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魔法をかけた子守唄  作者: 碧衣 奈美


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12/14

本性

 方向は、魔法が失敗していなければ、間違いない。今までだってちゃんと来たのだ。この霧で不安になってしまうが、正確に進んでいるはず。ここまで来たら、自分を信じるしかない。

「少しは楽になった?」

「ああ、さっきまでの痛みが嘘みたいにな。まさか、傷の痛みの原因が霧なんて、普通は考えないぜ」

 結果として、ルーラはうまくレクトに結界を張り、彼を霧から隔てられるようにするのに成功したのである。それに伴い、レクトの傷はほとんど痛まなくなった。

「この霧って意地悪ねぇ。ケガ人をいじめて楽しいのかしら。痛いからこれ以上進むのはやめようって思わせたいのかしらね。足止めするにしても、もう少しマシなものにしてほしいわ」

 横にいるレクト以外は誰も聞いていないだろうが、ルーラは一通り文句を言う。

 さっきのように、ほんのわずかでも離れてしまって不安になるよりは、というので、ルーラはレクトの袖をしっかり掴んで歩いていた。

 ルーラは一人でも方向さえどうにかできれば、どこかにちゃんと辿り着ける。でもレクトは道に迷ったら最後、どうなるかわからない。レクトも困るし、ルーラもそんな風になってほしくはないから、こういう進み方になった。さすがに手をつないで歩く、というのは恥ずかしい。

 わずかに霧が晴れてきたようにも感じたが、前が見えにくいのはあまり変わらない。ルーラは少しでも前が見えやすくなるようにと、風を起こす呪文を唱えた。

 このままではあまりにも進みにくすぎる。この霧を吹き飛ばす、なんて大それたことを考えるつもりはない。もう数歩先が見えるようになってくれれば十分だ。

 控え目にやったのがよかったのか、魔法はうまく働いたらしい。少し視界が開けた。

「今日は調子いいな。もっとこの霧、払えないか?」

「無茶言わないで。下手なことして面倒でも起こったら困るでしょ」

 偉そうに言っているが、できない可能性の方がずっと高いからしたくないだけだ。

「……と、言ってるそばから面倒が起こったみたいだ」

 ルーラはレクトの見ている方に顔を向け、行く手に立っているものを見て短い悲鳴を上げた。そんな気など全くなかったが、気付いたらレクトにしがみついている。

 そこにいたのは、異様な形の生物だった。

 立っている状態で、長身のレクトの三倍はありそうな身長。手というか足というか、とにかくそれが八本。虫の触手っぽい。上部には飛び出た目らしき黒いものが五つもある。小さい時にカエルの飛び出た目が変だと思ったが、目の前の生物を見たらカエルなんてかわいいもの。三ツ目の魔物なら絵で見たことはあるが、五つ目を見たのは初めてだ。しかも見事に横一列に並んで。

 その少し下にあるのは口だろうか。円形の穴が開いたり閉じたり。その奥に歯車のような歯がその円にそって並んでいる。身体は殻のようなもので覆われて、全体的に直立した黒いバッタっぽく思えた。

 ちょっとやそっと突いても、ダメージを受けそうにない。背中には、これまた分厚い殻のような羽が何対かある。あの羽で飛ぶのだろうか。

 こんな生物は今までに見たことがない。新種の虫というには大きすぎるし、動物にもこんな姿のものはいない……たぶん。鱗はないから魚とはとても思えないし、そもそもここは水中ではない。空を飛んでも、この姿では鳥の仲間に入れてもらえないだろう。

 とにかく、不気味だ。ちょっとやそっとでは恐がったりしないルーラが、逃げ腰になってしまったのだから。

 この森の生物だろうか。精霊が姿を変えたものだとしても、何をモデルにしているのか想像できない。今まで会った精霊や魔物だって、ルーラが見たことのある生物の姿をしていた。もしかしたら、こんな生物が世の中に生きているのかも知れないが、珍しすぎるものではある。

