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「ねえ、本当に子供の声なのかしら…?」
「そうねえ…一応もう少し進んでみて、いなさそうなら一旦戻りましょうか」
声が聞こえた先に足を進めていけばいくほど、空気が悪くなっていくような気がする、これは…まずいかも。もし、この先にいるのなら助かる可能性の方が低いかもしれない。でも、見捨てられない。このまま知らなかったことにして帰ることはできない。
「お、お嬢様…この先はさすがにもう…!」
「ベアド…そうね、そうよね。危ないかもしれないわね」
そう、このまま捜索を進めるにしても王族であるレイラ様を連れてはいけないわ。どっちにしたって一度戻るべ…
「いた…」
「え?」
「いたわ!あそこの木の上!ベアド、降ろせる?!」
ベアドは力強く頷くと、風魔法を使ってサッと子供がいる木の頂上付近まで飛んでいくのを確認して後ろを振り向くとレイラ様が手早く通信石を使ってリュス様に連絡を取ってくれていた。
おそらくすぐに来るだろうけど、体の様子を見てここで治療の必要があるなら色々出しておかないといけないわね。
「ダリオ、ユーグリット、少し戻った先で簡易テントを設置します。リュス様達もすぐに来るだろうから一人は設置をお願いしていいかしら?」
ブレスレット型の亜空間収納から、簡易テントを出し二人に手渡す。
するとユーグリットがテントを受け取る。
「俺、先に戻って準備してますね。ダリオはお嬢様のそばにいろ」
そう言って彼は駆けだした。すぐさま先ほどの木を見上げると無事救出できたベアドが子供を抱えて降りてくる。意識はあるようだし、この瘴気が漂う地よりも木の上にいた方が体への影響は少ないはず。大丈夫よね…?
「お嬢様、意識はありますが少し瘴気の影響を受けてます。どうされますか?」
「少し戻った先にユーグリットがテントを用意して待っていてくれてます。そこに行きましょう」
ベアドは子供を抱えたまま、私の後ろに下がりダリオは自然と先導するように前を歩いてくれている。レイラ様と手を繋いで歩き出す。
来た道を戻るようにして少しの間、歩いているとテントが見えてきたので思わずほっと息を吐く。
「ユーグリットありがとう。じゃあ三人は少しだけテントの外で護衛してくれる?一応防御結界は張ってはいますが、念のため。あ、そうそう、リュス様が来たら声を掛けてくれる?」
「わかりました。では何か手伝えることがあればお声掛け下さい」
お礼を言ってレイラ様とテント内に入り、少し中を見回すと子供は簡易ベットに寝かせているが、私達を怯えたように見つめながら震えている。そりゃあそうだ、怖いよね。
迷子ではなさそうね、年齢は三~五歳くらいかしら?きっと捨てられたのね。だってこの子の見た目が…髪の色も瞳の色も薄くて、世間で魔力無しと言われる要素でいっぱいだもの。
そうか、きっとこの子も…。
「レイラ様、魔力遮断の結界掛けてもらえますか?私は外の防御結界と遮音結界を張っているので、これ以上やると治療ができなくなるわ」
「任せて。例の魔法を使うのね?護衛は知らないの?」
「ええ、言ってないわ。別に隠しているわけではないのだけど。一応ね」
お互いに結界が張れていること確認し、一息つくようにため息を吐く。
次はっと…、この子のけがの治療と浄化ね。
「初めまして、私はニーナっていうの。君の名前を教えてくれる?」
「……たず…」
「え?」
「やく、たたず…」
「…っ!なんてこと…」
少年が言う言葉にショックを受けたレイラ様は隣で涙汲んでしまった。けどその気持ちは分かる。ショックだった。自分も同じように言われて育つ可能性があったかもしれないから、余計に。そうならなかったのはこの子の親みたいに悪者になりきれない私の両親と心優しい公爵家のおかげ。
今ではこんなに幸せに暮らしているけど、こうなっていてもおかしくなかったのね。運良くお爺様もお婆様もお父様も受け入れてくれたからこそ、今があるもの。私は運が良かっただけ。それにしても、こんなに幼い子に、役立たず…役立たず…!ああ、名前すらないなんて!ひどすぎるわ…!
あまりのことに黙ってしまった私達を不安そうに見ている子に頑張って笑顔を作り話し掛ける。
「そう、じゃあ今日から君の名前は『ライル』よ。そんな名前忘れてしまいなさい。いい?」




