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赤いパスタは解(ほど)けない 其の3

なりんの左弾きギター、魔弦ソウルハンガーの初演奏は

新たなベーシスト・しおんヌの編入とともに大成功。

一方…


さて。


   其の3


 拍手喝采でたたえる三人のギャラリー。

 ステージ上でもしおんヌが

「なりん!本当に今日が初めての左弾きですカ!!」

 と、満面の笑みで賞賛を贈る。

「しおんヌさんこそ。やれそうとは思っていたけど、

凄いね。」

「しおんヌでいいデース!HAPPY!!」

 ここぞのHAPPYで右手を挙げ、なりんが

ピックを指に挟んだ左手でハイタッチに応じる。

「ほんと凄えな、ふたりとも。」

 ちょっとトーン低めで褒めるこりん。

「ほんとね。どうやら私はここまでね。」

 いきなりのんおだやかでない言葉を切り出す。

「何言ってるのよ、お姉ちゃん。」

「私は後夜祭までよ。その先続けるなら、

新しいドラマーを探して。」

「ばか言わないでよ、どうしたの急に。」

「そうでス。先ずはみんなでお昼にでもしまショウ」

 ここで振動音が鳴り、スマホを取り出すしおんヌ。

「OH!」

 そそくさと片付けを始めるしおんヌ

「アポをひとつ忘れてまシタ、三時間ほどで

また迎えに来まスのデ、それまでるぅーちゃんと

マサキをよろしくデース!」

「俺たちなら俺たちだけで帰れるぞ?」

「ダメでース!それでは春菜サンにも申し訳が

立ちまセン!」

 春菜さん…?文脈から察すると、おそらくあの

眠り姫さんだな。

 兄妹が「おばあちゃん」と呼ぶ、

うら若く麗しき守護者。

「それでは皆サン、またのちホドー!」

 だだだと駆けて出てゆくしおんヌ。

 続いて、こりんがギターを片づける。

「なりん、ちょっと部活に顔出して来るわ。 今日はほんじゃな。」

「えっ今から?お昼くらい一緒に食べてったら」

「そんじゃ午後の練習に間に合わねんだわ。昼は駅でパンでも買うし。

 裕人、お前はどうする?」

「ぼ、僕はこりんちゃんのいるところに」

「マサキくんたちに話を聞きに来たんじゃなかったの?」

 めずらしくなりんが声に出してつっこみを入れる。

「ええと、そうだその、マサキ君たち、こんどの日曜は

うちの高校の文化祭を見に来ませんか?」

「文化祭?」

 マサキが息を呑み、るぅーがまた目を輝かせる。

「はい。僕も発表と展示をします。マサキくん、

よければ壇上で僕とスピーチに参加しませんか?」

「おぉー!いいぞ!目立つのは嫌いじゃない。」

「わたしも高校の文化祭見てみたい!」

「決まりですね!それではなりんちゃん、

また明日学校で!」

 既に出口へ向かっているこりんの背を追う

裕人。

 あぜんとするなりんの隣りを、ドラムに

シートをかけ終えたのんがすり抜けようとする。

「待ってよお姉ちゃん、どういうこと。さっきの話

 本気じゃないよね。」

 なりんの声のトーンに、るぅーが少しびくっとする。

「本気よ。ベリィがすぐには再開しない以上、私就活しなくちゃだし。

ここに住んでいられないなら、部屋も探さなくちゃ。」

 なりん、ソウルを肩から外して傍らのスタンドに降ろし、

穏に正対して立ちふさがる。

「住むのは、うちでいいじゃない。」

 穏、なりんに正対したままで

「ここに住み込んで、改めて実感したわ。

 実家は私には窮屈よ。」

「ドラムは?なんなら今度行くお店に頼んで」

「それじゃ収入にならないのよ。」

 それは、確かに。その通りだろう。

「新しいドラマーは私も人をあたってみるけど、

あまりあてにしないでね。」

 なりんはなんだかこの状況についてゆけない。

 左弾きのソウルハンガーを予想以上に見事に弾きこなせて、

今頃みんなで万々歳のはずではなかったのか? じゃね、という風に