「ここはお前達の来る所ではない。帰れ」

 丸い穴の部分から低い声がした。歯が鳴っているのか、カチャカチャとおかしな音をたてながら。こんな生物が人間の言葉を話すのは、ひどく奇妙に感じる。

 初めは気味悪がっていたルーラも、この言葉を聞くと急に大胆になって言い返した。

「いやよ。用があるからいるんじゃない。ここで後戻りする訳にはいかないわ」

 ザーディが通った時にも、こんなのが出て来たのかしら。だとしたら、恐がりだもん、きっと泣いただろうな。かわいそうに。ノーデ達がなぐさめてくれるとはとても思えないし、きっと心細い気持ちでいたはず。早く……早くザーディに会わなきゃ。

「ここからまだ先へ行く、と言うのなら、わしを倒してからにしろ」

「……あなたはこの辺りを守っている精霊なの?」

「お前がビローダの森の精霊のことを言っているのなら、違う。ここはもう、ビローダの森ではない。この先にある世界を守るための、いわば門番の役。森を守る者達とは別の存在だ」

「門もないのに門番がいるのか?」

 そうつぶやいたレクトの足を、ルーラは踏んづけた。

 それよりも。ここはもう、ビローダの森ではなかった。

 いつの間に出てしまったのだろう。それならばここは一体、どこになるのだ。

 ルーラはビローダの森を横断、もしくは縦断するつもりでこの森へ入った。この森を抜ければ、どこかの国の領域となっている林だの草原だのが広がっていると思っていたのだ。地図にちゃんと載っていなくても、世界はそういうものだと考えていたから。

 ビローダの森でなければ、もう精霊はいない。それはわかる。

 でも、目の前にいるのは、どう見ても普通の人間がいる所に棲む生物ではない。あの森はどこか別の世界にでもワープしているのだろうか?

「このままおとなしく帰るのなら、何もせん。だが、先に進むというのならば、わしを倒せ」

「どうして?」

「何?」

 ルーラの言った意味がよく理解できず、門番の生物が聞き返した。

「あなたはあたし達に何も悪いことはしてないでしょ。なのに、どうして倒さなきゃいけないの? この先の土地を守るために、侵入しようとしているあたし達をあなたが倒そうとするのならわかるけど。あたし達はただ、連れて行かれた子どもを取り戻しに来ただけなの。そういう事情を聞いたとしても、入れてもらえない?」

「戦わんと言うのか」

「戦う意味がないでしょ。例えば……この先にすごい宝物があるとして。あなたは門番として侵入者を食い止めないといけないだろうし、ほしがっているあたし達がそれを奪い取りに行こうとしてるのなら、あなたを倒すっていうのもわかる。でもね、あたし達はこの先にいるはずの、小さな子を助けるために来ただけなの。それでもあなたを倒さないといけないかしら。どっちが勝っても負けても、自分のためにあたし達が戦ったと知ったら、その子はきっと悲しむわ」

 門番はしばらく黙っていたが、またふいに聞いてくる。

「その子の名前は?」

「ザーディ。本名は知らないけど、ザーディよ」

「……」

 またしばらく黙る門番。何を考えているのか、横一列に並んだその五つの目に、表情は全く浮かばない。真っ黒で、どこを見ているのかすらわからない。まばたきもしなかった。それ以前に、まぶたがない。

