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第二話 魔弦ソウルハンガー 其の1

マサキによってなりんのとある秘密が明かされ、

姉ののんが大いにショックを受けます。

しかもそれが兄妹との意外な縁を築く?

  第二話 魔弦ソウルハンガー


  其の1


「なりんぬーーーー!!!」

 飲食コーナーの入口から、遠くめの声が聞こえて、間もなくマサキの本体が

入ってくる。

「なりんぬ、いるか!?」

 え、あたし?

「うん、なに?」

 さすがに動じるなりん。

 戻ってくるの随分と早いし。

「なりんぬにおれのギターを貸してやる!!」

「え、なんで!?」

 色々と唐突でついてゆけない。

「なりんはギターが弾けるだろう!そしてマサは左利きだ!!!」

 マサキが続ける。

「だからなりんにしか貸せん!!」

「あ、え、うん。」

 一同、マサキの論理?をしばし各々で整理する。

 …、

「待って、凜、あんた左利きなの!?」

「うん、まあ。」

 まったりとなりんが肯定する。

 ものすごく驚いている、のん

 言うまでもないが、彼女は凜ことなりんの実姉だ。

「だろ!」

「よく気づいたね、マサキくん。いつの間に?」

 なりんがマサキに問う。

「マサは左利きだからな!」

 左利き同士なら相手が右手遣いに矯正していることに気づくものなのだろうか?

 そんなことは、おそらくない。

 なりんだって、左利きの実感として、逆の立場ならそんなの見過ごしてしまうだろう。

「えぇ、あたしも知らなかった。」

 こりんも驚いている。

「でもあんた、なんでも右持ちだったじゃない。ベースだって」

 かなり動揺している、のん。

 なりんがフェスで弾いたベースもアコギも、そして本来の趣向であるエレキも、

皆右弾き仕様だ。

「あのね、お姉ちゃん。」

 なりんが語り始める。

「うちでお父さんが留守の間も部屋一つ占領しているお父さんの楽器、

みんな右利き用じゃない?」

「そうよ?」

「あたしはあれをどれでも弾いてみたくて、そのために

お箸も鉛筆もみんな右に矯正したの、

じぶんで。」

「うそ…」

 のんの動揺はまだ続いている。なんでも自分の方が相手を把握している、

それが穏の自信であり、アイデンティティだった。もしやそれは、

ただの思い込み?

「だってあんた、小さいうちから」

「あたしがお父さんの楽器に興味持ったのは、

4歳よ?お姉ちゃんその頃にも、もうあたしに全然興味なかったじゃん。

見向きもしなかったじゃない。」

 それは、図星だ。

 敬語くんこと少年の頃の援護くん、

遠藤圭吾の謎の失踪でその頃の幼いのん

ショックのあまり周囲に関心を持たなくなり、

生まれてきた妹の凜にも興味を示さなかった。

 小さなのんのんの悲しみと絶望は計り知れないが、

それはそれとして薄情な話じゃないか。

 だがなりんは、そんな事より今は、このいつも何かと手ごわい姉が

激しく動揺している姿がちょっと痛快に思えてしまって、

わるい気はしていなかった。むしろ一矢報いた気分だ。

「あたしもぜんぜん気付かなかったよ、

そんなの。」

 こりんも驚いている。この4月からとはいえ、

学校でもバンドでも一緒に過ごしてきた

親友の仲だ。

「まあ特に話す機会もなかったかな。」

「パンだっておにぎりだって右手で喰ってたじゃないか。」

 あれ?こりん引いてる?

「お父さんの楽器、ぜんぶ完璧に操りたかったのよ。」

 澤菜家の家長、澤菜賢一の単身赴任は長期を極め、姉妹にとっても父とは

たまに帰ってきては三日もたたぬうちまた去ってゆくひとだった。

 なりん自身としては、楽器たちへの愛着を語ったつもりだったのだが、

こりんはそう解釈はしなかった。

「あたし、なんでなりんが援護くんをそこまで好きなのか、

分かった気がする」

 こりんがぼそっとつぶやくと

「えっ。」

 と、るぅーが反応する。

 こりん、好きってそれ言っちゃうかな!?

 こりんはるぅーに向けて

「るぅーちゃんも、援護くん好きでしょ?

なりん達も、援護くん大好きなんだよ。」

と、 ずばずば続ける。

「えっすっ好きとかじゃないし」

 赤くなって焦る、るぅー。

「ふたりのお父さんは単身赴任がずっとでさ、

寂しいんだよね。でさ、援護くん優しいじゃん。」

 つまりこりんの理屈ではなりんの、父賢一の楽器コレクションへの愛着も

援護くんへの懐きも、同じ意味と言いたいらしい。

「わたしは別に、援護くんをお父さんとは

思ってないよ。援護くんは援護くんだし。」

 そう言ったるぅーの一瞥に、たじろぐこりん。

「お兄ちゃん、あのギターをなりんさんに押し付けるつもり?」

「押し付けるんじゃない、マサの代わりに弾いてもらうんだ!」

 話題が変わった。

「なりんぬ、おれはるぅーについててやらなくちゃならない、

でもあのギターがおれに弾かれたがるんだ。」

「ついてなくていいよ!それにあのギターは人に貸しちゃダメだ!捨てなよ!」

「待ってどういうこと?捨てるって?」

「なりんさん。あのギターはね、持ち主を不幸にするひと喰いギターなの。」

「ひと喰いギター!?」

「そんな事ないよ!あいつはただ弾かれたがってるだけなんだ!

だからおれはあいつを持ってるままだと弾いてやりたくなって、

弾きたくて弾きたくてたまらなくなって、ついるぅーから目を離してしまうんだ。

だから、」

 だから?

「左利きのなりんぬがマサの代わりにそうるはんがーを弾いてやってくれ。」

「そうるはんがー?」

「魔弦ソウルハンガー。」

 真剣な顔でるぅーが呟く。

「るぅーがそう名付けたんだ。」

 マサキが続ける。

 るぅーちゃん…、おませっていうか、

大人びた子なのかなって思ってはいたけど。


 小4で中2病を先取りしちゃうんだ。


 るぅーちゃん、大人おっとなー。

 そんなとぼけた感慨をついいだいてしまう、なりん。

 いや、実は色々とそんなのんきな事を思っていられる状況ではないのだが。     

前作「なりんの援護くん」では、なりんは父譲りのベースを

右手弾きで演奏します。

ところでなりんこと澤菜凜ちゃんのヴィジュアルモデルである

川名凜さんは左利き!私実は前作執筆の時にはこの事実を

見落としておりまして

まあ澤菜凜ちゃんは川名凜さんなわけではないので構わないはず

なんですけど

(実際違う点はたいへん多いです)なんか妙にこの取り落としが

気になってしまっていて

ここから劇中のなりんを左利きということにはできないものか…と

色々考えていた結果、今回のような場面を思いついてしまって

これもまたこの続編「援護くんの隣りに」の執筆動機のひとつとなったわけです。


第2話はもう少し続きます。以降も含め年内にはどこまで進められるかな。

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