赤いパスタは解(ほど)けない 其の2
ついになりんがソウルハンガーを弾きます!
…さて、どうなる!?
其の2
しおんヌがステージに上がり、
おおまかになりんとやりとりする。ベースパートの引き継ぎは
どうやら難なくいけるらしい。
続いてなりんは父のベースを外してスタンドに
立て、いよいよソウルハンガーのケースを手に取り、
ジッパーを降ろした。
現れたギターは、木目のネックに黒い本体
全体にやや小ぶりで、女子のなりんにも
扱いやすそうなサイズ感がありがたい。
総じて、さして特徴もない、ありふれた姿の普及品だ。
―左右が、反転してる以外は。
なりんはベルトに肩を通し、初めての感覚に身を委ね、
ソウルを定位置に抱いた。
思った以上にしっくりくる。
チューニングと接続を終えて、先ず一音。
…いいね。
利き腕でピックを摘み、弦を弾く。
たったそれだけのことが、なんて心地いいんだろう。
あたし、知らなかったよ、お父さん。
父の右弾きの楽器たちも愛しいが、それでも
なりんはこの初対面の左弾きギター、
ソウルハンガーに、急激に愛着を感じていた。
コードをいくつか試し、右で弾きなれたメロディも
思いつくままいくつも鳴らしてみる。
(いけるな、これは。)
なりんの中で、確信が形を成す。
「どうだ?なりん。」
こりんが調子を伺う。
「いけるね。いけるよ、これ。」
爛々(らんらん)と輝く瞳と、興奮を湛えた笑み。
静かに、されど熱のこもった声でなりんが力強く答える。
「じゃあ、弾いてみるか。あたしボーカルで、
なりんがきつそうになったらそこからあたしも
弾くから。」
「分かった。お姉ちゃん、しおんヌさんも。
いける?」
「いいわよ。」
「いってみまショウ。」
4人編成のポーキュパインが準備を整えた。
藤堂兄妹と裕人の、3人の観客も席に着き
こちらも準備万端だ。
こりんがマイクに向かい、檄を飛ばす。
「いくぜ!おんなども!」
「うお―!!」
男性バンドなら「野郎ども」とするところ。
澤菜姉妹のウォークライとこりんヌの
「YEAH!」が交じり合い呼応した。
再びドラムスティックがビートを刻み、
続いてなりんが遂に前奏を弾く。
しおんヌのベースも極めて自然に姉妹と融け合い
次いでこりんのボーカルがそこに加わる。
♪ベリ子の賄いなんでも辛れェ!
♪危険な恋のつまみ喰い♪
♪気軽にハバネロ入れんじゃねぇよ!
♪熱い口づけ燃える夜♪
♪おかげでこちとら、デスボイス!
こりんの無茶な作詞と穏の情熱的な歌詞とを
歩がミックスした、リードとコーラスの掛け合いの歌詞が
またも炸裂する。
ちなみにしおんヌは歌詞まではまだ手が回らず
ベースに専念しているが、演奏は完璧だ。
なりんの演奏もまた完璧で、完璧というか
これは上手く行き過ぎていた。
ギターを抱えたままボーカルのみのこりん
(出る幕無ぇじゃねえか…。)
戸惑いを秘めたままで、熱唱を続ける。
一方客席は。マサキもるぅーも裕人も
全身でノリノリの大盛り上がりだ。
「いいぞ!なりんぬ!」
「みんなー!かっこいい!」
「素敵です!こりんちゃん!!」
やがてソロパートに移ると。
先ずはなりんとソウルハンガー、なりんは
ゾーンに入って明らかにこりんを上回る演奏をきめ、
次いでしおんヌのベースも
覚醒したなりんの左弾きに一切引けを取らぬ
見事なアドリブを見せて一同を圧倒し、
続いて穏のドラムは、どうにも割りを喰った。
(やり辛いわね…。)
なんとか演奏を維持しつつ、穏は歯咬みした。
♪ベリィHOT!セイ!
「ベリィHOT!」
♪ベリィHOT!セイMORE!
「ベリィHOT!」
♪ベリィHOT!ベリィHOT!サマー!!
一度めに遜色なく、しかしなんらかの波瀾を確実に湛えて、
変則編成による二度目のベリィHOTは
またもばっちりとキマったのだった。
ではタイトルのお話し。
「赤いパスタは解けない」というタイトルの
元ネタは約3つ。
ひとつめは、ヒロインなりんちゃんのビジュアルのモデルである、
アンジュルムの川名凜さんの限定カフェメニュー
「こんがらがった赤いナポリタン」から。
続けてふたつめは、そのメニューの元ネタであるところの
アンジュルムのナンバー「赤いイヤホン」の歌詞
「こんがらがった赤い糸」から。
当初タイトルはそのまんま「こんがらがった赤いナポリタン」の
予定だったのですが、ここにもうひとつ要素を加えました。
3つめ。
広瀬香美さん作詞作曲で内田有紀さん歌唱の佳曲
「幸せになりたい」の歌詞
「~もつれた赤い糸、ほどけない」にちなんで。
私のなかでこの歌、いくつかある究極至高のうちの一曲です。
大好きです。いつか川名凜さんにも歌ってほしいなあ。
以上、この解説がいくぶん今後の予告になってるかも。
「約3つ」としたのは、ちょっとジョジョ的にしたかったので
「ダイヤモンドは砕けない」っぽく、「は」を入れてみました。
歌詞ちなみだけなら、「赤いパスタ、ほどけない」でもいいし
それもなんとなく可愛い響きなので迷ったのですが、
可愛いだけでなくて凛々しいというかカッコいいニュアンスも
欲しかったので、こうなりました。
次の更新は明日の予定。
この物語が、いつかあなたの眼にもとまりますように。
では!