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※アーサー視点です ①


 その日は、珍しく朝練はなくいつもの鍛錬を終えて学院に向かうと、何やらいつもより騒がしい。おそらく前日にも話題に上がった編入生のことだろうと思い、何となく興味本位でクラスメイトの会話に耳を傾けた。

 会話の内容を聞いて察するに、下の学年で放課後に魔法試合をする女生徒がいるらしい。これを聞いて第一にああ、なんて日に登校してしまったのかと後悔から始まったのは言うまでもない。


 なんてたって対戦相手がなあ…。試合なんてせずに大人しく淑女であるべきなんて野暮なことは言わないが、話題の中心にいるあの苛烈で性格の悪い侯爵令嬢には俺自身何度も迷惑を掛けられている。良い印象を抱くはずもない。


  それも俺だけでなく、王族であるボリス第一王子殿下、リュス第二王子殿下、ロイ先生、飛び級してすでに魔術師団に所属し、たまに学院にも講師でくる幼馴染のネロ、ミドガレッド宰相のご子息レオン卿――と、まあこんな感じで顔が良いもしくは爵位が高い男は、ほぼ一回は言い寄られたことがあるのではないだろうか。それも執拗に。俺は家を通して苦情を入れたからさすがにもう言い寄ってはこないだろうが。ちなみに言うまでもなく他の人間からの印象も最悪だ。


  そんな彼女に編入早々絡まれた公爵令嬢は気の毒でしかないな。

 深窓の令嬢と噂され、あのローレル公爵の養女。公爵ご自慢の娘だと言われているが、誰もその本人を見たことはない。秘蔵っ子だそうだ。もちろん外見の特徴やその他の情報すら徹底的に隠されていて彼女に関する事柄は、一切出回っていない。

 少しだけ興味はあるが、これもあくまで興味本位と言ったところ。どんな人物なのだろう。

 まあ、あえて学院で関わることはないだろう。


 ――どうせ令嬢は皆同じ、顔か爵位か。

 それしか気にしていないのだろう。だが、そうか。あの公爵には他に子供はいない。今のところ養女の彼女だけとなると、次期女公爵となるわけだ。近い将来自分とも関わることもあるだろうが、どうか常識を兼ね備えた普通の令嬢でありますようにと願うばかりだな。


午前中の授業を終え、食堂に向かう途中……人を壁に追い込んでいるネロを発見した。

 その姿があまりに珍しくて思わず観察していると、なんと追い込まれていたのは初めて見る女生徒の姿。


 「……あのネロが女の子を…?」


 モテてはいても本人は興味がないのか、女っ気がゼロに等しい。幼馴染のネロが人気のないとはいえ、校舎内でしかも廊下で。女生徒を壁に追い込んでいるではないか。驚いた。


「あのネロが気にする女生徒ってどんな子なんだろう?」


 普段見ない彼の姿に思わず好奇心が擽られてしまう。

 まさかネロが人目を気にせずに女生徒に言い寄っているなんて、レアすぎる。そう思って気配を消しこっそり歩み寄ったらイチャイチャしているような雰囲気ではなくて明らかに女生徒を問い詰めている。相手の女生徒は怯えているようにも見えるが、あの感じは……多分、全力でドン引いてる、よな…。

 

どこの令嬢だろうと、目を凝らして見てもどこの誰かまでは分からなかった。ただ、自分とさほど年齢は変わらないだろう見た目と、驚いたのはその髪色。桃色がかったホワイトブロンドで肌は透き通るほど白い。横顔しか見れていないけど、目は大きくて鼻も高い。色素は全体的に薄いので、何とも人間離れした洗練された美貌を持つ女生徒。綺麗や可愛い、なんて言葉が陳腐に聞こえるほどの美貌、ああいう子ならきっと男子生徒の間では取り合いになるか少なくとも話題に上がっていてもおかしくないんだけどな。ないってことは、見た目通りってことかな。


 いやいや、違うか。それよりもネロが暴走しているだけなら、止めなくては。

 更に近寄るためにこっそり背後に立ち、会話に耳をすませてみればネロから一方的に、なぜそんなに魔力量が多いのか、なのになんで魔力無しと言われる姿をしているのか、と。

へえ…この子、この髪色で魔力量が高いのか。そりゃあネロからしてみれば研究対象だよなあ…。


そんなネロにも負けじと彼女も必死に言い返してはいるが、あの状態のネロには勝てるはずもないだろう。

 

 だが、これはまずいな。外見のことは本人が一番気にしているだろうに。女生徒が可哀そうになって思わず声を掛け、驚いてる隙にネロの首根っこを掴み、持ち上げる。

 本当にお前は何をやっているんだ!と説教していると反対側から駆け寄ってきたのは王族でありながらも俺と同じく早くに騎士団に在籍している後輩、リュス第二王殿下。


  彼の姿を見つけたからか、先ほどまで震えていた女生徒は、第二王子の名を半泣きになりがら叫び、物凄い勢いで怒りをぶつけてきた。


『リュ、リュス様ああああ!この方こわいです!いきなり質問攻めされてその見た目は偽物なのか、なんて言って詰め寄ってこられましたの!産まれたままの姿ですのに失礼しちゃうわ!!なんでって聞かれたってそんなのまさに神のみぞ知るってやつではなくて?!』


