第二十八話 さよならソウル、ようこそソウル 其の1 ~さよならソウル~
それは、
突然のできごとでした。
さて。
第二十八話
さよならソウル、ようこそソウル
其の1 ~さよならソウル~
二月のある日。ソウルハンガーは、突然
音を立ててあり得ない折れ方をした。
真っ二つに割れたソウルのアームは、彼が
大いに満足しきったことを、通じ合った相棒である
なりんにだけ、雄弁に告げていた。
「案外、無欲だったね。もうよかったの?」
残骸となったソウルを抱くなりんも、
なりんの腕の中に抱かれているソウルも、
双方穏やかに微笑んでいるようだった。
「あたし、自分で、お薬のめたの。ほんとは、
もうダメだって、ほんとにしんじゃうかと思うとこまで
いったんだけど、でもそこから、なぜかお薬
飲めるぶんだけ動けるようになって、
それであたし、落としたお薬つかんで、自分で
飲めたの。」
激しく泣きながらも、るぅーこと藤堂遥香は
経緯を説明した。
その日も学童保育所で見守りの目ををかいくぐって
ひとりきりの乙女ごころの時間を楽しんでいたるぅーが、
家族らの心配通りに発作を起こしたとき
るぅーから遠く離れた場所で
ソウルハンガーがまっぷたつに折れて、
そうしてるぅーは、本来ならうずくまったまま
身動き取れずに自分自身では飲めないはずの薬を
首から下げた袋から取り出し、一度は落としながらも
拾い上げて、自分で呑み込んだ。
そうして、るぅーこと遥香は、一命を取り留めた。
ーそんなことだろうと思った。
なりんはるぅーの話した情報から時間軸を整理して、
何が起きたのかを彼女なりに把握した。
よかったね、ソウル。あんた、自分の名前
気に入ってたんだ。
最後に名付けの恩人を助けられて、そうして
満足して旅立ったんだね。
これまで何人もの持ち主の生命を吸いつくして
しまった魔弦ソウルハンガーが、天国へゆけるかといえば
それは難しいかもしれない。
それでも万物にいつか現世を旅立つ日が来るのであれば。
ソウルハンガーは、虫のいいほどの心ゆく最期を
飾れたということかも知れない。
なんでも全て想像と憶測でしかないけれど、
それでもなりんは自分がそう理解してやれていれば
愛用ギター、いや相棒であるソウルハンガーへの
はなむけになると確信していた。
「それで合ってると思うぞ、なりん。」
なりんの問わず語りにマサキもうなずく。
「なりん、ソウルをなりんに任せて、
本当に良かった。
なりんとの時間がなければ、ソウルだって
るぅーを助けてくれるような奴にはなって
なかったかもな。」
なりんも黙って静かにうなずき返す。
「いいやつになったよ、ソウル。」
魔弦のマスター・なりんは持ち主として相棒として
ソウルハンガーの漢気を心から誇った。
ソウルハンガーは、最初の案では別の人物をかばって
砕けてしまう予定でした。(歩じゃないよ)
それはそれで気に入っていたのですが、時世や風潮というものもあって
これはうかつなことが書けない時代になったぞ、ということで
しばらくの日々考えあぐねた挙句、この展開にたどり着きました。
自分で散々悩んでの創作ですが、それでも書きあがってみると
なんだかこれはこれでまた降りてきた何者かに導かれて書かされていたような気もします。
どのみち、何人もの持ち主の生命を吸いつくした魔弦ソウルハンガーの最期は、
誰かをかばっての花道になるという予定に変わりはなく その運命は
こうしてようやく遂げられたのでした。
この物語が、いつかあなたの眼にもとまりますように。
では!




