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第9話 恋のトライアングル

――放課後。


 鷹音は、漫画研究会……通称漫研の部室である、美術室にいた。

 この高校では、「美術部」がない。

 それ故、絵が描けるとか、漫画に興味のある……いわゆるオタクたちの集まるのが、漫研であった。


 そして、漫研にはコピー機がある。

 主に、同人誌を発行している漫研は、コピー機を導入している。

 なので、生徒会の広報誌を作る場合、コピーは職員室か漫研の部室か、どっちかでコピーを取るようになっていた。


「でさー、FFリメイクはエアリス派かティファ派かって話になるわけよ」

「FFに限らず、スクエニは聖剣でも持ち直したよねえ」

「あたしはエアリスかな~。いきなり死んでびびったんだけど、生存ルートとかないの?」


 鷹音は、アニメやゲームなどのオタク文化はあまり興味がない。

 だから、そんな声が聞こえていても、話の輪には入れそうになかった。


 ……というか、正しくは「アニメ・漫画・ゲームは禁止されていたから」なのだが。

 アニメは、ディズニーや子供用アニメ以外を両親の教育方針で禁止され、漫画やゲームに至っては、それに興味を持つことすら禁じられていた。

 

 ……本当は、漫画研究会の人のように、自分の好きな話題で盛り上がりたいのかもしれない。


 鷹音はそう思って、少し顔をうつむかせた。


「ちょっと! トーンこれじゃないって言ったでしょ! 」

「だ~か~ら~、締め切り1日前でペン入れ8ページも残ってるってどういうこと!? 」


 だから、そんな、なんだかんだで楽しそうな彼女たちのことも、少し羨ましかった。




「鷺村さん、コピー終わった? 」


 オタクの一人が話しかけてくる。

 鷹音は、はっとして、顔を上げた。


「え、ええ。これで最後よ」

「そうなんだ。私、コピー本作るから、次貸してね。あと、鷺村さんに客が来てるわ」

「……客? 」


 鷹音がついっと美術室の入り口に顔を向けると、そこには会いたくない人間が立っていた。




「どうしたの? 江口さん」


 鷹音は、できるだけ平静を装いながら声をかけた。

 江口は、「えへへ」と微笑む。


「鷺村さん、七沢さんの行きそうなところ知りません? 上手い具合にまかれちゃった」

「そう。でも、嫌がる人を追いかけ回すのは、あまり感心できないわよ」

「嫌がってないですよ。彼女は、私のことが好き。だって、私がこんなに彼女のことが好きなんだから」


 理屈になっていない理屈に、鷹音はため息をつく。

 恋は盲目。それは、相手に対しても、自分自身に対してもそうなのだ。


「ともあれ、本当に好きなら、有葉に迷惑かけないのも愛よ」

「鷺村さんは、七沢さんのことを愛してるんですか? 」


 そう、聞かれて、鷹音は言葉に詰まる。


 なにせ、出会ってから数日しか経っていないのだ。

 しかし、有葉の、鷹音に尽くしてくれるところも、情熱的に見つめてくるところも、好きという感情を隠さないところも、鷹音にとっては好ましく映っていた。


 しかし、それはもしかしたら、有葉に「好き」とアピールされているから、鷹音の自尊心をくすぐるのかもしれない。


 鷹音は、慎重だった。


「……わからない」

「ふうん」


 江口は、そこで乗り出していた身を引いた。

 鷹音としては、それで少しほっとする。


「もし、鷺村さんが本気じゃないのなら、私が七沢さんのこと、とやかく言われる筋合いはないんですけど? 」

 江口がそう言うので、鷹音は眉を寄せる。


「そう言う問題じゃないわ。現に、有葉は嫌がってるじゃない」

「嫌がってないって言ってるじゃないですか。彼女は、まだ自分の気持ちに気付いてないのよ」


 そう答えて、江口は不敵に笑う。


「七沢さん、私の気持ちに答えてくれますよ」

「…………」


 鷹音は、沈黙した。

 この、江口実香という女性は、真面目そうな見た目に反して、かなりの自信家らしい。


 しかし。


「――有葉は」

「ん? 」

「有葉は、あなたの気持ちには、答えないわ」


 鷹音も、そう、反撃に出た。

 江口は、一瞬意外そうな顔をして、それから微笑む。


「じゃあ、賭けます? 七沢さんが、私の所に来るか、それとも鷺村さんの所に来るか」

「私、そういう重要なことを賭けるのって嫌いなのよ。ましてや、人の気持ちを賭けの対象にするとか、嫌いだわ」

「あは、鷺村さん、そういうところお堅いのよね。わかったわかった。でも、七沢さんのことは、私も諦めないですよ」


 鷹音は、少し不思議そうに江口を見つめる。

 有葉といい、この少女といい、何故「諦めない」という気持ちになれるのだろうか。

 相手に邪険にされても諦めないというのが恋なら、鷹音はまだ恋を知らないことになる。


 思えば、鷹音の相手は、いつもあちらからアプローチをしてくるのだった。

 そして、鷹音の冷めた態度に、勝手に失望されて、結局は鷹音がふられることになる。

 

 鷹音は、自分でも、そんなに冷たく見えるのだろうかと悩んだこともある。

 しかし、悩んだところで自分の性格はそうそう変えられないし、無駄だと思ったので、今日に至るまでそのままでいる。


「じゃあ、またね、鷺村さん。私、もうちょっと七沢さんの鬼ごっこに付き合います」


 そう言って、江口は鷹音に手を振って去って行った。

 その時、ふと不安な気持ちになったのは、鷹音の思い過ごしだったのだろうか?

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