シティ・フェス 其の2 ~魔弦の花道(はなみち)~
なりんの左弾きギター・魔弦ソウルハンガーの正体は、
どうやら比喩や迷信を抜きにした、正真正銘の魔物であるよう。
少なくとも現在の持ち主のなりんは、そう見立てたようです。
ならばどうする?なりん。
さて。
シティ・フェス 其の2 ~魔弦の花道~
まもなく三色団子の持ち時間となる。
開演前になりんは愛用の相棒であるエレキギター
「魔弦ソウルハンガー」に声をかけた。
「分かってるわね、ソウル。私たちのすべきこと。」」
ここ数か月の付き合いだが、なりんはそれこそ魔女的な直感で
ソウルハンガーの仕組みというかあり方を
つかみ始めていた。
魔弦ソウルハンガーはその二つ名のとおり
まさに「人喰いギター」だ。
いつからそうなのかは知れないが、ソウルは
いま現在、人の生命のエネルギーを吸うことで
生存する一種の生物に近い存在、はっきりと魔物である。
彼が演奏されることで沸き溢れる観衆の歓喜が
即ち人間の生命エネルギーの発露なのであり
それを摂取することでソウルの飢えは満たされる。
ライブで発揮される余剰エネルギーなので、
それを摂取されるぶんには観衆の寿命も奪われないが
一方ステージで演奏されなければ、ソウルは
一番手近の人間、即ちその都度の持ち主から
普段暮らしの生命を吸い取ることになる。
だから現在なりんが無事でいるのは、
なりんも観衆も喜びの生命エネルギーを溢れさせ続けていたからだ。
何人ものつれない持ち主たちからなけなしの生命力を
やむなく吸い取り干上がらせてきた魔弦ソウルハンガーは、
ようやく彼の食欲を満たす日々を得たのだった。
が、しかし。
なりんの発想力は、ただこの捕食者を
飽食させるに留まらなかった。
―話は一旦昨晩にさかのぼる。
一人きりの寝室。
なりんはギタースタンドにソウルを立て掛けて正面に向き合った。
そしてこの無機物たる相棒に向かって、よくよく真剣に要求を言い聞かせる。
「いい、ソウル。あんたが人の生命を吸えることは分かったから
あんたからも、集めた分を少しこちらに納めなさい?」
誰かいたら、部屋の空気が気配を変えたように感じただろうか。
「あたしがあんたを弾いて会場の皆を沸かせてあげるから、
あんたはそれを集めて、吸って、今回は手術室の歩くんに贈るのよ。
あんたもるぅーちゃんが魔弦と名付けた魔物なら、
それくらいのこと誇りを持ってやりとげてごらんなさい!」
ソウルハンガーは、当然微動だにしない。 ーここまでは。
「いう事聞かなきゃ、
ここまであんたの秘密を解き明かしたこの本音の魔女が
相打ち覚悟であんたを叩き折るわよ!!」
ビィン!と、弦の一本があり得ない切れ方をして、
跳ねた先でなりんの頬をかすった。
うっすらと赤い線が浮かび上がる。
「言いたいことはそれだけ?今夜ここで、
もうあたしの生命も吸いつくす?その時は、
しおんヌがあんたを始末する。さあ、どうなの!?」
薄明りの寝室で鬼気迫るなりんの目力と言霊が
その時、魔弦に競り勝った。
「…分かったようね。さあ、弦を張り替えてあげるから。
おとなしくなさい。」
なりんはスタンドからギターを外して優しく抱き寄せ、
途切れた弦の張り替えの準備を始めた。
そんな夜更けの作業があっての、翌日の朝。
「歩くんの手術は、早朝から始まってるわ。
あたしたちの出番とほぼ同時進行なんて言って
実際には丸一日かかるんですって。
あたし達の出番そんなに長くもらってないっての。」
けらけらと笑いながらギターに語りかけるなりん。
「楽しそうですね、なりんちゃん。」
わーにゃ姫が話しかける。
「見られちゃったか。これは気持ちづくり、
マインドセット。ソウルハンガーは意志を持ってるの。
あたしは演奏者として、通じ合ってたい。」
「いいですね。あたしのドラムにも言葉が
通じればいいのに。」
「めっちゃ懐いてると思うよ、どのドラムも。」
「そうみえます?」
「姫さま、すごい求心力!」
「信じましょう、なりんちゃんがそう仰るなら。」
にこにこのプリンセススマイルと、なりんは
微笑み合った。
「そういえばしおんヌって、なんかベースいっぱい持ってない?
なんか何種類も見たような」
ふたりの談笑にに寄って来たしおんヌに、なりんが尋ねた。
「ワタシは売買がお仕事ですカラ。折り合う値段がつけば、
お譲りする方針でェス。」
「えっじゃあ今まで弾いてたベースって」
「三色団子を始めてから、ワタシのユーズドという
付加価値も価格に加わりマシタ♪」
これまたにこにこ屈託の無さすぎる笑顔の
プロバイヤー&セラーのしおんヌ。
「もちロン、大切に取り扱ってくださるお客様を
厳選しての事デース。
ワタシは、ひとさまに対してモ目利きでありたいの
デース。」
ソウルとの関りを考えると、ひとりは
うまくいかなかった例もあることになるが。
しおんヌがそこに触れないなら、わざわざ
口をはさんで指摘することでも、決してない。
というか、本当は気にしてるんだろうなあ。
大丈夫、ソウルが化け物なのがわるかったんであって、
それ以外誰もわるくない。
そしてたぶん、ソウルだって化け物に
なりたくてなったわけでは、うん。
無いと感じる。
だってね、あたしもお姉ちゃんもそれぞれの
いわゆる魔力を、のぞんで持っているわけでもない。
援護くんの魔王力だってそう。だからね、ソウル。
あたしはあんたの仕組みを責めないよ。
ただ、今日はその魔力を新しい使いみちに向けて?
できるかどうかじゃない、やるのよ。
皆から溢れて余った生命を、手術台の歩くんにも
注ぎ込むのよ。
出来るわね、相棒!
ここだけの話し わーにゃ姫が目撃した、
ギターに話しかけてひとりでケラケラ笑ってるなりんの光景は
けっこうなホラーだったかも知れません。
それでも(表向き?)動じない姫さまはなかなかの大器です。
そして ソウルが魔物で確定したら
そうとは知らずとも売買の軌道に乗せたしおんヌはつらい立場ですが、
そこは本人含め誰も触れません。
援護くん時空の三色団子も、
互いにさりげなく支え合い
そうしてそれぞれが自由にのびのびと活躍する、
とても佳きチームですね。
この物語が、いつかあなたの眼にもとまりますように。
では!




