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トルケ・ジョーン・カリア  作者: 藤原小次郎
学校と戦い
13/34

第6回 カタート

 アブストラクト派の絵画の横で時計(とけい)(きざ)む音が(ひび)く。チクタクというリズムは、この世界に時空を(こお)らせるような停止系魔法など存在しないと()げているようだ。


 しかし――


 教務主任室(きょうむしゅにんしつ)相対(あいたい)する二人は、まるで彫刻(ちょうこく)のように動かない。(たが)いの(ひとみ)見据(みす)え、沈黙(ちんもく)が続いていた。話が核心(かくしん)()れればすぐに済むはずの手続きが、一点で膠着(こうちゃく)している理由はただ一つ。


 トルク・ジョウン・カリア――この問題児(もんだいじ)年齢(ねんれい)(いつわ)り続けているからだ。


(なぜ素直(すなお)に答えられない? 尋問(じんもん)じゃあるまいし)


 教務主任(きょうとしゅにん)(ひたい)青筋(あおすじ)()かぶ。それでも彼は怒声(どけい)()(ころ)した。この少女はあの「銀刃(ぎんじん)」の弟子(でし)、しかもジェグナート陛下直々(じきじき)の推薦枠(すいせんわく)で入学してきた特別待遇生(とくべつたいぐうせい)なのだ。


年齢(ねんれい)は?」


 30分前から()り返す質問(しつもん)に、銀色(ぎんいろ)前髪(まえがみ)()れた。


最終推定値(さいしゅうすいていち)で314億年(おくねん)


本気(ほんき)で言ってるのか? まともに答えろ、カリア君」


「前の138億年(おくねん)加算(かさん)すれば452億年(おくねん)と15(さい)……まあ大体(だいたい)そんなところ」


 ガシャン! (つくえ)(たた)きつけて教務主任が立ち上がる。漆黒(しっこく)のローブが怒気(どき)(ふる)えた。


冗談(じょうだん)一度(いちど)結構(けっこう)だ! これは正式(せいしき)書類作成(しょるいさくせい)だぞ! 銀刃(ぎんじん)弟子(でし)たる自覚(じかく)はないのか!?」


 (とどろ)(こえ)重厚(じゅうこう)(かし)(とびら)(ふる)わせた。廊下(ろうか)待機(たいき)していたブレイドが()び上がるほどだった。


(まさか《威圧(いあつ)》の魔法まで……)


 教務主任秘伝(ひでん)精神攻撃(せいしんこうげき)。レベル()がある相手(あいて)なら確実(かくじつ)屈服(くっぷく)させる(わざ)だ。


 しかし紫水晶(むらさきすいしょう)(ひとみ)微動(びどう)だにしない。虚飾(きょしょく)のない真顔(まがお)に、主任(しゅにん)(ぎゃく)冷静(れいせい)さを取り(とりもど)した。


最近(さいきん)若者(わかもの)設定(せってい)()るらしいが……452億年(おくねん)とは()()ぎる)


 諦観(ていかん)したようにペンを(にぎ)(なお)す。年齢欄(ねんれいらん)に「15(さい)」、職業欄(しょくぎょうらん)には「魔剣士(まけんし)」と記入(きにゅう)する。


外見(がいけん)に合わせるのが最善策(さいぜんさく)だ。銀刃(ぎんじん)弟子(でし)平穏(へいおん)学園生活(がくえんせいかつ)(おく)れるよう)


 魔剣士(まけんし)という選択(せんたく)にも(ふか)意味(いみ)はない。ありふれた職業(しょくぎょう)であれば目立(めだ)たない――入学式(にゅうがくしき)披露(ひろう)した剣技(けんぎ)は、(たし)かに火級(かきゅう)冒険者(ぼうけんしゃ)()みの実力(じつりょく)だった。


「……外出許可(がいしゅつきょか)()しておく。武闘試験(ぶとうしけん)申請(しんせい)受理(じゅり)した」


 ため(いき)まじりに書類(しょるい)押印(おういん)する教務主任(きょうとしゅにん)横顔(よこがお)に、カリアは丁寧(ていねい)にお辞儀(じぎ)をした。


 (とびら)()けると、()ちくたびれたブレイドが()びついてくる。


大丈夫(だいじょうぶ)だった? 怒鳴(どな)(ごえ)廊下(ろうか)まで()こえてたわ」


問題(もんだい)ない。ただの設定説明(せっていせつめい)よ」


 カリアが(にぎ)(つえ)先端(せんたん)魔法水晶(まほうすいしょう)陽光(ようこう)反射(はんしゃ)して(きら)めく。純度(じゅんど)(たか)さを(しめ)虹色(にじいろ)(かがや)きだ。