なりんをけて出ていこうとする姉を、ひきとめるなりん。

「…なに?」

「お姉ちゃん、援護くんの電話番号。教えてって?」

 腕を掴まれたまま、妹をみつめる穏。

「…後悔しても知らないわよ。」

 そう言いつつ、なりんのスマホを出させて

番号を打ち込む。

 援護くんこと圭吾は、本来通話は仕事に限り

どんな親しい仲でも私用では使わない主義だ。

 その点は忘れるなと、穏は姉として釘をさして

おいてくれている。

「…恩に着るよ。お姉ちゃん。」

「それじゃあまたね、るぅーちゃん。マサキくん。」

 不安げに見上げる、るぅー。

「さよなら、のんさん。」

「のんぬ、またな。」

 ふたりに嫣然えんぜんと微笑んでみせ、ベリィを発つ穏。

 店内には、兄妹となりんだけが残った。

「そんじゃあ、ファミレスでも行くか。」

 明るくマサキが声をかける。

「…なりんちゃん、泣いてるの?」

 なりんを見上げ、るぅーが指摘する。

「あれ?ん、ほんとだ。」

 人差し指で左頬を確認する、なりん。

「ごめんね、なんだろ、なんだろね。」

 次から次へと涙がこぼれる。

 マサキが静かに歩み寄り、左手でなりんの右目の涙をすくった。

 驚き固まるなりん。

 一瞬のひんやりした感触が、涙で火照ほてった頬に心地ここちよい。

 かたまったままマサキをみつめると、

マサキがばつがわるそうに爽やかな笑顔で

「ハンカチ忘れちった。」

 と、白い歯を見せた。

「なりんちゃん!」

 ここで小さいるぅーがなりんの正面に抱きついた。

 身長差で、るぅーの両腕はなりんのちょうど腰のあたりで周る。

 なりんのみぞおちに顔をうずめる、るぅー。

「なりんちゃん、泣かないで。なりんちゃん、

ギターすっごいカッコよかったよ。」

 るぅーのちっゃくて温かい身体が、これも心地よい。

 なんて愛にあふれた兄妹なのだろう。

「ありがとう、ありがとうね、るぅーちゃん。」

 いまや遠慮なくぼろぼろ涙をこぼしながら、るぅーの頭を抱きしめ返す、なりん。

 ふたりの抱擁をやるせなくみつめるマサキが

提案を口にした。

「ファミレスはこんどにして、マサはコンビニに行ってくるよ。

 なりん、なにがいい?」

 こんな悲しいときでも、おなかは減る。

「あのね、ナポリタン。目玉焼き乗ってるやつ。」

 泣いたままでリクエストする、なりん。

「るぅーは?」

「あたしサンドイッチ。」

 なりんに髪を抱きしめられ、胸に顔をうずめたままのるぅーが答える。

「なりん、これ薬。るぅーを、よろしくね。」

 右手で受け取った薬は、清潔なタオルハンカチに

包まれていた。

「じゃ、待ってて。」

 そう言って出発するマサキ。

 コンビニは駅までに何軒かある。マサキが

道に迷う心配はないだろう。

「お兄ちゃん、ハンカチ持ってるじゃん。」

 目だけで薬を確認し、るぅーがつぶやく。

 魔弦の手かげんなのか、るぅーが持病の発作を

起こすことはなかった。

 程なく袋を下げたマサキが戻り、三人は

静かな店内でテーブルにつき、昼食をとった。


買出しに行くマサキになりんが頼んだナポリタンに

「目玉焼き乗ってるやつ」とリクエストが入るのは

前回のあとがきで紹介した、

「こんがらがった赤いナポリタン」に目玉焼きが乗ってるから。

というわけで、べつに実際のコンビニメニューに作者の私が

心当たりがあるわけではありません。


 駅までのコンビニは数軒。ナイスガイなマサキ少年は、

泣いてるなりんの無邪気な要望に応じるべく、

いくつかコンビニをハシゴしたかも知れませんね。


 次の更新は明日の予定。

 この物語が、いつかあなたの眼にもとまりますように。

 それでは、メリクリイブイブ~。(←※イブの前日の意)

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