「その男に結界を張ったのはお前か?」

 いきなり違うことを尋ねられ、少し面食らったルーラだったが頷いた。

「なぜだ?」

「なぜって……えーと」

 質問の意図がわからないまま、ルーラはレクトの傷のことなどを説明した。

「一応の魔法力は持っているようだな」

 たまたま成功したものに、一応、なんて言われていいのだろうか。これが実力だと思われたりして、それに見合った戦いを挑まれたりしたら困るのだが……。

「いいだろう。その『ザーディを救うだけ』というのなら、特別に許可しよう」

「本当に? ありがとうっ」

 これで本当に戦うはめになったりしていたら、もうお先真っ暗である。相手の力量が全く想像できないし、戦いが長引けばそれだけで体力を使い果たしてしまいかねない。

 それに、ルーラの魔法力が消えて、ついでに結界まで消えてしまったら、ルーラと一緒にレクトまでどうにかなってしまっただろう。

「ここを真っ直ぐ進んで行けば、その子に追い付くだろう。……だが、ずっと無事でいられるか、わしは保証しない」

「どういうこと? あの子、ここを通ったのね? ザーディが危険なの?」

 何か知っているような口振りの門番に、ルーラが問いただす。

「あの方の子は無事だ。傷付くことなくすごすだろう。だが、お前達は何をきっかけにして危険になるかわからん。ここを通り過ぎる以上、何が起きてもわしが関知するところではない」

 聞いてると、とんでもなく危険な所へ赴くような気がする。だが、ここで引き返せない。

「いいわ。どうせ今まで色んなことがあったんだもん。今更、恐がってられないわ」

「では、進むがいい」

 門番の姿が、霧の中に紛れて消えていく。

「戦場へ向かうよりヤバそうだな」

「そんなヤバい所に、ザーディがいるのよ。何をするつもりかわかんない人達と一緒に」

 ルーラは一歩、踏み出した。

☆☆☆

 霧が晴れてきた。もう霞程度で、歩くにも不自由しない。

 先へ行くにつれ、辺りの景色が姿を現し出す。全体的に、人間の世界と変わらない。

 さやさやと静かな音をたててなびく草も、澄んだ青空も、緑の木に覆われた山も、黒い岩肌も、豊かに流れる川の水も。人間の世界でも見受けられる光景。

 ただ。大気がどこか違う。優しくゆったりした空気の流れ。静かに過ぎる時間。甘い感覚。包み込むような暖かさ。何かに守られているような安心感。

「ここが竜の世界か。思ったより大したことはないな」

 どんな素晴らしい場所でも、何の興味も感動も持たない人間にとっては、意味のないものになるらしい。

 ノーデにとって、場所なんてものはどうでもよかった。ここに金のなる木がある、という事実だけが大切なのである。自然が人間に見せてくれる一番優しい顔など、用のないものという訳だ。

 ずいぶんと霧の中を歩いて来た。こうして霧が晴れてきた、ということはじきに竜の親に会えるのだ。足の裏にマメができてしまった。だが、歩くのもあとわずかのはず。

「ザーディ、お前の両親はどこにいるんだ? そろそろわかるんじゃないのか」

 匂いがする。とても懐かしい、生まれた場所の匂い。ビローダの森に置いて行かれて以来、ずっと求めていた匂いだ。

 ここまで来れば、ザーディが生まれた場所からほとんど離れていない。少し目をこらして見れば、両親の姿が見えてもおかしくない程の距離だった。

 とても嬉しい。とうとう帰って来られたのだ。何日ぶりだろう。泣いていただけの時間は別にして、本当に十日近く過ぎたのだろうか。ひたすらここをめざして歩いた。簡単に十日と言っても、ザーディには気の遠くなるような長い時間だ。

 その淋しさを紛らせてくれたのは、ルーラだった。ルーラが声をかけてくれなければ、ザーディは泣き通しのままだったかも知れない。いや、知れない、ではなく、本当にあのままだ。

 だから、帰れたのが嬉しい反面、ルーラがここにいてくれないのがとても淋しかった。

 そして、代わりにこの男達がいるのが恐かった。

 確かに数日の行程を共にしたけれど、それは間違ってもザーディの望みではなかったし、今もって落ち着かない。

 でも、両親なら彼らが何かしようとしてもどうにかしてくれるだろう、という安心もどこかにある。

 色々と悩んでるザーディの目に、誰かの影が映った。はっとして顔を上げ、そちらを向く。

 そこには、人間の姿をとった母のルシェリが確かにいた。ザーディ以外に人の気配を感じ、竜の姿を隠したのだろう。彼らは滅多なことでは人間に竜の姿を見せようとはしないから。