 二人(ふたり)足跡(あしあと)大理石(だいりせき)廊下(ろうか)(ひび)く。授業中(じゅぎょうちゅう)校舎(こうしゃ)静寂(せいじゃく)(つつ)まれていた。


「でも何故(なぜ)(わたし)同行(どうこう)するの? カリア一人(ひとり)充分(じゅうぶん)じゃない」


 ブレイドの()()けに、カリアは悪戯(いたずら)っぽく微笑(ほほえ)んだ。


迷子(まいご)子羊(こひつじ)護送(ごそう)する騎士(きし)がいないと、門衛(もんえい)さんが(とお)してくれないのよ」


 本当(ほんとう)理由(りゆう)(べつ)にある。五千年前(ごせんねんまえ)()った《黒歴史設定集(くろれきしせっていしゅう)》の行方(ゆくえ)――武闘試験(ぶとうしけん)自由行動権(じゆうこうどうけん)利用(りよう)すれば、探索(たんさく)容易(ようい)だ。


 目的地(もくてきち)転送水晶(てんそうすいしょう)まで辿(たど)()くまでに、三度(さんど)(みち)(まよ)った挙句(あげく)(あやま)って地下迷宮区(ちかめいきゅうく)侵入(しんにゅう)しかけるハプニングまであった。


「ギャァァ! あれ骸骨兵(がいこつへい)!?」


(ちが)うわブレイド。ただの装飾鎧(そうしょくよろい)よ」


 衛兵(えいへい)(たす)けられながら到着(とうちゃく)した転送広場(てんそうひろば)では、七色(なないろ)魔法門(まほうもん)荘厳(そうごん)(かがや)きを(はな)っていた。


 (しろ)(だいだい)(みどり)(あお)(むらさき)(くろ)(ぎん)――各色(かくしょく)動力結晶(どうりょくけっしょう)()()六芒星(ろくぼうせい)(じん)中央(ちゅうおう)逆三角形(さかさんかくけい)水晶(すいしょう)魔力(まりょく)脈動(みゃくどう)させている。


()くわよ」


 カリアが右手(みぎて)(かざ)すと、黄金色(こがねいろ)粒子(りゅうし)奔流(ほんりゅう)のように水晶(すいしょう)()()まれた。


 次の瞬間(しゅんかん)二人(ふたり)騒音(そうおん)活気(かっき)()ちた異世界(いせかい)市場(いちば)()っていた。


冒険者(ぼうけんしゃ)ギルドは下城区(したじょうく)にあるって衛兵(えいへい)さんが(おし)えてくれたわ。でも……」


 ブレイドが不安(ふあん)げに(そで)()く。路地裏(ろじうら)から(ただよ)鉄臭(てつくさ)空気(くうき)看板(かんばん)文字(もじ)不気味(ぶきみ)(ゆが)んで()える。


大丈夫(だいじょうぶ)(わたし)たちの相手(あいて)は――」


 カリアの足音(あしおと)酒場(さかば)(とびら)蹴散(けち)らした。ざわめきが()み、無数の視線(しせん)少女(しょうじょ)たちを()す。


 バーの(おく)でグラスを(みが)いていた(おとこ)がゆっくり(かお)を上げた。傷痕(きずあと)だらけの(ほお)猛禽類(もうきんるい)のような眼光(がんこう)。彼こそが下城区(したじょうく)暗黙(あんもく)支配者(しはいしゃ)、ギルドマスターのカタートだ。


果汁(かじゅう)二杯(にはい)、つけで」


 カリアが高飛車(たかびしゃ)注文(ちゅうもん)する。カタートの(まゆ)(かす)かに(うご)いた。


(この小娘(こむすめ)……)


 深淵(しんえん)(のぞ)()むような錯覚(さっかく)(おそ)われる。あの伝説(でんせつ)冒険者(ぼうけんしゃ)銀刃(ぎんじん)対峙(たいじ)した(とき)と同じ戦慄(せんりつ)脊髄(せきずい)()()ける。


「お(まえ)……」


 カタートの(のど)から()れた(こえ)に、酒場(さかば)全体(ぜんたい)緊張(きんちょう)()()めた。(だれ)もが()っている。この(おとこ)本気(ほんき)()せば、(まち)一つ壊滅(かいめつ)させられることを。


 しかしカリアは(すず)しい(かお)椅子(いす)腰掛(こしか)けた。魔法水晶(まほうすいしょう)不気味(ぶきみ)(かがや)きを()している。


面白(おもしろ)い……)


 カタートの口元(くちもと)(ゆが)む。(なが)冒険者生活(ぼうけんしゃせいかつ)(はじ)めて、本物(ほんもの)の「何か」と対面(たいめん)した()がした。】

1日12時間働き、休みの日は残業もします。 やりたいことをやる時間がないんですよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



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