輝け、裕人 其の3
準備も大詰めというときに、
裕人の発表に最後の試練が!?
さて。
其の3
裕人に仲直り?というか仲違いなどなかったよの報告も済ませ、
万事順調に事が進むかと思われたその週。
大詰めの金曜日になって、大問題が発生した。
プライバシーに充分配慮したはずの裕人のルポに
目を通した生徒のうちの何人かが、
これでは解る者には自分とばれる、発表を
取り下げてほしいと言ってきたのだ。
本人の意向を無視して無理強いは
決してできないので、
裕人は申し出を呑むことにした。
すると「拒否できるなら自分も」と言う生徒が
次々現れて、展示できるレポは校外の生徒のものが
主となり、
成果の半分近くにまで減ってしまっていた。
「…ずいぶんと隙間ができたねえ…。」
ほかのクラスの展示に影響が出るまで確保していた
展示用のついたても、そのまま正比例で半分近くにまで量を
減らしていた。
「まあ、何もないわけではありません。
喫茶と談話のスペースを増やしましょう。」
机を組み合わせ、シートをかぶせて椅子を並べ、
文化祭ならではの即席のテーブル席が出来上がる。
「それより小冊子です。掲載できないぶんを
削除して、まとめ直さねばなりません。」
「そっちは私たちでやるから、高橋くんは
講演を練り直して。」
学級委員と新聞部員たちが声をかける。
「分かりました、すみませんお願いします。」
手の空いてる者は各作業に駆り出され、
結局クラスほぼ総出の追い込みリカバリーとなった。
ちなみにこりんは部活に出ていて、教室の裕人たちが
追い詰められていることにまだ気づいていない。
なりんはインタビューに同席してきたので、
裕人と共に講演練り直し組だ。
「すみませんなりんちゃん、結局こんな事に
なってしまって。」
努めて平静に作業に勤しむ裕人だが、
やはり顔色は青く見える気がする。
「裕人くん、ここまで来たら、欲張らずにね。
ちゃんと成し遂げることを念頭に置いて、
無理せずいこう。」
「はい。むしろ、講演も展示も情報詰め詰めにせずに、
念慮や提言の話しにできるかも知れません。」
「おお、前向きじゃん。その調子!」
微笑み合うふたり。
やっぱこいつ凄いな。さすが我が親友の
彼氏くんだ。
裕人はまだ、自分がすでにこりんからのOKを
手にしていることを知らない。
なりんもそこは敢えてネタばらしなど
無粋なまねはせず、
裕人の純粋な努力を見守り支えるのみだ。
だが、それはそれとして。
「裕人くん、こりんも呼んでこようか?
知らせないのもなんだかどうなんだろ。」
「いえ、ここはこりんちゃん抜きのほうが、
ぼくの作業が落ち着いて行えます。
せめてひと段落がつくまでは、
こりんちゃんにはむしろ内緒にしてください。」
講演原稿から目を離さないままで裕人が答える。
そっか。恋する男ごころにも、色々と機微があるもの
なのね。
ふと援護くんの顔が浮かんで、あたしが援護くんにとって
「話しやすいから大好き」って言われたの、あれ素直に喜んでて
いいのだろうか?などといらぬ不安がよぎったりもする。
美人な藤堂春菜さんのことは、見ただけで介護も無理って言っててさ。
あたしはまだまだ、保護対象のままなのかなあ。
いやいや、今はクラス団結のときだ。部活に励むこりんも含めて。
なりんは首を振っておのれの邪念を振り払った。
頑張れ裕人。最善であれ次善であれ、ベストを尽くせ。
今はみんなが、君の味方だ。
第五話「輝け、裕人」はここまで。
次回からは第六話となりますが、
裕人くんはちゃんと輝きます。
そこはネタバレしておきたい気分。
この物語が、いつかあなたの眼にもとまりますように。
では。