめながら、澤菜穏が隣りの猪上レイに尋ねる。
「うちのお父さん、あなた達の同僚とか上司とかって
わけじゃないわよね?」
「まさか。アルバイトは妹さんだけですよ。」
甘味処・花みつ店長としての立場で答えているが。
実際、姉妹の父である澤菜賢一は、別に
シークレット・エージェントマンでもニンジャでもない。
猪上ことれいれいやぺいもい姉妹たちの
所属する特殊セキュリティサービス組織を
雇っているクライアントは
とある東南の国家の王族であるわーにゃ姫の親族であり、
澤菜賢一とは王室を挟んでの
お互いに協力体制を結ぶ関係でしかない。
「そうよね。さすがにそこまではだいそれないか。」
「色々とお世話になってます。」
しれっと告げるれいれいの、率直さにも
内容にも穏は驚いた。
やっぱやれるひとなんだ、うちらのぱぱ。
「みんなありがとう!さてお次は。」
ギターを置いてステージを降りた澤菜賢一が
愛妻・紀子のもとへ歩いて行き
「母さん。出番だぞ。」
「よし。それではお義父さん、行ってきます!」
澤菜家の祖父である澤菜直樹に声をかけて、
紀子が立ち上がる。
妻に代わって賢一が父・直樹の介護を引き継ぐ。
直樹を施設からむりやり引っ張り出して、
この賑やかなパーティナイトに参加させたのは
賢一だ。
「どうだ親父。たまにはこんな夜もいいだろう。」
「おめえはよう。勝手ばっかりだな。」
久々に直樹翁が文章を喋る。
この寡黙な老人は、ただひたすらに寡黙なのであって
効かなくなった身体とはうらはらに、
頭脳も意識も今もかなりしっかりしている方だ。
澤菜紀子の余興のひとつめ。それは、
藤堂春菜と澤村あやの看護士との三人での
ダンスステージだ。
春菜の勤務する店にはショウパブ的な小さな
舞台も設置されているらしく、春菜の指導で
紀子とあやのが数日の特訓を経て、
本日のお披露目となった次第だ。
紀子はこのあと夫と娘たちの演奏とともに
澤菜家バンドで美声も披露する予定だ。
ちなみにベリ子はカウンターと厨房に専念し、
女性陣の余興には参加していない。
「だってこの演目ならあたしもう
昔やったことあるから。」
えっ何を?いつ?
誰に聞かれてもベリ子は答えないが、とにかく。
怪盗三姉妹が主役の人気アニメの主題歌が会場に響き、
パーティ参加者からの歓声がとぶ。
3人のスタイルの良さに男性陣のみならず
歩ガールズやしすたあ☆ふっどのアイドルたちもクギづけだ。
「楽しそう。」
ステージを眺めて可憐な声がそう呟くと
「興味あるの?ルノーちゃんも、うちの店のステージに立ってみる?」
と、しすたあ☆ふっどのプレイイングマネージャーである蛭子レラが声をかける。
このパーティで初対面のこの美少女に、レラはでれでれの様子だ。
「おおー、盛り上がってるなあ。うお!?まじか!!」
ステージの主に澤菜紀子をみて驚きの声をあげているのは
高橋裕人と共に今到着した
金子鈴こと、我らがこりんだ。
明るく良い子な高校生のふたりは
課外活動と部活をそれぞれ終えて一旦帰宅し、
身支度を整えてひとつ隣りの駅のベリィまで
ふたりで出かけてきたところである。
「なりんはどうした?どこにいるんだ?」
「それがなりんちゃん、援護くんを迎えに行くって
ついさっき出てっちゃったの。」
雲神了子ことカミコが答える。
カミコが率いるハナと団子のカミコ軍団も
こりん達とほんの僅差で
先ほど皆でベリィに到着したのだが。
「着いたあたりでなりんに電話がかかってきてね。」
「なんかただごとじゃないテンションで話して、
ちょっと迎えに行ってくるって。」
もいもいとハナナが一言ずつ説明する。
「迎えに行くって、どこへ?」
「駅方面にいるようなことを言ってまシタガ。」
しおんヌが答え、
「ベースだけ置いて飛び出して行ってしまわれたのです。」
ほら、とばかりにわーにゃ姫がベースの入ったバッグを見せる。
「あ、どうぞこちらへ。」
ぺいぺいがわーにゃからバッグを受け取り
店内のスタンドに立て掛ける。
誰あろうお姫さまに荷物に押し付けるとは、
よほど慌てて飛んでったらしい。
「援護さんとなりんちゃんなら、僕らだったら
お互いに誰かしら気づきそうなものですが。」
「すれ違わなかったよなあ?」
さわやか高校生カップルが顔を合わせて
首をひねる。
果たしてなりんと援護くんのふたりは。
その頃、駅のホームの端っこの
ベンチにいた。
推敲に手間取ってこんな時間になってしまいました。
明日(というか日付変わって今日ですね)は明日で夜まで忙しいので、
次回は明後日になるかもです。
この三十話「大団円へ!」は全三章の予定です。
サブタイトルがまたネタバレもいいところですが、
別にね。ここからハラハラさせるのもどうなんだと。
こう決めた以上、もう大団円にしかなりませんよ!ていうね。
この物語が、いつかあなたの眼にもとまりますように。
では!




