転生したら白雪姫の小人になってしまいました!
突然ですが、わたし、転生したら小人になってしまいました。
近流行りの小説では愛され悪役令嬢やチート貴族に生まれ変わることが多いけれど。世の中そんなに甘くないのは、わたし自身よく知っている。
なんてたって、ストーカーに殺されるような理不尽な死に方をしているから。
この世界の神様は、少しは同情してくれたってよいのに。転生のときに有無を言わせね笑顔で一方的放りだされてしまった。
なんだか考えると腹がたってきた。
それでも救いがあったのは、小人仲間が六人いたことだ。
それぞれ先生、眠り屋、恥ずかしがり屋、のんびり屋、おとぼけ屋、くしゃみの名前のついた小人たちである。
ここまで言ったらたぶん誰でも気づくだろう。わたしは白雪姫の七人の小人の一人、おこりんぼに生まれ変わってしまったのだ。小人たちは皆それぞれ転生者で、本名は明かしたくないらしい。いつしか定着したニックネームは、ほぼ名前と化していた。
皆それぞれ思い出したくない過去もあるのだろう。
それでも彼らは皆働き者だった。わたしもつられて、慣れない仕事を頑張らざるを得なかった。でも失敗ばかりで、だから仕事中に怒ってばかりのおこりんぼ。
小人生活は案外楽しかった。仕事は嫌いだけど。なかでものんびり屋とたまの休みにのんびりするのが好きだった。
のんびり屋とは妙に気があった。のんびり屋はわたしが怒っても、笑って許してくれる。
「おこりんぼは、ツンデレだな」なんて言ってへにゃりっと笑うのだ。その笑顔にきゅんっとしたわたしは、照れを隠すために「からかわないでよ」と、また怒る。堂々巡り。
でも、結局、わたしのペースというよりも、のんびり屋のペースにのせられている気がする。
そんな小人生活を満喫しつつあるわたしだが、小人たち全体としての問題があった。それは白雪姫をどうするかということだ。
「まだ、白雪姫はわたしたちの前に現れてが、実際に彼女が現れたら危険をおかしてまで匿うのか」
と先生が言った。
「匿ったとして毒リンゴを食べされられるこを見過ごすのでしか」とは眠り屋。
「そんな。良心が痛むことできないよ」
と恥ずかしがり屋。
「だけれど、王子のキスで白雪姫は目を覚ますはず」
とのんびり屋。続けておとぼけ屋が、
「結局助かるのなら、大丈夫なのではないのかな」
と言って、場が一瞬静まりかえる。くしゅんっとそこにすかさず、くしゃみがくしゃみをして、先生がやれやれといった具合に肩をすくめた。
「いや、しかし、本当に目覚めるとも限らない」
「だったらどうしろって!」とわたしは声を荒らげた。わたしを含めた全員が、もしもの時を考えて最善を探っていた。
埒が明かないので、結局議論はそこで終わる。みんなその時になってみないとわからない、というのが正直なところだった。
だけれど、待てど暮らせど、白雪姫は現れない。
でも、なぜか継母は現れた。尖った鼻にしわがれ声。わたしたちの住まいのドアを叩いたのは白雪姫ではなく、継母だった。
困ったことに、六人の小人たちは出払っていて、わたしだけが留守番に残っていたそのタイミングで。
居留守を使おうかと思ったが、夕食の準備中だったため、煙突からは煙があがっている。それを誤魔化すのは至難の技だ。
ここは丁寧に事情を説明してお帰り願おう。
そう思って、扉を開けた瞬間、口の中にりんごを突っ込まれた。しまった、と思ったがもう遅い。意識が遠のき、わたしはその後の記憶を覚えていない。
愛する者のキスで魔法が解けるというけれど、これはいったいどういうことだろう。
目覚めると目の前には、柔らかそうな茶色の髪に黒い瞳に涙をためこんだ整った顔があった。それはまるで王子様のようで、わたしはびっくりして飛び起きた。その拍子に頭と頭がぶつかって、「痛いなぁ、おこりんぼ」と微笑む彼。その笑顔は、のんびり屋のそれ。
よくよく、みればわたしの姿も前世のそれへと変わってた。長い黒髪のそれに。
「驚かせる方が悪い!」
怒ってみせても、のんびり屋はいつものように返すだろう。
「おこりんぼは、ツンデレだな」
ほらね!




