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 第二十五話 援護くんと話す。

「援護くん。ごめんね。忙しいのに。」

 フェスの前夜。意を決したなりんは、援護くんと会って話します。


   さて。


  第二十五話 援護くんと話す。


「援護くん。ごめんね。忙しいのに。」

「いえ。でも、確かに時間は余りないので」

 フェスの前夜。なりんは援護くんを呼び出した。

 本当はもっと早くに会いたかったのだが

昼夜をまたぐ援護くんのぎりぎりのシフトと

なりんの忙しさもあって、ここが唯一の

アポを合わせられるチャンスになってしまっていた。

「援護くん。明日私はあなたの活動を応援する歌を

フェスで歌うの。歩くんからのお願いや

エリぽん)さん達からのオファーもあって。」

「…ありがとうございます。」

 どこか心苦しそうに応える援護くん

「でもね。その前にどうしても確かめておきたかった。

 援護くん、今の活動は本当に援護くん自身の望みなのね?

 歩くんの望みをかなえたいとか、お姉ちゃんや

エリ本さんに言いくるめられたりとか断り切れないでいるとか、

そんなことはないのね?」

 援護くんは、なりんをみつめそして深く

ゆっくりとうなづいた。

「はい。なりんちゃん、少し退屈な話しになるかも

しれませんが、聞いてくれますか。」 

 時間がないと言っていた援護くんが、何かを

語ろうとしてくれている。なりんは強い眼差まなざしでしっかりとうなづいた。

「聞かせて。」

「ぼくがパソコンやインターネットに触れられるように

なったのは、ここ数年の話しです。衝撃でした。

 ああ、これが兄の介護に閉じ込められていたあの長い日々に

ぼくの手元にあったなら、ぼくはどれだけのことが

できただろうと。」

 そうなんだ。それは、そうなんだろうね。

 それはすごい分かる気がする、でもまだ

なんの話しを始めたのか分からないままだけれど。

「僕はまだ使いこなすことは出来ていませんが

普通に現代人であるエリ本くんの力を借りれば、

僕のしたいことは実現できます。

 そのための、お互いの協力態勢です。

 ぼくが一方的に誰かにむしられているわけでは

ありません。」

「援護くんのしたい事って、やっぱり子供たちの

援護?」

「そうです。僕は自分自身でも援護活動を

していますが、ネットを通じて子供たちに

助言もできます。僕は、自分に出来ることで

力を尽くしたいんです。

 ですから、心配いりません。

 なりんちゃん、僕はなりんちゃんが思うよりかは

したたかなつもりです。」

 援護くん、覇気はないのに芯はあるんだよなあ。

「援護くんが本当はものすごく強いひとだって

事は、あたしだって知ってるし分かってる。

 でも、それだってついつい心配になっちゃう。

 心配だよ。援護くん、生身で大魔王さまやってたら、

身が持たないよ。いつか壊れちゃうかも」

 現に、生身同士で触れた援護くんの善性に影響されて

行動を起こす人々の中には、限界を迎えて

なにかしら壊れてしまう人々もいる。

 援護くん自身だって、こんな忙しくストイックな生き方で

生身がつ保障はないはずだ。

 援護くんが、ここでなりんに負けないくらい強い眼差まなざしで

なりんにしっかりと向き直し、

慎重に優しく語りかけた。

「なりんちゃん、ぼくが助ける子供たちが

それぞれの本来の人生を生きてくれたら、

それはぼくの自己実現なんだ。

 ましてやなりんちゃんのように才能を発揮して

夢をかなえる青春や人生を生きてくれたら、

それはぼくにとっての勲章くんしょうなんだ。

 こんな嬉しいことはないから、どうかぼくのためにも

安心して、巣立ってください。」


 巣立ち。お別れ。


 援護くんの本音の中に、きっとあるだろうなと

予想がついていた、言葉。

 覚悟を決めてきたつもりではいたけど、やっぱりこたえる。

 応えるけど、歯を食いしばって進む。

「援護くん、私、歌うよ。明日は援護くんのための歌を。

 そして、もう少ししたら、マサキくんの歌だって歌うし

 ベリィや、しすたあ☆ふっどの事もまた

歌にするよ。」

「はい。なりんちゃん、君の活躍はぼくの夢を

かなえてくれて、そして


 なりんちゃんがぼくの大切な夢そのものです。


 これから先も、ずっと宝ものです。」

 目を閉じて深く息を吸い、なりんは援護くんの

真心の言葉を、あますことなく受け入れて

そして、素直にうなずいた。

「うん。あたしも、援護くんと歩いたこの道が

あたしの宝もので、これからも歩き続けるから。」

「はい。それぞれの道のその都度で、これからも

きっとまた会いましょう。

 お互い忙しくて、いつも一緒とはいきませんが。」

「ううん、一緒だから。お互い、誰と出逢って

誰と絆を結んでも、あたし達の絆は続くから。

 援護くん、恋じゃなくても、あたしの恋がかなわなくても  

あたし達、きっと一緒だから。」

 そう、藤堂家のマサキと、るぅーや春菜さんのように。

 あたしと援護くんも、家族のように

一生切っても切れない絆になる。

「なりんちゃん…、ありがとう。」

 援護くんも、なりんの一生の提言を受け入れた。

 なりんは、なりんと援護くんは、互いにそれぞれの恋ごころを

かたふうじて、代わりに生涯にわたる

新たな絆を手に入れた。

 静かな涙が頬をつたうまま、なりんは

次の会話に移った。

「援護くん、今夜と明日はどうしているの。」

「今夜はこれから夜勤に入って、明け方に

歩の病院へ向かいます。」

「歩くんの手術に、付き添うの?」

「はい。ベリ子さんにも、心細いからそば

いてほしいとお願いされました。」

 ベリ子さん。もしふたりが望むなら、意外と

援護くんともお似合いかもしれないな。

 マサキくんの言った通り、援護くんもあたしも

それからたぶん春菜さんも分かっていなかったけど

援護くんとそりの合う女のひとはきっといるんだ。

 あの日あたしが取り乱したのも、援護くんと

あやのさんがベンチで笑い合う姿が

まぶしいほど素敵だったから。

 もう迷わない。あたし、援護くんの幸せを

心から願えるよ。

 幸せを、心から願う祈りを込めて、歌うよ。


なりんは援護くんへの恋ごころにお別れをして

その代わり援護くんとの一生続く絆を選択します。

本来あるべき関係に、やっと到着、あるいは回帰できたのかも

しれません。

 できていると、いいのですが。うまくいくといいですね。


 この物語が、いつかあなたの眼にもとまりますように。

 では!

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