魔弦ソウルハンガー 其の3
魔女を気遣い、兄王子の魔弦を託すのをためらう幼き姫。
本音を司る魔女なりんは、姫の憂慮を解きほぐせるのか!?
という、お話。
時は現代、所は総合病院、
登場人物は小中高校生たちと、大人たちです。
其の3
「大丈夫よ、るぅーちゃん。あたしちゃんと元気に
ソウルハンガーを引き継いでみせるから。」
「でも、魔弦なんだよ!?」
両目にいっぱい溜めた涙が、今にも零れ落ちそうだ。
すっごい可愛い。あたしこの子を守りたい。
「るうーちゃん。なりんちゃんね、魔女なの。
ちょっとだけ。」
そう、ちょっとのちょっとだけね。
我が名は、本音の魔女。どうだ!
「魔女…?何言ってんのよ、魔女なんているわけないじゃない!」
ありゃ。魔弦はありでも魔女はないんだ。
「なりんぬが魔女なら、さては援護ンは大魔王だなっっ!!」
おお、マサキくん、芯喰ってくるじゃん。
それを聞いたなりんは、援護くんの傍らに寄り、ポーズを決めた。
「そうさ、援護くん大魔王と魔女なりんぬさまは、
魔弦など思いのままよ?そんなギターの一本や二本、
心ゆくまで弾きこなして見せるわよ!」
急になりんに接近されて、ちょっとたじろぐ援護くん。
(ほら、援護くんも!)
今度はなりんが援護くんに耳打ちする。
「あ、えっと、」
椅子に座ったままで適当すぎるポーズを、
全力で決める援護くん。
「じゃじゃじゃじゃーん!」
それ知ってる!くしゃみのやつ!
なりんは何故か昭和のレトロキャラをよく知っている。
というか、援護くんもよく知っていたものだ。
援護くんがイメージする「大魔王」は、
それなんだな。
そのアニメの大魔王の姿になった、
上裸コスプレの援護くんを想像して、
なりんは吹き出しそうになった。
そこでいわゆる蛙化を起こさずに済むのが、
ケロヨ…蛙顔美少女なりんの、有利なところだ。
そんなふたりを唖然とみつめる、るぅー。
「なりん、ノリッノリだな。」
そう言ったこりんは、どうやらまだやや引いたまま。
穏が冷静さを取り戻したようには、
いかない様子だ。
「こりん、私ソウルハンガーは弾くけど、
ポーキュパインではベース続けるよ?」
「んだなぁ。あたしはギターでいっぱいいっぱいだ、
今さらベースに転向なんて、無理だかんな?」
「うん。」
フェスの夜には、アイドルカフェのレラが
なりんのひと月でのベース習熟の話に驚いていた。
4歳からの自主的な右弾き矯正といい、
なりんには並外れた習得強さがある。
それは、誰にでも求められるものではない。
ただ、本人の気の向いたものに限られるという
ムラはあるのだが。
「決まったな。なりんぬ、そうるはいつどうやって受け取る?」
「なりんちゃん、ほんとやめて。」
「うーん、じゃあね、るうーちゃん。
今お休みしてるお店があるから、
そこに置いておくことにしようか。」
「どういうこと?」
「そのお店は歩くんとベリ子さんのライブハウスで、
今は私たちがお留守番してるの。
でももうすぐ学校始まるし、そしたらお店に
行けたときだけソウルを弾いてあげることに
する。
普段は一緒にいないことにするから。どう?」
「…それで大丈夫なことになるの?」
さあね。どうだろね。
「大丈夫よ。」
なりんはるぅーに微笑んでみせた。
その微笑みが、いじらしく頑ななるぅーの心配を
少し和らげたようだ。
「援護くん。」
「はい。」
「援護くんは、いい大魔王?」
「そのつもりです。」
「強い?」
「はい、強すぎて長年封印されていたくらいです。」
援護くん…、それね、自分で思っているよりも
はるかに芯喰ってるよ?
だってお姉ちゃんの洞察があっているなら、
それ、本当に本当のことだからね?
