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三人を見送って、ソファーに座り直してダラァとしながら、天井を見上げるといつもの天井じゃないからか、少し違和感。それにさっきまでみんながいて騒がしかったこの部屋に今はメリーと私だけ。

 メリーはお風呂の準備をしてくれているので、ここにいるのは私だけ。ああ…なんだろう…なんだかほんの少しだけ、


「さみしいなあ…」


 そのまま視界がぼやけて行くような…だめね…寝てしまいそうだわ。メリーを待っていないといけないのに…。




 


 ◇





ん、?ここはどこ…?


辺りを見渡すとそこは自分の部屋。

大学を卒業して、必死に貯めたお金でようやくできた一人暮らし。1LDKでペット可の物件、私の大事なお城。


 好きなものだけを集めてできた部屋は、とても居心地の良い空間で基本的に在宅でシナリオライターとして仕事をしていたから若干引きこもり気味だった。

 それでも平気だった何より大好きだったから、恋愛小説と漫画とアニメを好きなだけ堪能できるこの環境が。



懐かしい。



なぜだかそう思った。

ふと、とある小説の物語のことを思い出した、アレは確か…。


 思いだそうとすればするほど、どんどん頭が重くなっていくような…


変な感じ。



 ああ。思い出したあの小説の物語を。結末が残念すぎて、気に入らなかったのよ。

 

確か、始まりはどこにでもある悪役令嬢モノで死に戻りして悪戦苦闘しながらも断罪されないために頑張る一人の女の子の物語だったわね。


 

 悪役令嬢が婚約者の王子に処刑を言い渡されて命に従ったであろう騎士団長であるアーサー・グラン・アヴェールに首を切られて処刑されてしまう。彼女は何もしていないのに。そう、胸糞ポイント一個目は悪役令嬢はヒロインに何もしていないってところ。そもそも浮気した王子が悪いのにヒロインの言い分だけを信じて人一人を殺す。あまりにも可哀想で私は号泣したことを覚えてる。


 それでも生きることを諦めなかった悪役令嬢は記憶を持ったまま死に戻るのだけど、頑張っている最中に彼女は馬車に轢かれて呆気なく死んでしまう。


 どこまでもヒロインに花を持たせたいだけの内容、これは胸糞ポイント二個目。

 

 彼女が死に戻り、奮闘している姿を見ていつの間にか心を奪われた騎士団長と魔法の才能がピカイチだったが、魔力量が無いに等しい彼女では再現できないものを可能とするために手伝っていた魔術師も初めは疑わしかったようだけど、一緒にいればいるほど、彼女に惹かれてしまっていた。

 

 とある日、幼い頃から結ばれていた王子と婚約が王族側の過失により白紙撤回となり騎士団長と魔術師は悪役令嬢を掛けて一騎打ちに挑む。

 両者は、国内一位を争う実力の持ち主であるがために結果はすぐには出なかった。何度も何度も繰り返されていくうちに、徐々に魔術師側に押されていき、結果が出たと思った矢先に彼らの元に届けられたのは、悪役令嬢の訃報。

 

 そこから待っていましたとばかりに登場したのは、絶望した彼らを慰め、傷を癒すヒロイン。

 長い時間を掛けて彼らは、癒し続けてくれたヒロインに徐々に惹かれていく男達。この時すでに王子や、宰相の息子、王家の遠縁で家格がそれなりに高い伯爵子息、学園の先生などの攻略対象を攻略し終えたヒロインが最後にどうしても攻略したかったのは、何をしても自分に靡かなかった騎士団長と魔術師だったのだ。

  そう、ラストでは逆ハーエンドを攻略し終えたヒロインが全てを明かした時、衝撃の事実が判明することになる。

 

 悪役令嬢が馬車の事故で亡くなったこと、これまで悪役令嬢にされたと証言していたことの全ては自分が仕組んだことなのだ、と。

 

 それを聞いた攻略対象達は初めは信じていなかったけれど、ヒロインは構わずどんどんと証拠を提示していく。

 

 純粋で明るく誰にでも優しく愛らしい外見をした、本当の悪役が誰なのかを理解した時、攻略対象者達の脳裏に浮かんだのは呆気なく死んでしまった一人の女の子のこと。


 政略結婚だろうと自分のために色々と努力をし大事にしなければいけなかった元婚約者のこと、

魔力が少なく見た目の色が薄いことで蔑まれ続けても努力することをやめなかったたった一人の妹のこと、

 幼い頃から自分の主人と婚約し勤勉だった幼馴染のこと、

 計算が苦手なのだと言って授業の後恥ずかしそうにしながらもノートを開き自分に質問しにきた生徒のこと、

 誰よりも愛し大切にしたい守りたくて傍にいたいと願った彼女のこと、

 一緒に新しいものを作り出す時間が何よりも楽しくて偏屈で暗くてどうしようもなかった自分を唯一そのままで十分素敵なのだと笑ってくれた彼女のこと、

 

 後悔、未練、絶望、怒り、悲しみ、どの感情が正解なのかも理解できないまま呆然とする攻略対象達を見下し、嘲笑われる。


 そう、この物語の中のヒロインは、この世界で生きている人間のことをあくまでゲームのキャラクターとしか見ていなかった。好きだったゲームの攻略したかった対象者達。本当は自分が死んでいて転生したことにも気が付かず、ただ長い長い夢を見ているのだと思い込み、攻略していたのだ。

 彼らに心が、感情があるのだとも考えもせずに。


 ヒロインの高笑いで締め括られたその小説を読み終えた後の胸糞感といったら…。衝撃すぎて、死んだ悪役令嬢が可哀想すぎて結構長い間引きずったのを覚えてる。


 本のタイトルまでは覚えていないけど、あの物語の悪役令嬢『ニーナ・ラナ・ガートナー』には幸せになって欲しかったな。


そこで誰もいないはずの部屋に複数の人間の声が微かに聞こえてきた。


「…!ーナ様っ!」


誰だろう?呼ばれている気がする。

誰なの?ここは私のお城なのに、誰かいるの?


 

「ラナ!ねぇ!ラナってば起きて!」


 

『もう、ニーナってば居眠りがすぎるわよ?早く起きましょうね』



 意識が引きずられていくような感覚。

 なんだろう、ここにいちゃだめだよって言われているような…

 やだな、まだここにいたかった。せっかく手に入れた幸せだったのに。


 

『お前の生きている世界はもうそこじゃない、起きろ』


 

 そんな意地悪言うのはだぁれ?

 だってここは私のお城よ。この声もどこからするんだろう。

 もしかして、夢?




「…ニーナ、起きて」



視界が歪んでいく。真っ暗な闇の中で、一つの光。

 あれは何かしら?

 追いかけてみようかな。



 暗く、長いその道のりの先にある、たった一つの光に手を伸ばしたその瞬間――

 

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