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第1話 天才少女の後悔


「私が弟子を取れるように見えますの?お父様。」


興奮気味にとある女の子を弟子を取るよう薦める父親に私は冷静に応える。


確かに私は以前父親に「治療院を手伝ってくれる人が欲しい」とは言ったが、「弟子を取る」とは言っていない。一言も。


*********


私はドーベル国の領主の娘として産まれた。


ドーベル国は教育に力を入れている国で、教育機関は初等部、中等部、高等部に別れる。初等部までは義務教育だが、中等部以降は志願して入試に合格しないと通えない。ただ、奨学金等の制度が整っているため、貧しくても希望すれば進学出来る様になっている。高等部を卒業した生徒は軍部や王宮に勤める人がほとんどで、高級取りになれるので高等部まで進学を希望する人が多いが、中等部と違って高等部は定員はかなり少ない。


武術科、魔術科、医療科、官僚科、商業科等、学科は細分化されているが、武術科以外の学科は定員は年間30名程である。武術科だけは年間100名程取るが、卒業までに1割は授業がキツくて辞めるらしい。


1歳の頃に魔力有りと言われ、6歳から入学した初等部、中等部、高等部では「鬼才」と評価された。初等部、中等部、高等部までトップの成績。特に高等部では魔術を専門的に学ぶ魔術科に入学し、オリジナルで「飛翔(フライ)」の術式を始めとした数々の術式を編み出し、講師を驚かせる等、好き勝手やらせてもらった。ただ、何を学んでもすぐ出来てしまう、理解出来てしまう為、正直授業はつまらなかった。


たまに武術科の生徒が面白がって決闘を挑んで来ることがあったが、身体強化の魔術を使ってすぐねじ伏せた。初めは暇つぶしでそういった決闘を受けていたが、しばらくすると決闘を挑んで来るものがいなくなってしまった。むしろ、「踏んでください」とか「お姉様」とか言ってくる変態が増えた。そして、生徒会長にまで選ばれてしまい、色々大変面倒だった。きちんと生徒会長としての義務は果たしたけど。


*********


ただ、高等部にいた頃、ある事をキッカケにつまらない学校生活にも色がついた。


ある日、誤って階段から転落し、打ちどころが悪く半身不随となってしまったクラスメイトがいた。


新しい術式を試して見たかったのもあり、先生に了承を得た上で、その子の治療に当たったら、たまたま治って普通に日常生活が送れる様になるまで回復した。その子の両親からはかなり感謝された。


そのクラスメイトを担当していた当時新米教師だったリム先生からも感謝されたが、その後の言葉が印象的だった。


「君は魔術科にいるべき人間じゃないんじゃないか…?」


そんな事を言われたのは初めてだった。むしろ、家族含め、周りからは「君は魔術科にいるべき人間だ!」と言われ続けた。自分でもそれが当然だと思っていたが、彼はそう思わなかったらしい。


「君にとってはただの術式実験だったのかもしれないが、貴女の作った術式は人の命を救うのに役立つ物だ。君は魔術科でなく、医療科の生徒であれば沢山の命を救う事が出来ただろうにね…。」


…と、心底残念そうに言われた。


その言葉が印象的だったのか、それ以降私が考案した術式は医療に役立つものばかりとなった。中には医療科と共同で開発した物もある。自分が開発した術式で救われる命が増えれば増えるほど、私はやり甲斐を感じるようになった。そして、領主の娘として領民の役に立つ為、医者として開業したいと思い、在学中に医師免許を取得の為の試験を受け、見事合格した。


医療科の生徒の中には、医師免許を取得する物もいるが、魔術科では前例無し。ただ、魔術科の先生方は、私が軍部に就職するものだと思っていたらしく、必死に止めてきた。


**********


「君は軍部に行くべき人間だ!何故街で開業する道を選ぶんだ!」


「私は領主の娘です!民を救う手助けがしたいのです!ほっといて下さい!」


と、卒業間際まで言われ続けた。


ただ、私にあの様な言葉を投げかけてくれたリム先生まで、


「君は…軍部には行かないのかい?」


…と言ってきたのには腹が立った。貴方がそれを言うかと。君は医療科が向いていると評してくれた貴方が。


そこでつい、私は、


「先生が私と結婚して下さるなら、軍部へ行くことを考えますわ?」


…と、言ってしまった。それと同時に先生が好きだという自分の気持ちも自覚した。どう返してくれるか期待したが…


「……!?!?じ、冗談を言ってからかうんじゃない!」


と、顔を真っ赤にして冗談認定を受けてしまった。返事は面白くないが、反応は面白い。


「じゃあ、無理ですわねぇ…。それではさようなら♡先生、愛してますわー。」


と、言い逃げした。それ以降も、


「先生が結婚してくれれば考えると言ってるじゃないですか。」


「生徒と先生という関係もそろそろ終わりますし、もう生徒の皆さんも私達が愛し合ってる事を知っていますわ!」


…等と冗談っぽく告白し続けた。ずっとこの鈍い先生には断られ続けたが、毎回顔を真っ赤にする先生と追いかけっこするのはとても楽しかった。恋というのはつまらない日常を鮮やかに彩るらしい。


周りも初めは真面目な生徒会長が先生にそんな事を言うなんて!と驚いていたが、次第に面白い見世物として定着していった。リム先生本人だけは抗議していたが。


他の先生は私の卒後進路に対する説得を諦める中、リム先生だけは逃亡する私を最後までつかまえて説得してきたが、のらりくらりとかわし、とうとう私は卒業してしまった。


……最後まで冗談っぽくリム先生に告白してきたのを今では後悔している。最後くらいちゃんと告白していたらどうなってたんだろう…?


それだけが、たった一つの後悔だった。


第2話は明日の23時に投稿予約投稿しています。

引き続き読んでいただければ幸いです。

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