月のモナリザと星の涙
pihpiiipifapaupifepiif(※)に分かたれし四道アリ
一つは古道、古き主の真の命題の為全てを捧げるモノ也
二つは求道、眷属の魂に掛けられた呪詛を退け失われし力の復活を追い求めるモノ也
三つは養道、最早使い物にならぬ小灰を見限り新たなる蝕材を養い上げるモノ也
四つは…
アポロ20号回収の金属板刻印解析レポートより抜粋
※ 支配者と想定される、詳細はプロジェクトセルポ尋問評価参照
その不死の女は何処から現れその星の原住民と共にあった。
原住民より一回り小柄な背丈、ぬばたまの如き髪、豊穣なる肢体、額に彼らの持ちえぬ小さき第三の眼、典型的北方人種型の原住民の中で異彩を放つ切長の目。
不死の女は数々の神秘を携え自然体で原住民と交流し軈て祭り上げられた。
永らく平和であったその星に招かれざる来訪者が訪れる。
爬虫類の様なその威容で遭遇した民を食い散らかし我らは支配するものと嘯いた。
戦いは長引いたが民は良く戦い一度は惑星内から一掃するも奴等は諦めなかった。
奴等は二つの衛星の内一つ煌月の軌道を変えつつ砕き散らし大規模隕石雨を引き起こしたのだ。
ドメイン軍を一度は殲滅し得たソレ。
大深度に敷設された実験段階の恐るべき魔 子 炉を破砕すべく敢行された大規模隕石雨による地殻津波とそれによる魔子暴走の果てに引き起こされた次元雪崩が星の消滅をもたらす。
なす術もなく惑星が下位次元にジワジワ押し流される凄絶な光景を隠れ蓑に艤装半ばのリング状積層移民艦で故郷を去る生き残りし者たち。
新天地を求めて彷徨う民たちの中に古い言い伝えを守り伝えて来た者たちがいた。
嘗て魔子に頼り切る事を良しとしない者たちが星々の渦の外側に魔子を持たぬ蒼き星を見出したと言う。
魔子炉暴走により星を失った民たちはその地に希望を託し決断を下す。
蒼き星へ!
か細い銀河フィラメントを伝いドメインの追撃を躱し艦内に何度か侵入を許しつつも不死の女の力によってこれを退け遂に彼の地の内惑星系、赤き星近くまで到達し、そこを墓標とした。
そう、蒼き星の星系はドメインの支配下に置かれていたのだ。
例え艤装半ばといえど彼らには解析不能な魔子炉を搭載しあらゆる出力で優るその船は星系内の敵全戦力と互角以上に戦える筈であった。
だが…
全方位から迫り来る巨大天柱型戦宙艦の数々を前にし艦内で叛乱が起こった。
旅の最中起こった幾度かの艦内戦闘の際民の中に紛れ込んでいた、かの者のなりすましと元から存在した魔子拒絶原理主義者に呼応し終焉を迎える事になる。
今まで生き延びる為力を尽くし続けてきた不死の女を差し出すことによる終焉を。
生贄として差し出された女は淡々と従った。出て行けと言うならそうするまで。
もちろん差し出した民はその後直ちに全滅した。長年彼らに敵対し得たその脅威の芽を摘む事に躊躇いなどなかったのである。
その事を巨大な爬虫類(人類からしてみれば直立する巨大なイグアナの様であった)から四肢を喰われながら滅びの様を嬉々として告げられるも女は一顧だにしなかった。
その無表情に対し爬虫類は詰まらなそうに残り全てを腹に収めた。
勿論女はその場で蘇った。その事で更なる地獄を得ようとも。
腹に収められた女は突如消え失せ、その場に喰い千切られた四肢が散乱し互いを繋ぎ合わせようと蠢いた。如何やら甦ってる最中はそれ以外何も出来ない様子であった。
星を失いしかの民を狙った真の目的はこの不死の女であった。
様々な実験を繰り返し様々な死を体験させるも彼らが知り得たのは不死の力は既存の神秘、即ち刻みしもの、唱えしもの、そして彼らが見出しし力想いしものそのいずれでも無いと言う事実のみであった。
嬉々として殺戮の実験を延々と繰り返した自称ドメイン求道とその道具の意志亡き小灰人達は遂に成し遂げた。不死の存在を偶然にも滅ぼしたのだ。
肝心の不死の秘密を解かぬままではあるが…