「母様……」

 ぽつりとつぶやくように言ったザーディの言葉を、もちろんノーデは聞き逃さなかった。ずっとこの時を待っていたのだから。

「あれがお前の母親か。ほぉ、なかなかの美人だな」

 人の姿をとったルシェリは、確かに人間では滅多に見られない程の美しさを持ってそこにいた。

 流れる銀の髪。深い青の瞳。ザーディと同じ色だ。透き通るような白い肌。きゃしゃな身体。柔らかな笑みを浮かべた優しい表情。本当に竜なのかと疑いたくなる。竜を感じさせるものは、彼女のどこにもない。

「お帰りなさい、ザーディス」

 母がにっこりと笑う。ザーディはたまらず、そちらへ駆け出した。その後ろを、ノーデとモルがおかしくない程度について行く。そのノーデの手は、ポケットの中に入れられていた。

「母様ぁー」

 ザーディは手を差し出す母に飛び付きかけ、でも直前で自分の身体を押し止める。ルシェリは少し不思議そうな顔をして、目の前に立つザーディを見ていた。

「ただいま、母様」

 ゆっくりとザーディは背伸びをして母の首に腕をまわし、その頬に優しくキスをした。

「少し大きくなりましたね、ザーディス」

 嬉しそうに、母もザーディの頬にキスを返す。そっと髪をなでる母の手は温かい。

「前のあなたなら、間違いなく飛び付いていたでしょうに。それに、ちゃんと魔法が使えるようになったのね。姿を変えられたということは」

「うん、気が付いたらなってたの。魔法の呪文もよくわからないけど」

「別れる時に魔法なんてわからない、と言ってた時よりずっと成長しているわ。父様のやり方も、功を奏したみたいね」

 こんな弱々しい性格の子をあえて置いて来るなど、あまりに厳しすぎるのでは、と思った。だが、息子はちゃんと成長して戻って来たのだ。

 ここにはいなくても、ラルバスの声が聞こえるように思える。うまくいっただろう? と誇らしげな調子で。

「あのね、ここへ帰って来るまでに」

「わしらが一緒について来て差し上げたんですよ」

 ザーディの言葉を、後ろから近付いて来ていたノーデがひったくる。

「そうですか。道連れとして、彼らと行動を共にしたのね、ザーディス」

「あ、あのね、母様」

 ザーディの言葉を、またまたひったくってノーデが続ける。

「いやぁ、ここまで来るのは大変でした。わしが魔法使いでなければ、普通の人間ではここまではとても辿り着けんでしょうなぁ」

 いかにも、自分の魔法のおかげでここへ来たのだ、と言わんばかりの言い様。実際にはほとんど魔法など使っていないのに。

 魔法を使ったと言えば、ルーラと一緒にいたザーディを追うため、追跡の小鳥を出した時くらい。結界を張ったり、濡れた服を乾かすためにも使ったが、どれも失敗か中途半端。

 移動はモルがザーディを背負っていたし、方向を決める魔法さえもザーディにさせていた。

 それにも関わらず、こんな大きな顔をしているのだ。

「ちが……母様、あのね」

 ザーディはルーラのことを言いたかった。ノーデは後から一緒になってしまったようなもの。

 だが、ノーデはあくまでもそれを邪魔しようとする。余計なことは言うなとばかりに。

「ところで奥方。わしらが一緒に来たのは、金のなる木がある、と聞いているからなんですよ」

「金のなる木? ここには、この世界にはそんなものは存在しませんわ」

 少しいぶかしげな顔をしながら、ルシェリはさりげなくザーディを自分の斜め後ろにやる。何かおかしな空気を感じ取ったらしい。

「いやいや、ありますよ。それもわしの目の前にね」

 ゆっくりと自然に、ノーデはポケットから手を出す。そして、その手を彼女の前でさっと開いた。手の中にあったイオの実の粉が飛び散る。

