俺は誰だ
リビングに来るように促された。
先ほどの女の子が目の前に座る。
「どうしたの?座ったら?」
どこに座ったらわからずいたら声をかけられた。
右手で目の前の席を指さして座るように指示をする。
誘導のまま俺は黙って椅子に座る。
「具合悪いのかしら。昨日まで元気だったのに。風邪かしら」
品の良い女性が何がしかを言う。
「寝ぼけてるんじゃない?」
「それなら良いのだけど。美声ちゃん今日街までいくのよね。」
「はい。ダイモンと一緒に行きます。」
女の子は美声と言うのか。話ぶりから品の良さそうな女性は母親か?
「上品の山盛りさん何か欲しいものはありますか?買ってきますよ。」
「そうそう。それなら魔石を買ってきてくれるかしら」
「良いですよ。どれくらいですか?」
「40石くらいかしら。寒いと減りが早いから多めに買っておきたいわね。大丈夫?」
「わかりました。重いものでもないので大丈夫です。」
魔石ということは、ここには魔法があるのか?
いや
ちょっと待て
魔法とか魔石とかそんなことはどうでもいい。
いや
ちょっと待て
昨日までの記憶が無いぞ。
しかし不思議と昨日までの記憶がなくても作法も言葉もわかる。わかるが何かおかしい。
どうやら俺は昨日まで普通だったらしい。上品の山盛りさんがそう言っているのだからそうなのだろう。
考えられるのは2つだ。
記憶喪失か
それとも、異世界転移か
記憶喪失だとすると魔法についての知識がすっぽり抜け落ちている。魔法で特定の記憶を消されたか。それとも強いストレスを感じて自分で記憶を消したか。
なぜ?
昨日まで俺は普通に過ごしてきたようだ。正確には彼女から見て普通だと言うことだ。美声も気さくに接してくれていると言うことは、二人から見て俺の普段の行動や言動に破壊的な問題はないのだろう。もしかしたらここにいる3人が異常で世間一般から迫害されているかもしれないが今はその可能性は置いておこう。目の前にいる女性二人は普通だということにしておこう。そして普通に受け入れられている俺も普通の部類だと言うことだ。表面上は
裏で、誰にも見つからずに隠れて俺は怪しげなことをしていたのかもしれない。だから特定の記憶を失ってしまったのかもしれないし、異世界転移してしまったのかもしれない。
気がかりは昨日の俺だ。もし昨日の俺が目の前の女の子の声と同じ無垢な人間だったのなら、今の俺が罪人だ。今の俺が起点となって昨日の俺を背乗りしていたとしたら、俺は一体どうすれば良い。
昨日までの俺は一体どこに行ってしまったのだ。
俺は昨日までの俺と同一人物なのか。
それともどこか違う世界からやってきた異邦人なのか。
いや、やめておこう。今は情報が少なすぎて堂々めぐりにしかならない。
一時的な記憶の混乱かもしれないし。少しこの問題は横に置いておこう。