 なんて言いながら、ぷりぷり怒ってる姿も、頬を膨らませている姿も、見た目のこと言われても神に聞けよと怒っている姿も、全部から目が離せなくなった。

 言っていることは最もだ。見た目のことに対して文句を言われても、俺含めて誰も自分がなぜその容姿で産まれてきたのか分からない。それこそ、彼女の言うように”神のみぞ知る”事柄だ。


 真剣に怒っているのは伝わっているが、あまり怒り慣れていないのだろうと伝わってきて俺の目は釘付けだ。触れたら折れてしまいそうなほど細い腕、身長はそこまで小さくはないが俺と並んだら二十センチほどの差があるだろう。華奢にも見えるが女性らしい部分はしっかりと大きく、それでいてしなやかな体のライン。おそらくここまでの美貌を持つものはあまりいないだろう。

なによりあの大人しそうな見た目と中身のギャップっていうのかな。なんか全部がツボだった。


(あ――……かわいい、かも)


 そう、女の子なんてみんな同じだ。なんて思ってて適当にあしらってきたのに。でもそうだな、まだ全然知らないけど、彼女みたいな子なら面白いかもしれない、なんて少し思っただけ。


 ネロに対しても、もっと怒っていいはずなのに謝ったら許さない!なんて言いながらもしっかりとしたお咎めはなしなようだ。会話の流れで知れた彼女の情報は、なんと彼女があの噂の公爵令嬢だったということ。そうか、彼女が。いいね、面白いそうだ。

  

とりあえず知り合いになるところからだろうか。では、手始めに自己紹介だけしてその日は終わり。

 放課後の魔法試合も見に行ってみよう、なんて考えていたけれど午後の授業中に騎士団長からの招集が掛かってしまい、仕方なくその日は任務に出ることになってしまった。惜しい。


 惜しい気持ちでいっぱいになっていたからだろう。任務中も、ローレル嬢のことで頭がいっぱいだった。なんでこんなにも気になるのだろう、不思議な子だったな。公爵令嬢だから、見た目からしても品はあるし、所作も問題ない。ほんわかとした雰囲気を纏っていながらも話している感じは底抜けに明るく。それにあの短時間だったけど彼女は俺にも、ネロにも、何より第二王子にも色目を使わなかった。それだけでも、正直、十分好印象なのだけれど。


「…もっと話してみたいなあ」


思わず、誰にも聞こえないように、ぼそりと独り言ちる。



 任務を終え、王宮に報告に行く途中で父親でもある騎士団長にローレル嬢のことを聞いてみたが、やはり詳しくは知らないとのことだった。俺が女性のことを気にしているのが面白かったのか、それとも婚約を全て蹴っているからか、気になるのなら婚約でも申し込んでやろうか、なんて言い出した。

 いや待てそこまでではない、そう。そこまでではないのだよ。きっと。気になっているだけで、面白そうだなあって思っているだけで。慌ててそう言い訳めいたことを言うと、何やら思うことがあったのか、盛大にため息を吐かれてしまった。


 いいんだよ俺のことは。兄さんがいるし、もう少しで結婚するって言うしすでに公爵家での仕事はほぼ引き継がれて公爵家は安泰なんだ。俺は騎士団に所属していることもあるし、いつ死ぬかも分からないような仕事なんだから、最悪結婚なんてしなくてもいいと思っている。

 父さんも兄さんもそれはダメだって言うけど、できる気がしないのも確かなんだ。


 そんな話をしているうちに王宮に到着し、侍従の案内を受けながら謁見の間に入る。そこには陛下と宰相、珍しく王妃様もいて報告と共に何やら話もあるという。


 一体どんな厄介ごとを頼まれるのか、なんて身構えているとここ数百年はなかった『予言』があったという。なんだそれ、が正直な感想だったが国をも揺るがすかもしれない予言を重くみた陛下達から予言に出てきた俺含む被害に合うだろう該当者に魔道具を渡すので常に身に着けてほしいと。

 そして俺は来年で学院を卒業したと同時に騎士団長になる話が出ているが、当然自体が落ち着くまでは現騎士団長である父さんも気を抜かぬよう伝えられた。


  それから、魔道具はなんとローレル公爵領で運営している魔道具研究所が至急用意し、送られると聞いて何となく彼女の顔が浮かんだ。


 最後に王妃様と陛下からは個人的に騎士団に依頼が出されれことになったのだが、その内容は現在中等部一年生のニコール王女とローレル嬢を常に護衛してほしいとのことだった。まさか彼女と思わぬところで接点ができたことに少しだけ浮かれたのは言うまでもない。




 


アーサー視点、まだあと1話続きます。

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