 その細かい粒子を吸い込んでしまったルシェリは、むせて咳き込んだ。母が盾になってくれたおかげで、今回はその粉を吸わなかったザーディが慌ててルシェリの背中をさする。

「母様! しっかりして。大丈夫?」

 だが、息子の介抱に応えず、ルシェリはゆっくりとその場に倒れた。それを見て、ザーディは真っ青になる。

「母様っ、母様! 母様に何したのっ」

 ザーディがノーデを睨む。

 ザーディは気付かなかったが、誰かを睨むなんてことは生まれて初めてだった。睨む程、怒りを感じることがなかったから。いつも何かに怯えていたザーディが、睨むものなどなかったから。

 だが、ノーデは子どものザーディが睨んでも、全く意に介さなかった。所詮、子どもは子ども。

 もちろん、ザーディが竜というのは知っているが、ザーディの大切なもの、母親がこちらの手に落ちたのだ。こんな子どもの竜を恐れる必要などない。

「騒ぐなよ、おチビさん。大切なおふくろさんを、どうにかされたくないだろう?」

 ノーデがザーディを言葉で止めている間に、モルがルシェリを担ぎ上げた。巨漢のモルは、きゃしゃなルシェリを軽々と肩に担いでしまう。

 母を奪われてしまっては、ザーディもおろそかに手は出せない。

 いやな予感が当たってしまった。何か邪なことをしようとしている、と感じながら、こんな輩を連れて来てしまうなんて。自分には無理でも、両親ならどうにかしてくれると思ったのに。

 どんなに悔やんでも、起こってしまった事実は変えられない。

「母様をどうするつもりだ」

 今までになく、低い声。隙があれば飛び掛かりそうな気配だ。ノーデだってバカではないから、ザーディの動きには充分に注意している。

「なぁに、ただわしらの事業にちょいと協力してもらうんだよ」

「事業って、何の……」

「それは人間の秘密ってやつかなぁ」

 そう言って、二人はゲタゲタ笑う。ザーディには、初めから彼らがどんな目的を持って自分を追って来ているかわからなかった。ただ、よくないことを考えているらしい、と思うだけだ。

 これが彼らの本性だ。追って来ていた時も、一緒に竜の世界へ向かっていた時も。彼らに親切心などなかったのだ。自分の欲望だけを考えて。

 悔しい。後悔したって仕方がないってわかってる。だけど……どうすればいいんだ。

 悔しくて涙が出そうになる。でも、ザーディはぐっと堪えた。ここで涙を見せるのは、負けたも同然だ。それはしたくない。これが自分のミスならば、自分で取り返さねば。

 そう。ルーラならあきらめない。必ず向かって行く。ビクテに会った時、ルーラはぼくを逃がそうとしてくれた。カグーに襲われた時も、自分の身体をはって。ぼくもやれる。身体をはってでも母様を助ける。

 わずかに。ほんのわずか、ザーディの背がまた伸びた。でも、必死になっているザーディも、金のことしか頭にないノーデやモルも、そんな細かいことには気付かない。

「まぁ、心配するな。せっかく親子の再会を果たしたところで、すぐに引き裂くなんてひどいマネはしないから。お前もちゃんと一緒に連れてってやるさ」

 魔法が使えれば。自分で何とか打開できただろう。でも、使い方をまだしっかりと把握している訳ではないザーディには、少し無理な話だった。無茶をして、母にケガをさせたくない。

「行くぞ」

 母が向こうの手の中にいる以上、おかしなマネはできなかった。それに、母がいつまでも気を失っているとも思えない。目を覚まし、わずかでもモルから離れれば、打つ手もあるはず。

 とても心許ない希望ではあるが、今はそれに頼るしかない。

 ザーディは先頭に立たされ、次にノーデ、最後にルシェリを担いだモルの順で、再び霧の中へと向かって歩き出した。

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