第二十七話 彼方の隣り
フェスでの大成功によって大いに忙しくなったなりんは、
援護くんとの距離がどんどん開いていってしまいます。
一方援護くんは恋の気配こそないものの、男の友情に花を咲かせているもよう。
さて。
彼方の隣り
三色団子の新曲「となりに援護くん」は
予定通りエリック本田と援護くんのWEB番組の主題歌となり、
同時にカミコによってレーベル契約の整備が
強力に迅速に進んだ。
事前に穏ら若き大人たちが目論んだ通りに
援護くんもなりん達三色団子もそれぞれに
大幅に知名度と影響力とを増した。
そしてそれは、それぞれの活動の充実と多忙化の
副作用として、
援護くんとなりんとの物理的な距離を大きく広げ、
親しく触れ合える時間をなすすべなく奪い去った。
ネット上でも筆不精な援護くんは、
なりんにとって大切なひとでありつつも
心で幸せを願うひとになりつつあった。
ー帰りたい、援護くんのとなりに。
時にはそう想いつつ、なりんの音楽での成功は形を成し始め 為し続け、
高校生活との両立すら危ういほどになりんを
押し流していくのだった。
12月は、なりんは誕生日もクリスマスも
「芸能活動」の場で過ごし、
1月になんとか確保した正月休みは家族との団らんもそこそこに、
つかの間のマサキとの「再会」を味わった。
こうなってみて逆に実感するが、今や
私とマサキとは恋人同士だ。
なりんは改めてそう確信した。
あたし達は、お互いに求めあっている。
マサキも、確かに私とのつながりを強く
求め望んでいるし、私だってそう。
一方、会えないし話せないし、そんな中での
たまに楽曲を通しての「仕事上」での経緯で実現する
援護くんとの「対談」や「収録」は、
かえって冷えびえとなりんの胸にくさびを打ち込み
恋すら超えたはずの絆を大いに試させた。
援護くん、遠いよ。
お仕事上とは言え、せっかく会えてお話しできてる目の前の援護くんが
今はなんでこんなに遠くに見えるのだろう。
お互い自己実現も軌道に乗って、こんなに
幸せで幸運で楽しいはずの人生のいい時間が
なんでこんなに、自分に寂しい思いを抱かせているのだろう。
援護くんも、マサキも、こりんや姫やしおんヌたちも、
みんな優しくて頼もしくて信頼できて
あたしだって誰に対してもうしろぐらいことなんて
ひとつもない、胸張って対等にいられているのに。
援護くん、人生って、ままならないね。
そんな一言すらこぼせない。援護くんは、
誰よりもままならない十代二十代を過ごして
きたひとだから。
なりんは、この苦味こそが
ひとを大人へと成長させる青春であることに
まだ気付いていない。
それがそうと気付ける頃には、きっと素敵な大人に
なれていますように。
それが誰の祈りであったことか。
誰であれ、なりんは祝福され、幸せを祈られて
いる。そしてその祈りは、きっと届き通じることだろう。
なりんと援護くんがそれぞれのフィールドで
快進撃を続ける一方で
喜ばしい出来事はもう一種起きていた。
手術後の島辺歩の回復は
目覚ましく、手術前の憔悴しきって
痩せこけた姿からみるみる元の男前を取り戻し
更に血色も精悍さも増していくようだった。
リハビリに自主筋トレに計画的な栄養摂取も食欲旺盛、
歩は明らかに以前の姿より健やかさを増していた。
そして付け加えると、歩の健康状態の良し悪しに関わらず
歩ガールズはひとりとして欠けることはなかった。
皆、歩の回復という信じていた結果に感慨深げであり
一方恋のライバルが誰も脱落しなかった点に限っては
やや苦々(にがにが)しげな本音ものぞかせていた。
そんな歩ガールズの思慕に囲まれ
頼もしい従姉であり家族であるベリ子に見守られ
島辺歩はベリィの再開も含めた新たな人生の
設計に、大いに前向きであった。
「これならもう、僕の介護も必要ありませんね。」
穏やかに微笑んで援護くんが告げる。
「ああ。だがな援護くん、そうであっても俺たちは
友達だ。
観ての通り俺はご婦人にはもてもてだが、
その一方同性の友人がほとんどいない。
だから俺は、あんたを手離さないぞ。」
こういうのもある意味愛の告白というのだろうか。
「ええ。僕も仕事上の付き合い以外では、
友達といえる関係はほとんどいません。
だから、シマ。これからも、どうかよろしく。」
「もちろんだ!」
ちなみにエリ本ことエリックは、
いまだにビジネス仲間の援護くんとオフの生身では
会えていない。
これは穏の判断だ。エリックは無害な善男 だが、
やはり援護くんに直接会えばおそらく
援護くんの無意識な善なる魔王力に当てられて
いくつもの先例同様に破滅してしまいかねない。
歩もそれがあったからキャンプフェスでの
命がけの演奏に挑んだのだが。
既にこうして破滅の危機を一度乗り越えたのだし、
すぐそばにいるベリ子さんの魔力である
「魔力キャンセル」をうまく組み合わせれば、
今後はなんとかなるだろう。
やはり、援護くんの友情関係は
宿命的に少数範囲に限られるのだ。
そして、「もう一種」の方向でもうひとり。
るぅーもここしばらくの間でみるみる体力を身につけ
時にはさっと走り出して、マサキや春菜の心配をよそに
やや早めな乙女ごころに正直に、ひとりきりになりたがった。
そんな、ある日。
なりんも援護くんへの切ない慕情の一方で、
マサキとのほのかな恋は目下盤石なようですし
援護くんは援護くんで相変わらず恋愛こそ目に入らないものの
シマこと歩との関係も介護を挟まない、掛け値なしの友情に変えることができて
ふたりの人生はそれぞれに充実してしまっているようです。
目まぐるしい次々続々の日々に、二人の絆は押し流されてゆくのでしょうか。
次回はそんなふたりの今後、は一旦おいといて また別の出来事が。
この物語が、いつかあなたの眼にもとまりますように。
では!




