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「ちゃんと来たわね!逃げたらどうしようかと思いましたわ!」
「あら、そんなことする必要ありませんもの。さて、この後、用がございますの。さっさと終わらせましょう?」
あ、別に煽ってるわけじゃないです。はい。決して。
ただ鍛錬場は闘技場のような作りになっているので、もちろん観覧席があります。
なんと噂を聞きつけた生徒、教師までもが集まっていて人の多さに驚く方が先にきただけです、ええ。
「余裕ぶっているようだからもういいのではなくて?三人まとめていきましょうか、いいわね?」
そう言って一歩後ろにいる取り巻き達に一言いうと、何やら三人で詠唱し出した。
(えっ…魔法って詠唱必要なの?)
『詠唱しなくていいのは王家の血筋とそれに連なる僅かな人だけよ』
『お前は契約があるからな』
(なるほどーーー!それにしても詠唱って長いですね?あんなに長い呪文覚えられないので無詠唱でよかったああ)
「覚悟なさいっ!」
勢いよく放たれた風の魔法と火の魔法の連携技。
勢いも、火力も悪く無いわね。でも、
「そんなんじゃダメよ。私をボロボロにはできなくてよ?」
そう答えてあげて、パチンと指を鳴らす。
その音と共にこちらに向かってきていたはずの火と風は一瞬で消えた。
「…は?」
「え…?」
「…っっ」
どこからともなく、ひゅと息を吸う音がした。
観覧席の生徒も先生もザワザワしてる。
魔法を無効化させて、チラリと彼女達を見ると明らかに何が起きたか理解できていないようだった。
だからしっかり勉強していればよかったのに。
魔力量が多いってことだけに甘えているから、その実力を活かせないのよ…。
「はあ…では私からも攻撃しますわよ?」
なんか可哀想になってきて思わず、いくよー!なんて声を掛けてしまいそうになる。ははは…まあこれもレッド様から言われたことなのである。
「丁度良いからさ、見せしめにしようよ。その三人。そうしたら下手にラナに手を出すような馬鹿者は出てこないだろう」
それには賛成しました。でもこれでまた私の穏やかで平穏な学院生活からは遠ざかるわね…。
ふう…さあて、全力で行きますか。
「あっ、とその前に…」
彼女達が本当に死なないように防御結界で三人を包む。
これで私が全力で攻撃しても問題なさそうね。
ふむ…まずは水魔法からいきますか。
先ほどと同じように念じながら指を鳴らすと水で龍の作り三人を目掛けて襲わせる。
「ヒッッ」
「なっっ!?」
「きゃあああっ」
あーあー騒いじゃって。うるさいなあ。でもよーく考えたらさー私が本当に魔力無かったらさっきの攻撃で死んでたよねーーってことで闇と光以外の魔法を全て使い、全力の攻撃を仕掛ける。もちろん、彼女達には当たらない。
「そういえば観覧席が妙に静かね?」
ふと見上げるようにして、観覧席に目を向けるとそこにいた人達みんな何が起きているのか分かっていない感じだった。ま、そうだよねーー色無しで色素薄いですもんね?私。こんな攻撃できるわけないと思ってて当然だし一発目で倒れるだろうって思ってただろうし?
「ねえ、ダラン侯爵令嬢?もう良いのではなくて?そろそろ分かったでしょう?」
「…ヒッッ…は、はい…も、申し訳ございませんでした…」
その他二名も床に座り込んだまま、涙ながらに謝罪してくれた。うんうん、分かればいいのよ。分かれば。
「いいですか?貴方達。私のように外見の色が薄くてもこれだけの魔法を使える者もいます。外見が全て出ないことはお分かり頂けたと思います。それに!今は私が防御結界を張っていた状態で攻撃受けましたのでケガ一つしていません。が、これが他の方だった場合はどうなるのか考えたことがありますか?風魔法と火魔法の合技は素晴らしいです、それをもっと違うところで活かしてくださいませ。勿体ないですわ」
もう言葉も出ないようで、必死にコクコク頷いている。
「まあ当然、公爵令嬢たる私にあの態度を取られたことについてはしっかりと抗議文を送りますね。きつい罰は与えるなと付け加えるつもりですが、存分に反省なさって下さい。それから、後日私のお願いについてもお話しますから呼んだらきてください。いいですね?」
「はい…!」
「あ、あの…私達も、でしょうか…?」
「当たり前にあなた方もよ」
