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第5話 ツナ缶の食卓

「気になったんだけど、天帝の伝達役を帰しちゃって良かったの? 」

「んあ? 」


 夕食時。

 今日は鷹音が作った……というよりご飯にぶっかけたツナ缶と味噌汁、という死ぬほど貧しい食卓に、2人は座っていた。


 鷹音は、料理ができたらいいな……くらいの気持ちで高二になってから一人暮らしを始めたのだが、肝心の料理の腕はさっぱりだった。

 そもそも、鷹音は「腹に入れば良い」というだけの気持ちで、毎日の食事を考えている。

 ツナ缶丼でも鷹音は一向に構わなかったのだが、これが寂しい食事だと思うようになったのは、有葉が手の凝った料理を作ってくれるからだった。


 元々、アパートではなくマンションに住んでいるのもあり、仕送りもたんまり貰っていて、余った分は着実に貯金に回している。

 

 鷹音は、アパートでも良かったのだが、両親が「女の子だから」と強固に反対し、セキュリティのちゃんとしたマンションの一室を借りることとなった。


 ……まあ、この狐の前では、セキュリティなどあってないものなのだが。


「別に、あたしと天帝のおっさんは、何もないよ? 」

「そういうことを聞いてるんじゃなくて。一応上司……というか社長命令みたいなものでしょ? 逆らっちゃって良いのって聞いてるのよ」

「良いんじゃないの? というか、鷹音は誤解してるかもしれないけど、あたしが天帝の直属の部下ってわけじゃないのよ。どうして天帝が、あたしの上司に話を通さずに、直接来るのよって思ったの-。あのおっさん、絶対に面白がってるわ」


 口を尖らせて、拗ねるように、有葉は言い放った。

 そして、ちゅーっとコップに入ったアイスティーを飲む。


「……そう。でも、なんであなたは私の家にご飯たかりにくるのかしら? 」

「うえ? たかってなんかいないよ失礼な! ハンバーグだって、その前のポトフだって、あたしが全部お金出したでしょ? 」

「でも、お米はうちのよね? あなたがバクバク食べてるそのお米はね」

「そ、そんなにがっついて食べてない……もん……。っていうか、鷹音は放っておくとお茶漬けとかカップ麺で過ごしてそうで見てて怖いのよ! 大体、『ツナ缶丼』って何よ! 別にお金には困ってないんでしょ? もっと栄養のあるもの食べてよ! 」


 ふう、と、鷹音は息を漏らす。


「確かに、私の作るご飯は、犬猫の餌っぽいわ」

「そうよね。初めてツナ缶丼見たとき、『あ、これ、狐のあたしに対する嫌がらせ? 』って思ったもん。鷹音も同じもの食べてるって知ったら、ものすごい哀れになっちゃって……」


「でも、ツナ缶にはマグロが入ってる」

「うん? 」

「マグロは魚だから、ヘルシー」

「うん? 」

「だから、ツナ缶は主菜」

「ぜんっぜんわかんないわ、その三段活用」


 有葉は、「ねえ」と身を乗り出した。


「ぶっちゃけた話よ? 鷹音って、結構バカだったりする? 」

「…………」


 鷹音は、ふいっと視線を逸らした。

 

「授業は真面目に受けてるわ」

「真面目に受けない授業ってあるの? 」

「でも、何故か点数は平均値なのよね」

「鷹音、生徒会にも関わってるんじゃなかったっけ? ほら、あたしと初めて会ったのも、生徒会絡みだったじゃない? 風紀委員みたいな真似してたし」

「あのね」


 鷹音は、一呼吸置いて言う。


「別にバカでも生徒会には入れるのよ。要は、ハッタリが聞くかって話だし」

「で、鷹音ちゃんはハッタリで、勉強できるふりをしてる、と? 」

「私にだって、わからないことは、ある、わ」

「なんか変なところで句読点つけるんだね」


 有葉は、少し呆れたように、鷹音を見た。

 鷹音は、最後に味噌汁を飲み干し、「ごちそうさま」と礼をした。


「……鷹音ってさあ、変なところで破滅型っぽいよね」

「悪いわね、破滅型で。芸術家って大抵そうらしいわよ」

「鷹音は芸術家じゃないじゃない。なーんか、将来堅実に銀行とか勤めてるイメージあるわ」

「堅実に、は確かにモットーだけど」


 鷹音は、そう答えて、食器を流し台に持っていく。

 慌てて有葉は、その後を追った。


「ちょっと、お皿くらい洗うわよ! 一応ご馳走して貰ったんだから! 」

「別に良いわ。この前もその前も、あなたが作ってくれて、あなたが後片付けしてたじゃない」

「良いから、鷹音は座ってテレビでも観ててよ」


 そう言って、有葉は、キッチンから鷹音をぐいぐい押して追い出した。


「……というか、あなた、家のことはどうしたの? 洋子さんは? 」

「ママはね、仕事人間だから、いつも帰るの遅いのよ。って、この話、あたしと生活始めた時に言ったじゃん! 聞いてないの? 」

「一応確認しただけよ」


 本当は、覚えていなかったのだが、鷹音はそう誤魔化した。

 その頃は、有葉のことを何とも思っていなかったし、酔狂な狐、としか考えていなかった。


「鷹音はさあ……なんか、他にやりたいことがあるように思えてしょうがないのよね」


 キッチンから、そんな声が聞こえる。

 鷹音は、振り返って言った。


「やりたいこととできることは違うわ」

「ほら、そういう風に達観してる。そういうんじゃなくて、もっと正直に生きれば良いのに」


「正直に……生きたら、誰も私のこと、好きになってくれないわ」


 鷹音は、ぼそりと呟いた。

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