なりんのアルバイト 其の2 ~ソウル・冥途(メイト)~
なりんは、しおんヌに聞いてみたかったことがあります。
マサキとは、いつどこでどんな風に知り合ったの?
「そこ、聞きまスか。」
「できれば。」
…さて。
其の2 ~ソウル・冥途~
「これでひとつ進展と。ねえしおんヌ、
もうひとつ聞いていい?」
「なんでス?」
「マサキくんとはどこで知り合ったの?」
「そこ、聞きまスか。」
しおんヌが即答しなかった。なんかあるのかな。
「できれば。」
「マサキは、ソウルハンガーの出処を
ひとりで辿っていました。」
ソウル。ここでソウルが出てくるのか。
魔弦ソウルハンガー。
持ち主が次々と天に召されるとの誤解?から、
マサキの妹、るぅーによってそう名付けられた
左弾きのエレキギター。
今はなりんが持ち主である。
「そしてマサキは、ある日私の勤めるショップに現れました。
ソウルは、一時期私が買い付けた商品でもあったのでス。」
なんと!
「いつ頃の話し?」
「今月の始めでス。」
え、じゃあマサキくん、春菜さんが息吹き返したら
すぐソウルのルーツ巡りを始めて、
そこでほとんど知り合ったばっかりの
しおんヌとすぐ仲良くなって、ベリィにも
連れてきたの?
それですぐ来るしおんヌといい、あたしの周りは
コミュ力お化けだらけか!
「それって、ええと、春菜さんの亡くなったお友達の
亡くなった彼氏さんが、
ソウルをしおんヌさんのお勤め先のお店から
買っていったの?」
「その彼氏さんの、バンド仲間でス。」
何かを察したなりんが沈黙し、しおんヌも
合わせて黙った。
「…お亡くなりに?」
「そう、伺ってまス。」
「…。」
ひとり、歴代のお亡くなり持ち主が、増えた。
「なりん、こんなジンクスは終りにするのでス。
私にとってもソウルは自分の目利きで仕入れた
かわいい商品でス。
ですから、私もなりんもピンピン長生きして、
ソウルの無実を証明するのでス!」
そうだ。マサキにソウルを手渡されて、
初めて弾いたあの日。あの手応え。
初めて利き腕で楽器を弾いた、あの自由さ。
本業はミュージシャンじゃないのに、
プロじゃん?てレベルの、しおんヌのベースとの
胸躍るセッション。
今さら、手離すなんてできやしない!
そして、帰りの電車の中で、何故かケースに
入っていたソウルへの、あの宣言。
ー長い付き合いになるよ、相棒。ー
そう、帰りの電車の、…!?
なりんはふと思い出した。
…そうだった、あの日
私はソウルはベリィに置いて、父に借りてる
エレキベースを家に持ち帰ったはずだった、
なのに?
なんで、ケースの中はいつすり替わっていたのだろう…!?
「そうだよね。うん。…ところで、しおんヌ」
「ハイ?」
「しおんヌは、ソウルをどこから買い付けてきたの?」
「…」
困ったような微笑みのままで食事の手もとも
止まるしおんヌ。
「…遺品?」
「…ハイ。」
「…。」
なりんもどんな顔したらいいのか、ちょっと困った。
でもまあ、ほんと、今さらだ。
あたしはソウルに吊るされる気もないし、
今さら手離すつもりもない。
離さない、長い付き合いにするよ、相棒!
しぶとく長生きして、その間弾きに弾きまくって
生涯こき使ってやる!それで天寿を迎える日に、
初めて冥土まで私の魂を送らせてやるよ。
なりんは胸の内で、改めて相棒ソウルハンガーに
宣言を贈った。
「…食べよっか。」
「ハイ…。」
ちょっと黙々とお食事が続いた。
ふたりで追加注文したデザートまで食べ終えると
しおんヌは
「ワタシがお姉さんでスのデ。」
と、会計を全部もってくれた。
時系列を整理すると。
なりんたちポーキュの3人が
援護くんに人助けの助っ人を頼まれて、
歩も春菜さんも入院していた大病院で
マサキたちに出会ったのが
まだ夏休み中の8月の終わり頃。
歩は今も手術に向け入院中です。
9月の最初の週末にライブバー・ベリィで
なりんはマサキと再会し、そこで
左弾きのエレキギター・魔弦ソウルハンガーを託されます。
しおんヌとも、そこで初対面します。
つまり、8月の終わりから9月の初旬の
ほんの短い間にマサキはソウルの出処を探って
しおんヌの勤め先のユーズドショップ(リサイクルショップ)に
現れ、そこでソウルの売買にたずさわったしおんヌと知り合います。
その際マサキはしおんヌが優れたベーシストである事も知り、
あっという間になりんと組ませる新ベーシストとしてスカウトし
しおんヌはそれを快諾します。
マサキはなりんに「弾かれたがり」のソウルを早く弾いてほしかったし、
一方しおんヌはしおんヌで、歴代の持ち主に不幸が続くソウルハンガーの
最新現在の持ち主の安否が、気がかりだったのでしょう。
こうして両者の利害が一致し、しおんヌがベースの名手であったことも
幸いして、
新バンド三色団子構築の第一歩が築かれたわけです。
…あるいは、しおんヌの方からもちかけたのかも知れませんね。
「ちなみにワタシは、ベースがとっっても、お上手でスヨ?」
「本当か!?それはワタリに船だなっっ!」
てな感じで。(しっくり)
以上、これ、本文の内容だけでは伝わらないかな、やっぱ。
ひとまずはこの後書きで補足とさせていただきます。
この物語が、いつかあなたの眼にもとまりますように。
では!