バサリと切り捨てるようにして、言い放つとがっくり肩を落として去っていった。少し容赦なくやり過ぎたかしら…?まあでもこうでもしないとこの会場にいる生徒方や先生方も何かしらしてくる可能性は大いにありましたからね。今日のこれで大人しくしててくれさえすれば、私はもう何も言うことはございませんの。さて、予想よりも早く終わりましたのでこれから殿下方と王宮に向かわねばなりませんね…。お父様もお待ちですし、おそらく陛下や王妃様、上王妃陛下もくるでしょう。
今回の話し合いの主となる話題は今朝私が話した夢のこと。おそらくこれは『精霊の加護による予言』として扱われることでしょう。"誰が"とは公表されないでしょうが、私のことだとバレないように今以上に気を付けなければいけませんね。気合を入れましょう。
「さあ、お集まりの皆様もご満足いただけましたかしら?」
ニッコリと微笑んで観覧席を見渡せば、静まり返っていた会場からワッと歓声が上がりどこからともなく拍手の音が鳴り響いた。おおう…これはまさしくスタンディング・オベーションですね。本当に調子の良い方達ですのね…。まったく…。
「これにて試合終了です。皆様、お気を付けてお帰りくださいませ」
お祖母様に教わった通りにとびきり麗しく微笑みカテーシーを披露する。自分を貶めるだろうと、こんなよく分からない試合のために大切な時間を使って集まっていただいたことや拍手に対して礼をするように。
◇
レッド第一王子視点
産まれは伯爵家であろうと今の彼女は王家の縁戚でもあり国内随一を誇る名家でもあるローレル公爵家の一人娘。
行儀見習いなど必要ない、最高のガヴァネスがいるのだから。親族に愛され、精霊にも愛される私の幼馴染。
恋愛関係に発展することを望んでいたであろう母上には申し訳ないけれど、彼女との結婚は荷が重すぎるよ。
下手に傷付けて泣かせてしまったら、精霊王の怒りは必須。もちろん親戚であるローレル公爵家からは見放されるだけではすまないだろうね。いやぁ、本当ラナが僕との婚約を断ってくれてよかった。
優秀な彼女と自分を比べて卑屈になることもなく、むしろ彼女と切磋琢磨して自分の能力も向上した、これはいい結果だったな。
何でも一生懸命に頑張る彼女とそれに負けたくないと思った僕達三人の兄弟は間違いなく彼女といることで成長した。
まだ幼い頃、彼女に『王族だからと調子に乗らないで』と怒られたことがある。簡単に言えばこんな感じだったかな?いやこれはこれで直接言われたことあるな?
何でも許されてきた僕達は、彼女と出会ってからは何度も先触れも出さずに遊びに行っていた。勉強から逃げるためだけに公爵邸に行っていたのだ。そんな僕たちに唯一自分のやりたいことを突き通した。そんな彼女に対して、相手をしてくれなかったことを怒った僕たちは本当に愚かそのものだった。それを見ていた怒り狂った彼女が烈火のごとく、いやそれはもう捲し立てる勢いで苦言を呈してきて、正直勢いに押されて怖かった記憶がある。
『お言葉ですが。なぜ、自分の時間なのに招待もしてない貴方達の相手をしなきゃいけないの?相手して欲しいならまずは先触れを出すとかマナーを守るべきではなくて?相手を尊重しないのに自分は尊重されたいの?横暴で傲慢な王族になりたいの?王族だったらマナーを守らなくてもいいわけ?王族だからこそ下々のためにマナーを守って手本になった方がいいのではなくて?誰よりも優遇されているのだから死ぬ気で勉強するとかしてくれないと仕えている臣下達は貴方達の為に、なんて動いてくれないわよ。まあ、利用されるだけされて傀儡になりたいのならそのままでいいのかもしれませんが…』
って説教されて、私もリュスも、レイラもあの時ほど悔しかったことは無いと思う。分かっていたはずなのに分かっていなかったのだろうね。でも人一倍努力をしてきた彼女に言われたからこそ、私達も受け入れられたのだろう。
それからの日々は、勉強勉強体力作り魔力訓練勉強勉強とこんな感じで四人で補い合うようにしてやってきた。
それらの努力も彼女のことも何一つ知らずに、いや知ろうともしないで外見だけで人を判断することがどれだけ愚かなことなのかを証明したも同然。
野次なんて飛ばせるものなんかいないよな、ああ本当に君といると面白いことだらけだよ、ラナ。
「さ、私達も行こうか」
◇
殿下方が客席を立つのが見えて、コソッとこれから移動する場所で合流よ、とミリィが言ってたので私もそこに向かわなければ。
(ミリィ、案内をお願いできる?)
『まかせて』
すみませんが、諸事情により土日の更新ができません…!
月曜日以降の更新となります。




