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第6話 情熱の告白

「鷹音はさあ、自分の可能性とか、魅力とか、そういうの、あまり興味ないの? 」


 ほぼ有葉が食事を作りに来るだけのためのようなシステムキッチンで、急にそんな話を振られた。

 鷹音は、リビングダイニングになっているソファに座っていたが、ゆっくりと振り向いて有葉の方に顔を向ける。


「可能性? 魅力? そんなもの、『持たざる者』には過ぎた話よ」

「んー。そうかなあ? やっぱ人間、向上心とか大事だと思うんだけど。なーんか鷹音って、石橋を叩いて壊すタイプっぽいよね」

「……私は十分恵まれてるもの。不自由ない生活ができるのも両親がいるおかげだし、学校では女の子に囲まれているし、成績は……まあ確かにもうちょっと頑張りたいけど、少なくとも赤点は取らずに進級できそうだし、これで何かを望むとしたら、それは贅沢というものよ」

「……」


 有葉は、それを聞いて、少し嫌そうな顔をした。

 そして、最後の皿をカシャンと置いて、鷹音の元に駆け寄ってくる。


「鷹音は、あたしのこと、必要としてない? 」

「……? 」


 有葉に、急に、左手を取られ、ぎゅっと握りしめられる。

 鷹音は、それを不思議そうな顔で見つめた。


「もしかして、あたしがいたら嫌なのかなって……」

「どうかしら」

「んもー、意地悪! 」

「まあ……少なくとも、嫌だったら毎日一緒にご飯なんて食べないわ」


 鷹音がそう言うと、有葉はぱあっと顔を輝かせた。


「じゃあ! 」

「……でもね。あなたが人間でないことはわかっているけど、あなたは私と付き合ったり……できたら将来日本の法律が変わって結婚したり、科学が進歩して子供を作ったりできるかもしれない。でも、それは全部『もしも』の話であって、今、確定していることは、女同士では結婚はできないし、子供も作れないということ。……そんな、不確定要素の未来を夢見るほど、私、子供じゃないわ」


 有葉は、頭の上の耳を伏せ、尻尾を垂らす。


「鷹音……」

「そういうわけだから、私のことはひとときの感情だったってさっぱり忘れて、天狐の義務を果たしたら? 多分、何か目的があって、現代日本にいるんでしょ? 」


 鷹音は、これでおしまい、というように握られた左手を払う。

 しかし、有葉は、更に強く鷹音の手を握りしめた。


「離さない」

「有葉、頭の良いあなたならわかるはずよ? 離して」

「絶対に離さない!! 」


 有葉が強くそう言うと、台所で、積まれた皿がガシャリと音を立てた。

 

「あたしは、絶対、鷹音を諦めない! そのためには、どんな障害も乗り越えてみせるし、鷹音自身のその臆病な気持ちも一緒にまとめて愛してみせる! 」


 パリパリ、と、何かが弾けるような音がする。

 鷹音は目を見開いた。

 有葉の体から、静電気のようなものが放出されているのだ。

 皿を動かしたのも、それのせいだろう。


「あなたを諦めない。何度断られても、これからどんなに遠くに離れようとも、あたしは鷹音のことを想ってる。信じて」


 真剣な有葉の表情。

 鷹音は、視線を泳がせた。なんとか曖昧に、なあなあに、この場を収める方法を考えたのだが、思いつかない。


「……手を離して、有葉。痛いわ」


 ようやく、そう声を絞り出すと、有葉はゆっくり、名残を惜しむように、するりと手を引いた。


「ごめん、鷹音。引いた? 怒ってる? 」

「意外と情熱的だってことはわかったわ」


 鷹音は、わざと、痛くもない手をすりながら言う。

 

「当たり前よ! 狐はしつこいんだから! 」

「……まあ、女冥利には尽きるかもしれないけどね」

「ホント!? 」

「一般論よ」


 有葉の耳は、伏せられたりぴんと立ったり忙しい。

 それを、なんとはなしに眺めながら、鷹音は意地悪をして答える。


「むー……でも、絶対に鷹音のこと、振り向かせるから!! 」


 有葉は、びしっ!と鷹音を指さして宣言する。


「いつか、鷹音の口から、あたしのこと好きだって言わせるわ!! それまで待ってなさいよ!! 」

「……」


 鷹音には、理解できなかった。


 何故、有葉は、ここまで鷹音に惚れ込んでいるのか。

 確かに鷹音は、整った顔をしているし、胸もそこそこある。

 だが、それだけの話だった。

 鷹音としては、それだけの理由でこんなにも情熱的に好意をぶつけてくる有葉が不思議でもあった。


「聞いてるの!? 鷹音! 」

「はいはい。期待せずに待ってるわ」

「本気で聞いてよ!! 何よその、子供を追い払うような真似して! 」

「だってあなた、500歳にも、高二にも見えないわ」

「ぐっ……」


 有葉は、多少はそこのところを気にしているのだろう。

 言葉に詰まると、それからいじけてみせた。


「……だって、しょうがないじゃない。今、日本ではちょっと幼い感じの子が流行ってるって聞いたんだもん」

「今までどこにいたのよあなた。まあ……確かに、ロリは一部で根強い人気はあるけど」

「鷹音は、こういう顔好き? 」

「私が別の顔が良いって言ったら、あなたどうするの? 」

「ん、んん? それは~……こうする! 」


 と、有葉は、むぎゅ、と鷹音の『そこそこある』胸に手を伸ばすと、むにゅむにゅと揉み始めた。


「鷹音のおっぱいを揉んで、気持ちを落ち着かせる! 」

「やめなさい」


 鷹音は、平手で有葉の両手をパーン! となぎ払った。

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