だが直後に異変が起こった。
他道への優位確立の為、隔離蓄積された実験データが消えていったのだ。
不死性の解明は叶わなくとも不死性の解体には万金の価値がある。それを知る彼らは慌てたがそれすら直ぐになぜそんな事を行なっているのか、自らの行動を訝しむ事になる。
そもそもあの女に関する全ての記録、記憶があらゆる存在から消え失せていた。
顔に彼ら自ら施した今となっては謎の(恐らく蘇生阻害)装置を組み込まれ放置されていた正体不明の遺体を絶対零度の殲滅種標本庫に放り込み、不自然な程アッサリと次なる種族命題に取り組んでいった。
死した女は無表情(死んでいるので当たり前だが…)で慌てた。
[やりすぎ、ちゃった]
永く共にあった民たちに疎まれ体躯を失った女は己が存在を疎み滅びを願った。
あと一撃、強烈な破壊があれば身体と魂丸ごと消滅出来たのにそれを成し得るモノが一切居なくなってしまった。
だが時既に遅し、果てしなく続いた苦痛から逃れる為、再生力喪失の間際無意識に発動し得た力によって外界と繋がる因果を喰らい尽くしてしまった。
等割地獄から氷結地獄へと状態が移っただけである。
時は移ろい、二度と動かぬ遺骸に宿る魂だけの存在と成り果てても研鑽を積み重ね更なる力を見出した。現実に想いを重ね異なる可能性世界を仮想しそこで仮初めに生きる術だ。
そこで想うは嘗て暮らした星の日々。喪って初めて分かる珠玉の感情。
ようやく此処で女は泣くことが出来た。
お前さえ居なければというやり場の無い不合理な感情の波動。
己の益体のない想い、何故あの時誰も私を引き渡す事に抗わなかったの?…と。
更に時は流れ世界が動き出す。
久方ぶりに保管庫から引き出されてみれば誰かにその亡骸を求められ何処かに移送される様だ。ただその名を呟かれ魂が凍りつく。
イケナイ、アレニアッテハイケナイ
だが所詮死した遺骸に宿る魂だけの存在。なす術もなく全体を見通せない程長大な体躯を誇る嘗て移民艦の包囲殲滅を行った同型の巨船に積み込まれ何処とも知れぬ場所から旅立った。
彼ら自ら次元スライドと呼ぶ近似次元上水平遷移を行い目的地と思われる所に着いた途端黄金色に輝く粒子を纏う同型艦の星船に攻撃を受ける。
誰だか知らないが撃沈してくれる事をひたすらに祈る。
祈りは届いた、但し中途半端に。
機関に打撃を受け、乗員は次々と緑に輝く菱形の光の集合体に包まれ全て何処かに消え失せた。
私の管理を任されていた洗脳済虜囚のブルー・エヴィアンスも彼ら個人の転移術が及ばぬ私の遺骸を搬出すべく奮闘していたが船体より放出されたプラズマ雲により頭部に損傷を受け絶命していた。
船体は損傷を受けつつも最後の役目を果たすべく静かに何処かに不時着する。衝撃さえ有れば遺骸を自壊出来たのに余計な事を。
此処は彼らの敵地なのか中立地帯なのか誰も訪れる者も無く再び静寂の世界が訪れる。
最早どれくらい時が過ぎたのか分からぬままその時を迎える。
防衛機構を動かす動力もないままでアラートだけが船内に鳴り響く。
アラートが鳴ると言うことは少なくともドメインとは関係の無い何者かがやってきたのだ。
その何者かは崩れた入口をこじ開けやってきた。
現れた二体の異星人は予想通りドメインの連中とは全く異なる容貌で、ヘルメットに阻まれ表情は分からないが興奮したジェスチャーで映像記録係と思しき相方に驚きを示し、「Mon… Li…!」などと叫びながらあれこれ調査を開始した。
記録係の異星人が私を接写するべくにじり寄る。
黒く塗り潰されたその頭部シールドから覗く顔は矢張りドメインより私に近しい種のようにみえた。
技術水準が極めて低い原始的なスーツを見るに、私の遺骸を粗雑に扱って貰えそうだと安堵する。
これならすぐ消滅できそう。
その期待とは裏腹にその者たちは慎重に私の遺骸を扱い丁寧に恐らく蘇生防止用であろう装置を取り外し、何か細長い物に乗せた。
もっと野蛮な生物だったら良かったのに!