なりんはちょっとだけせつなくなった。
るぅーちゃん、援護くんはね、本当に
強くて優しい大魔王なんだよ。
強くて強すぎて、優しくて優しすぎる、
大魔王さま…。
「なりんちゃん。」
今度はあたしだ。
「なりんちゃんは、やさしい魔女?」
「そのつもりよ。」
「ソウルハンガーに負けない?」
「うん。仲良くしてみせるわ。
いっぱい弾いてあげて、呪いがあるなら解いてみせる。」
まだ逡巡がある様子の、るぅー。
「るぅーちゃん。
援護くんとあたしに、ソウルをまかせて。」
しばらく互いの瞳を、正面から見つめあう
小学生と高校生の、ふたりの乙女。
「…分かった。」
遂にるぅーが頷き、
次いでなりんが、また微笑んでゆっくりと
頷き返した。
「で、受け取りはどうなった?」
ここからは穏が応じる。
「車でお家に取りに行ってもいいし、
この病院で待ち合わせでもいいわ。
マサキ君、どうする?」
「家?送ってくれるのか?」
「今日さっそくか。うん、歩くんのセレナで来たし
みんな乗れるわよ。」
「おぉー助かるな。」
お姉ちゃん、したたかだなあ。
こうして援護くん支援チームことポーキュパインは、
その活動範囲を未知の藤堂家まで拡大確保したのだった。
さあ、クエストの次のステージは決定だ。
その前に、この始まりのお城、もとい
総合病院でまだ確認すべき情報もいくつか残ってはいまいか。
この病院に眠ったままの、藤堂家のお祖母様は
どんな状態で、そして兄妹のご両親については
誰か知ってる人がいるのか。
「援護くん、今夜もまたお仕事?」
「はい。僕は時間と行き方も決まっているので、
今日は皆さんとはここまでですね。」
「そっか。援護くん、無理しないでね。」
「ありがとう、なりんちゃん。」
ここでまた穏のターン。
「決まりね。じゃあ私はちょっとベリ子さん達に挨拶があるから、
みんなここで待ってて。」
「みんなで行けばいいじゃないすか。」
こりんが当然の疑問を口にする。
「ちょっと大人のお話があるのよ。」
にやりと笑みがこぼれてしまう、穏。
なりんとしても本音の呪いがある以上、
このタイミングでの姉とベリィ組ふたりとの
同席は避けたい。
このにやりだって、なりんがいなければ
このしたたかな姉が決して出したりはしなかった
類のものだろう。
「それじゃあるぅーちゃん、マサキくん、
ちょっとお話して待ってようか。
援護くんもまだ大丈夫なんでしょ?」
「はい、予定までもう少し時間があります。」
よし、じゃあこちらはこちらで。
今聞けるだけの情報を揃えておきましょうか。
アンジュルムの川名凜さん!21歳のお誕生日、
おめでとうございます!語尾現在形!♪
本作のヒロインのイメージを紡いでくださった、
我がミューズ!感謝を込めて祝福申し上げます!
ヒロインの澤菜凜ちゃんはアイドルの川名凜さんのヴィジュアルから
誕生しましたが、川名さんをなぞった個性もありつつ違う要素もあります。
例えば昭和のレトロキャラクターに詳しいという設定は、
完全に著者である私の都合です。自身の世代以前のものも含めて大好きなんです。
また、何種もの楽器を演奏できるのは共通ですが
川名凜さんはトロンボーンにバイオリンにピアノに加え短期でトランペットを習得と披露(!)
澤菜凜ちゃんはエレキギターにアコースティックギター、加えて
短期にエレキベースを習得と披露してます。
トランペットとベースがそれぞれのお家にあった点も共通項ですね。
お誕生日に更新の今回は、意識してなりんちゃんの見せ場にしてみました。
援護くんとのポーズに、るぅーちゃんとの信頼と親愛の始まり
想像で吹き出しそうになったり、せつなかったりの心情の描写
うまくいったかな?
さて 書き溜めのストックは使い切ってしまったので
次回はまたプロットとのにらめっこから。今のところうまく進められてはおります。
なるべく早くたくさんの更新にしたいところです。ではまた。