表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女なんて勘弁願います!  作者: 皿うどん
14/16

13

「嬢ちゃん、腹を括らなきゃなんねえ。明後日にも、王宮のやつらがここを突き止めるだろう」

「バイラム、脱税でもしてたの!?」

「濡れ衣はやめていただきたい」

「そうじゃなくて、嬢ちゃんが聖女だってことだ」


 ひゅっと息を呑む。

 さっきまで楽しい夕食で、おいしいものをお腹いっぱい食べて、満ち足りた気持ちだったのに。


「ち、違う……わたし、たいした知識を持ってないよ。なにも、もたらしてない」

「料理や服、新しい歌まで教えてみせた」

「服も歌も、新しいものなんかたくさんあるでしょう!?」

「ない。この世界の服は量産されていていつも同じだ。歌は聖女ひとりにつき一曲のみ、この世界には34しか曲がない。それも聖女が作ったもののみが存在する」

「で、でも……」


 反論したいのに、どうやってすればいいかわからない。デリクの瞳には、確信が宿っているから。


「……この世界は、聖女からもたらされるもので生かされている。聖女から授かったものは、何一つ変えることなく広まる。……ひとつでも新しいものをもたらすのは、聖女の証なんだ」

「そんな……」


 絶望ののちに、体の奥でくすぶる熱いものが吹き出してきた。

 ……怒りだ。


「いや……嫌! 聖女になんかなりたくなかった! 好きに生きたかっただけなのに!」

「もちろん、好きに生きていい。聖女はすべて好きにしていいんだ」

「でも、結婚しなきゃいけないんでしょ!?」

「落ち着け、そんなものしなくていいんだ」

「お嬢さん、前に男性嫌いの聖女様のお話をしたのを覚えておいでですか? あの聖女様は結婚されなかったそうですよ。どの聖女様も、結婚したいと思えるほどの相手と出会っただけのことです。お嬢さんに強要されることなど、なにひとつありません」

「……本当?」

「ええ。もし嘘ならば、雷でこのバイラムの体を焼き尽くして構いません」


 バイラムは真剣で、わたしを案じていた。

 意識して深呼吸をして、怒りをしずめていく。部屋が明るくなったような気がして外を見ると、分厚い黒い雲が消えていくところだった。


「でも、王宮には聖女様がいる。わたしが行かなくてもいいんじゃないの?」

「あの聖女は偽物だ。自分のもたらす情報に金を払えと言っている。提示した金額は一国の予算を超えるもので、待遇に不満があれば言わないと言い張って贅沢をしている。このままだと、ろくなことにならない」

「……本当に、偽物の聖女なの?」

「間違いない。あれはこの世界を崩壊へ追いやるだろう」


 しばし考えて、靴を脱ぐ。足の甲を見せると、ふたりは目を見開いた。


「わたしは、聖女の証を見たことがありません。もしこれがそうで、王宮から使者が来たなら、王宮へ行きます」

「嬢ちゃん……本当に、聖女なんだな……」

「あの……生贄にされたりしないよね?」


 デリクは先程とは違う意味で目を見開き、一拍おいて、いつもの日の光を思わせる笑い声を響かせた。



 2日後、王宮から使者が来た。








 朝から王宮へ行ってお風呂に入ってドレスを着せてもらい、王へ謁見する支度を整えた。デリクとバイラムも一緒がいいと言ったから、ふたりも付き添って来てくれている。


「ど、どうすればいいんだっけ? せっかく教えてもらったのに、頭が真っ白だよ」

「この世界に嬢ちゃんより偉いやつはいない。いつもの嬢ちゃんでいればいい」

「このバイラムがついております。お嬢さんは何も心配することはありません。安心なさいませ」

「なあバイラム、いいとこ取ってくのやめねえか?」


 いつもの空気に、肩の力が抜ける。くすくすと笑ってから、背筋を伸ばして謁見の間へ入った。

 玉座へと続く絨毯の左右に、ずらりと人が並んで叩頭している。玉座に座るのは、おそらく王と、聖女らしき人物。

 目を伏せて歩いているし遠目だったから、ちらりとしか見えなかったけど、王は渋いイケメンな気がする。


 玉座へ続く階段の下で軽くお辞儀をする。


「顔をあげよ」


 言われて顔をあげると、王が立ち上がるところだった。おろおろしているあいだに階段をおりてきて、すっと跪く。


「このしるし……聖女の証に間違いない。あなた様こそ我らが探していた聖女様。どうぞ知恵をお与えください」

「待ちなさい! 私が聖女よ!! そんな小娘、聖女なわけ」


 言葉が不自然に途切れる。

 顔を上げて凍りついた。


「あんた……嫁?」

「お、かあさ……」


 ……ニセ聖女が義母の顔をしている。

 どうして……なんでここに!


「あんたが聖女なわけないでしょ! このグズ! さっさと辞退して身でも売って稼いできな!!」

「ひっ!」


 かばうように腕で顔を覆う。

 手足が冷たい。体が硬直してうまく動けない。


「俺の嬢ちゃんにそんなこと言うんじゃねえ!」


 あたたかい何かが抱えてくれ、大きな背にかばってくれる。


「……デリク」


 情けない震える声を拾い上げ、デリクは安心させるように笑いかけてくれた。


「安心しな。俺が嬢ちゃんを守る」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