第25話 デートに何着ていく?
「いけないかしら」
鷹音が、何もわかっていない風に言う。
江口は、指を立てて振ってみせた。
「Tシャツにパンツ、というシンプルな服装って、結構オシャレレベルが高いんですよ。下手すると、部屋着のまま来ました~って感じで、デートの特別感がなくなるじゃないですか」
「そうなの? 私は部屋着でも別に出歩けるけれど……」
「部屋着でデートに行かないでください! せめて、オシャレする努力を見せないと、七沢さんに飽きられちゃいますよ!? 」
鷹音は、少し考えて、それから、江口に向き直った。
「どうすればいいのかしら、江口先生」
「私もオシャレには疎いんですけど……たとえば、どうしてもジーンズがはきたいのなら、スキニーにして下半身をほっそりと見せるのがお勧めです。上半身も、Tシャツではなく、オーソドックスなら白のシャツ、襟は立てます。それか、肩見せするちょっとだぼっとしたシャツですね」
「すきにー」
鷹音は、首をかしげた。
「スカートの場合は? 」
「スカートだったら、シフォンスカートのふわっとしたものがお勧めです。柄は取り入れないでください。そこに、さっき言ったシャツをパンツインして今風に履くといいと思います」
「ぱんついん」
再び、鷹音は首をかしげた。
「これらは、ユニクロでは売ってないかもですが、しまむらなら今の季節、売っていると思います。縫製は雑ですが、デート一回で着るのなら、何よりお財布に優しいと思いますよ」
「そうなの。やっぱり江口さんに頼ってよかったわ」
鷹音は、そう言って、スクールバッグから、ルーズリーフを出す。
「私、ファッションの専門用語わからないから、ここにちゃっちゃとイラスト描いてくれる? 絵で見た方がずっとわかりやすいわ」
「は、はあ。ラフ画でよければ、すぐ描けますけど」
そう言って、江口は鷹音からルーズリーフを受け取ると、自分の筆記用具を出した。
そして、まるで猛獣が乾期のサバンナの水を飲むように、猛然と描き始めた。
「トップスは白いシャツかこういう、肩を出すもの。ボトムはシフォンスカートで、こうやってパンツインさせるってことです。わかりますか? 」
「え、ええ」
江口は、人が変わったかのように、すらすらと絵を描いていく。
その姿は、棟方志功もかくや、という感覚であった。
「柄物には手を出さないでください! 柄物はまた、ファッション上級者向けですからね! できるだけシンプルで! そして色はパステルを意識して! 」
「は、はい」
江口の、職人としての腕に、鷹音は思わず先生に接するような返事をした。
江口は、もう、顔と紙が付くのではないかと思うほど前のめりになって、ラフ画を書き終えた。
「はい、こんな感じですかね。……ん? なんで鷺村さん、ちょっと引いてるんですか? 」
「……別に、なんでもないわ」
鷹音は、スケッチを受け取る。
そして、それに目を落とした。
「ああ、スキニーって、あの細いやつね」
「……細いやつ……」
「シフォンスカートってぴらぴらのやつで、パンツインって上着をスカートに入れることね」
「……ぴらぴらのやつ……」
あんまりな鷹音のボキャブラリーに、江口は頭を抱えた。
「鷺村さん……せっかく美人なのに、ファッションにとんと疎いなんて……可哀想な……」
「し、失礼ね、これから頑張ろうと思ってるの、よ……」
鷹音は、尻つぼみになりながら、いじけてみせた。
確かに、鷹音は今まで、ファッションを気にしたことがあまりない。
元々、鷹音は「自分の持っているもの」を大切にしたい性分なのだ。
だから、制服も定期的にクリーニングに出すし、部屋着や衣装ケース2個分ほどの私服も、大事に着ていたのだ。
もしかしたら、その無頓着さが、女性にフられる前兆だったのかもしれない、と鷹音は考えた。
「で、デートプランなのだけど」
「プラン、ですか? 七沢さん、どこに行きたいとか言ってました? 」
「ショッピングして、食事して、しか言ってないわね。この辺だと、どこがいいのかしら? 」
「うーん……関東付近で、日帰りでムードの有るところ……といえば、横浜とかどうですかね? 東京でも、井の頭公園とかありますけど、あそこはカップルで行くと別れるって言われてますし」
「横浜ね……」
そこで、鷹音はひらめいていた。
スクールバッグからスマホを取り出して、操作する。
「決めたわ。横浜でぶらぶらして、一泊にする」
「え、えー!? と、泊まるって……いいんですか!? 」
江口が大げさに驚いてみせるが、鷹音はホテル予約サイトを開いていた。
「今更でしょう。……やっぱり、セミスイートが空いてるわ。ここにしましょう」
「セミスイート? スイートルームではなく? 」
江口も、きょとんとそんなことを聞き返す。
普通にスイートルームという単語が出てくる辺り、江口もかなりのお嬢様のようだ。
「スイートは空いてなかったのよ。ちょっとしくじったわね。でも、2人なら、セミスイートで十分だわ」
「ふうん? 」
江口が、鷹音のスマホをのぞき込む。
すると、鷹音は、続いてレストランの予約画面を開いた。
「どうせなら、とびっきりの夜を演出してあげるわ、有葉」
「うっわ、鷺村さん、悪い顔……」
江口は、少々引き気味で言った。




