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聖女なんて勘弁願います!  作者: 皿うどん
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 妊娠の仕組みや、赤ちゃんがどう大きくなるか、覚えていることを書いていく。覚えているのは本に書いてあることばかりで、医者のような専門的な知識はなにもない。

 それでもいいと言ってくれた。もし知っていることばかりだったら、それでもいい。


「それでは、始めます」


 緊張しきって、人の前に立つ。疲れているだろうと気を遣ってくれて、あれから3日後に教えることになった。その優しさを裏切りたくない。


 参加人数は全員で10人ほど。デリクと、パンの仕込みを終えたバイラムも一緒だ。

 男の人が半分ほどで、デリクの前で説明するのはなんとなく恥ずかしかったけれど、そんなことを言っている場合ではない。


「ではまず、簡単に流れを説明します。まずは生理から」

「えっ? 妊娠について説明していただけるんですよね?」


 男のひとりが声をあげたので、頷いて続きを話す。


「生理は、女の人が妊娠できるようになった証です。妊娠したら生理が止まることは知っていますね?」

「はい。なぜかはわかっていませんが」

「そこも説明します。人数分のプリントを用意できなかったので、申し訳ないけどご自分でメモをお願いします」



 細かく説明していると、あっという間にお昼になった。

 久しぶりにたくさん話したので表情筋が痛く、喉はからからだ。みんなの表情が輝いているのが嬉しく、痛みなんて気にならない。


「汚れなき乙女、私たちは昼をとってまいります」

「その名前だと呼びにくくありませんか? もっと気楽に呼んでくれて構いません」

「ですが、聖女と呼んではならないと」

「その二択かぁ」


 どうしてかみんな、わたしを「汚れなき乙女」と呼ぶ。略して「乙女」だ。

 もっと呼びやすい名前をと思うが、自分の名前を決められていないわたしが言えるはずもない。


「なあ、嬢ちゃん。みんなにホットドックを振る舞ってやったらどうだ?」

「わたしはいいですけど、バイラムさんのお家ですから、まずはバイラムさんの許可をもらってください」

「もちろんいいですとも。私からもお願いします」

「じゃあ、作ってきますので、少し待っていてくださいね」


 キッチンへ行くと、すでにコッペパンが用意されていた。まだ、ほんのりあたたかい。

 ソーセージを焼きつつキャベツを切って、冷蔵庫に作り置きしておいたトマトソースとタルタルソースを出す。ついでなので、鶏肉をそぎ切りにし、チキン南蛮と焼き鳥を作ることにした。


 3種類のパンを急いで作り持っていくと、やたら興奮したり怒ったり神妙にしている人がいたりと、部屋の中は何やら忙しかった。ドアを開けたまま固まる。


「いいにおいだな。嬢ちゃん、ありがとよ」

「……デリク、みんなどうしちゃったの?」

「後世まで語り継がれる歴史の第1ページを語ってたんだよ」

「興奮しすぎてない?」

「その場に居合わせたとなれば、こんなもんだろ」

「そういうものなの?」

「ああ」


 デリクは説明する気がなさそうなので、流しつつテーブルにパンを置く。大きなお皿を持ってくれていたデリクもお皿を置き、手を叩いた。

 ざわめきが止まる。


「嬢ちゃんが昼飯を作ってくれたぜ。これも歴史ある1ページだ」

「そうだ! なんてありがたいことだ!」

「こんな重要なことに立ち会えるなんて……!」

「私、絶対に子供に何回も話すわ!」

「あの……ただのホットドックなので、歴史の1ページじゃないのが申し訳ないですが」

「そんなことありません! これ以上名誉なことはありません!」


 全員が力強く頷いていて、どう反応すればいいかわからない。とりあえず、にっこり笑っておいた。


「みなさん、食に興味があるようで何よりです」


 バイラムが用意してくれた果物とお茶もあり、和やかな昼食になった。ひとくちひとくち噛みしめるように食べ、おいしいと言われるのは、大げさだけど嬉しい。

 前は、食事をひっくり返されることもあったから。


「気になっていたんですけど、着る服ってこれじゃなきゃいけないんですか? みなさん、同じようなものを着ていますよね」


 女の研究員の方に聞いてみると、ぱちぱちとまばたきをされた。青い目に淡い黄緑の髪と、地球ではなかなか見ない組み合わせだ。


「民が着るのはこれですね。高貴な方はドレスを着ていますよ」

「形を変えてもいいんでしょうか?」


 目の前の女の人が息を呑んだ。


「形を変えて、ちょっと刺繍とか色を染めたりしたいんです」

「……色のある服を着るのは、王族の特権です。刺繍は構いませんが、この服を刺繍するには時間もお金もかかります」

「刺繍糸は高いんですか?」

「はい」


 じゃあ無理か。バイラムは優しいけど、そこまで我儘は言えない。


「刺繍糸がお望みですね。家にありますので、お好きに使ってください」

「バイラムさん! 高いし、言ってみただけだからいいんです」

「新しいものを教えてくださる約束でしょう?」


 バイラムの瞳の中で、光が面白そうに踊っている。胸にあたたかいものがこみ上げた。


「ありがとうバイラムさん!」

「いいえ、お嬢さんの喜ぶ姿を見ることが私の喜び。その笑顔を見るためなら、どんなものでも手に入れてみせましょう」

「……いっつもバイラムはいいとこをかっさらっていくな」


 ぼやくデリクがおかしくて笑う。


「デリクにもなにか作ってあげる。なにがいい?」

「本当か!? 嬢ちゃんが作ってくれるなら何でも嬉しいさ。絶対にバイラムより先に作ってくれ!」

「もちろん、一番はデリクさんに譲りますとも。私は時間をかけてゆっくり作ったものをいただきます」

「嬢ちゃん、俺のものだけを作ってほしい」

「じゃあ、かわりばんこでバイラムさんの次にデリクのを作るね」

「伝わんないんだよなぁ……」


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