崩れた通路に四苦八苦しながらも時間をかけ漸く女自らも使った事のある搬出入ハッチに辿り着いた。
何故か船体の外部装甲全体が仄かに黄金の粒子に包まれキラキラと輝いていた。
外に意識を向けると何処までも暗い空が広がっていた。
[寂しい星、こんな所に生物が発生するなんて奇跡ね]
遠くに小さい金属の小山が見える。
[アレがこの生物の船?]
[あの様な物でどうやって移動するのかしら?]
あまりにも低すぎる技術水準に戸惑いを覚えた。
私を船体から降ろすため一人が飛び降りゆっくり着地する。
その時、蒼き珠の様な星が地平線から上り辺りを照らし出す。
[なんて蒼い…星]
[もしあそこでもう一度生きれたなら仮初めだけの関係は要らない。次こそは私を求めてくれるただ一人のためだけに…生きたい!!]
「God damn!」
運搬する宇宙飛行士達は女の遺骸を下す際、船体に付着した黄金の粒子が事もなげにスーツ内に貫通し蒼き星の出の光を受け強烈に閃光を放つ。
至近距離での突然の閃光に遺骸を括った棒を取り落とし衝撃を与えてしまった。
そこで遂に魂と遺骸の限界が来たのだろう。幾星霜耐え抜いてきた肉体だがその衝撃で滅び去るに充分なものであった。
或いは船の周囲ギリギリに迄廻らされた穢らわしき檻を無意識に感じ取り、残る存在全てを賭けて拒絶した結果なのかも知れない。
三つに割れ瞬く間に崩れ去る様を二人は呆然と眺めていた。
一つは豊満なる双丘を据えた胸部、一つは堂々たる肉感を湛えた下肢、一つは繊細なる黒き御髪を纏いし頭部。
最期まで残った頭部から涙と思しき煌めきが頬を伝い流れた。
報告によればその一雫は地球光に照らされ激しく瞬いた、と言う。
UAP設定
・フィンガリア級天月
魔子拒絶原理主義者の妨害で遂に完成しなかった永遠に艤装中の移民用航宙艦。
同型艦は故郷の大陸数に合わせ四隻建造されたが進宙出来たのは一隻のみ。
故郷の月の名前を模した明暗リング二枚重ね構造。
エネルギーの局所収束反射による攻勢防御を司る煌月環
反射しきれない許容範囲外のエネルギーを吸収し魔子変換を行う 昏月環
上記稼働中は朧げに故郷に在りしかつての月の姿が浮かび上がる模様。
その中央部に四層の各大陸を模した再現空間を圧縮格納し各人の住居まで再現されている。
リング(便宜上)前後に分離可能な大型艦2隻、左右に中型艦2隻で構成される。
直径約20km。
・オウムアムア級天柱
みんな大好きオウムアムア。
最近の研究では葉巻型じゃ無いとか夢の無い事言ってますがウチでは葉巻型じゃい。
作品内では二種類登場しますが片方は何星人が使ってるのでしょうか。
直径800m〜4km(用途による)